『いざなぎ暮れた。』武田梨奈インタビュー:ドラマとアクションのバランスを保ちながら

 (C)2018 「いざなぎ暮れた。」製作委員会

2020年2月21日より島根県松江東宝5にて、3月20日より東京・テアトル新宿にて公開中の笠井望監督作品『いざなぎ暮れた。』は、ホストクラブの経営に行き詰って借金の返済に苦しむ崖っぷちの男ノボル(毎熊克哉)が恋人のノリコ(武田梨奈)を連れて、実の親戚にオレオレ詐欺(みたいなもの!?)を仕掛けるべく“神様に一番近い港町”島根県美保関町まで赴いてはみたものの……という、神話の詩情を携えた町で繰り広げられる騒動をブラック・ユーモア・タッチで描いたロード・ムービーです。

2019年に完成した本作は昨年から今年にかけて世界中の映画祭を回り、アメリカのデブス・オブ・フィールド国際映画祭最優秀外国作品賞やモナコ国際映画祭最優秀主演男優賞など数々の映画賞を受賞。

そして本作の主演女優・武田梨奈さんもインドのムンバイで開催された国際映画祭IN cinema of the world最優秀女優賞(コメディ映画部門脚本賞も)、アメリカのハリウッド・ヴァージ・フィルム・アワード最優秀助演女優賞を受賞しています。

『ハイキック・ガール』(09)『少女は異世界で戦った』(14)など、昭和の志穂美悦子以来久しく途絶えていた日本のアクション女優として名を馳せて海外でも活躍しながら、同時に『祖谷物語 おくのひと』(14)などノン・アクションのドラマ作品にも積極的という、あたかも海の向こうのスカーレット・ヨハンソンを彷彿させる意欲的な活動には大いに好感が持てるところ。

特にTVドラマ『ワカコ酒』シリーズ(16~)のほんわか独り呑みレディは多くの視聴者の共感と支持を得て久しいものがあります……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街450》

そんな武田さんが『いざなぎ暮れた。』で演じるのは、金髪でハスッパだけど気のいいキャバ嬢ノリコ。

また新しい役柄に挑戦した彼女に、作品のこと、そしてこれまでの歩みや今後の抱負などをじっくり聞かせていただきました!

短編映画出演のはずが
いつのまにか長編映画へ?

──まずは今回のオファーがあったときの印象などからお聞かせ願えますか。

武田:最初は15分の短編映画という風にお聞きしていて、それで台本をいただいたら、短編にしては結構な分量がある作品だなと思いました(笑)。それと今回は毎熊克哉さんとご一緒するということで、ぜひ共演させていただきたい役者さんの一人でしたので、すごく嬉しかったですし、実際現場でもすごく信頼の置ける方でした。

──短編ということでのオファーだったのに、シナリオは長編の分量だったわけですか。

武田:長編というほどでなかったのですが、何かぶ厚いなと(笑)。でも編集で切ったりして最終的に30分くらいまで短くするのかなと思ってたんですけど、いざ現場に行くと……実は今回の撮影は3日間だったんですよ。普通、長編だと短くても1週間くらいはありますよね。これはもう結構ハードでした(笑)。

──それって短編映画を撮るスケジュールで、結果として83分の長編映画を撮ったということですね!?

武田:はい、まさかの(笑)。

──映画を見ますと長回しの画が多いですよね。

武田:はい。ですから編集で短く切るのが難しかったのかもしれません。でも、結果として長編になって良かったなと思っています。

──低予算だったりタイトなスケジュールだと長回し撮影が多くなりがちですが、この作品に関してはそれが功を奏していますね。冒頭の東京から島根に向かう車の中の二人の会話が長回しで撮られてますが、あそこがすごく効いていて、お互いの関係性などが一発で感知できるんです。

武田 ああ、良かったです! あのシーンはすごく意識してやりました。

──その後も引きの画が多くて、すごく映画的な空間が構築されていると思いました。笠木望監督とのコミュニケーションなどはいかがでしたか。

武田:かなりコミュニケーションはとらせていただいたと思います。撮影に入る前はリハーサルもやらせていただきましたし、撮影中も時間のない現場ではあれ、夜ごはんだけはちゃんとみんなで食べようってことで、すごく素敵な時間と空間を作っていただけましたし、またそのときに「明日のこのシーンですけど?」みたいに相談させていただくこともできました。質問も結構しましたし、「こういうことやっていいですか?」とか。

──監督は演技指導などは密だったのでしょうか?

武田:リハーサルのときはすごく密だったのですが、現場に入ったら割と自由にやらせてもらえて、アドリブもやったりしました。オープニングのシーンも、私と毎熊さんしか車の中に乗ってなくて、前にカメラとマイクが置いてあるだけなんです。なのでカットの声がないまま、当分の間あれこれと自由に、たとえばケータイを取り出して写真撮ったりとか、ああいうのは二人の空間の中から自然に生まれていったものなんです。完成した作品を見ますと、そういったところを結構使ってくださっていたので嬉しかったですね。

──その意味では有意義な現場でもあったと。

武田:そうですね。撮影日数こそ少ないまでも、信頼を寄せられる時間を作っていただけたのが心強い現場でした。

前半と後半で雰囲気が
変わっていくノリコ

──その中で武田さんが演じられたノリコは、なんだかんだで可愛い女ですよね。

武田:わ、ありがとうございます(笑)。全体を通すとノボル君に振り回されているんですけど、前半と後半とで雰囲気を変えています。前半はノボル君に甘えたりとか……。たとえば「おなかすいたあ」「我慢しろよ」「ンもー」とか言ったり、「ここ行ってみたらアレ見つかるんじゃない?」とか言って怒られたりしても、ノボル君のためならって我慢しちゃう子なんですよ。つまり一歩下がってるタイプなんです。でも最後のほうでは一歩前を行ってますよね。それこそプロポーズみたいな言葉を投げかけられても素直に「はい」とは言わない。自分の意志を持ってノボル君と対峙するように成長しているんです。

──その前半と後半の切り替えのきっかけとなるのが、ノリコが地元の衆に立ち向かっていくところですね。そこでスイッチが入ったかのように見えて、その後の彼女の感情の変化などもスムーズに見ていられますし、確かに後半は完全にノリコがノボルをリードしています。

武田:そう見えていたら嬉しいですね。

──ただ、ノリコはきっと運動なんかしたことないタイプでしょうけど、武田さんが動くと何かやってくれるかな? と期待してしまう向きもあります。

武田:(笑)実は台本だと「ノリコ、後ろ回し蹴りでAを倒す。続いてBを飛び蹴りで」みたいに書いてあったんですけど、でもそれまで女の子女の子してた子が急に格闘家っぽくなると現実味がなくなるんじゃないかなと思って、監督に相談してああいう風に変わったんです。

──武田ファンとしましては飛び蹴りも見たかったけど(笑)、あれで正解ですね。一方で、おばあちゃんにちゃんと挨拶するとか、結構礼儀正しいところもある。

武田:そうですね。見た目は派手だけど、中身はすごくピュアな子にしたいなというのは意識しました。

──毎熊さんとのコンビネーションはいかがでしたか。

武田:実は以前ドラマで共演と呼べるほどではないほど一瞬だけご一緒したことがあって、毎熊さんの作品は良く見てました。また共通の知り合いが多かったもので勝手に親近感を抱いてましたし、毎熊さんもそういう風に思ってくださっていたみたいで、現場に入ったときもあまり緊張せずに、むしろ安心感を持ってやらせていただくことができましたね。

『いざなぎ暮れた。』は
パワースポット映画だ!

──島根県美保関でのロケはいかがでしたか。

武田:何せ時間がなかったのでゆっくり現地を堪能するというわけにはいかなかったのですが、劇中の「今、この目に見えているもの全てが、この町だよ」という台詞があるように、自分の目で見渡したもの全てが美保関だったので、たとえば朝起きて窓を開けると美保関の波風だったり空気だったり、そういうものをじかに体感できたのは良かったというのはありました。

──“神様に一番近い港町”といった雰囲気を肌で感じられたわけですね。

武田:ええ。初日に美保神社で撮影祈願させていただいたとき、目には見えないような何か心強いものをいただけたような気がしましたね。共演の“ネルソンズ”青山フォール勝ちさんは、あそこで祈願させていただいてから、仕事がものすごく増えたっておっしゃってました。つまり、この映画はパワースポット映画なんじゃないかと(笑)。でも短編が長編になり、世界中の映画祭で上映してもらえて、今回のテアトル新宿さんの上映も急遽決まったものだったんです。何かが導いてくださったのかなあと。

──完成したのは2019年の春くらいで、およそ1年経ってめでたく公開となったわけですね。

武田:そうです。2月に撮影して、春のおきなわ国際映画祭に出品して、そこから海外の映画祭をいろいろ回って賞までいただいて……。私もモナコの映画祭に行かせてもらったんですけど、みなさん笑って楽しく見てくださってました。そして2020年の2月に島根県で、3月に東京での公開となりましたので、本当にありがたい流れだったなと思っています。

自分が携わった作品を見て
どれだけトークが広がるか

──これまでの武田さんのキャリアを振り返りますと、今回の作品も含めて地方ロケの映画がかなり多いですね。

武田:そうなんです。今回の作品で島根県松江市の観光大使をやらせていただいて、『海すずめ』(16)でも愛媛県宇和島の観光大使を、『かぐらめ』(15)では山梨県都留市の観光大使と、映画を通していろいろなところで観光大使をいっぱいやらせていただいてて、なかなか出来るようなことではないので、本当にありがたいことだと思っています。

──地方で撮影する俳優はいっぱいいる中で武田さんにそういった依頼がよく来るというのは、やはり地元の人たちに何か感じ入らせるものがあるのでしょうね。

武田:やはりその町で暮らしている女の子の役が多かったりもしますので、限られた撮影期間の中でどれだけ自分がその町の人になれるかというのは意識していますし、撮影が終わったらその町を探索して地元の美味しいものを教えてもらって食べに行ったり飲みに行ったりするようにしていますので、努めて町の方々との交流もさせていただいてます。

──そういった姿勢もあってか、作品の規模の大小にかかわらず、武田さんが自分が何某かの興味ある作品に常に出られて、その都度好もしい印象をもたらしているようにも思えます。

武田:そう思っていただけたらありがたいです。私は自分が関わった作品を見た人たちの間で、どれだけその作品のトークが広がるか、すごく興味があるんです。ですので『いざなぎ暮れた。』もみなさんがいっぱいトークしていただけたら、こんなに嬉しいことはないですね。

──また、TV『ワカコ酒』シリーズ(16~)である種のキャラクターを確立された武田さんだからこそ、次は何をやってくれるのかという興味もあります。『いざなぎ暮れた。』のノリコにしても見た目はハスッパなキャバ嬢ということで、冒険されてるなと。

武田 ありがとうございます。

誰もできないアクションを
やる自信はある!

──一方で、私などはやはり『ハイキック・ガール』(09)を見て武田さんのアクションに圧倒されたクチでして、志穂美悦子以来の日本のアクション女優がようやく現れたということで、またそちらの方向も大いに期待しているのですが。

武田:まさに今そのことが私の課題なんです。『ハイキック・ガール』で評価していただけて、今でも海外の映画祭などに行くとみなさん『ハイキック・ガール』のことをおっしゃってくださいます。でも、あれを撮影してからもう12年ほど経ってますし、あれを越える作品を作らなければいけないとすごく思っているんです。

最近よく「アクション辞めたの?」って聞かれるんですけど全然そんなことはなくて、毎週稽古にも行ってますし、いつアクション作品のオファーが来ても大丈夫なように準備はしてるんですけど、企画がないんです。やるからにはがっつり格闘したいんですよ。でも企画がない企画がないって言ってばかりでも言い訳にしかならないので、これからは自分でも企画とか出してみたいと思っています。また自分が発信して説得力を持てるようになれば、一緒に映画を作ってくれるって人も出てくるんじゃないかなとも思いますので、今は目の前にある仕事をきちんとやりながらスキルを上げていきたい。いろいろ企んではいますので、頑張ります!

現在、『マッハ!!!!!!!!』のプラチャヤー・ピンゲーオ監督や『ザ・レイド』のギャレス・エヴァンス監督ともアクション映画をやろうということで連絡とり合ってて、ただなかなか上手くタイミングが合わないんですけど、この2,3年のうちには何某か動けるようにしたいですね。でも本当は日本でアクション映画を作って、日本から世界へ発信していきたいんです。

ですのでこの記事を読んでくださっている日本のプロデューサーや監督の方々、私は誰もできないようなアクションをやる自信がありますので、ぜひいつでも連絡してください!

いつでもアクション映画のオファーを
受けられるように稽古は怠らず

──ある時期から日本映画のエンタテインメントとしての伝統が途絶えてしまって、アクションにしても今は仮面ライダーや戦隊ものの流れがかろうじて継承しているくらいですよね。

武田:最近は空手の道場とかで若い子たちにジャッキー・チェンの話をしても、みんな知らないんですよ。もうカルチャー・ショックですよね。格闘系のタイトルもなかなか出てこなくて、カンフー映画とか知らない世代になってきている。これは悔しいなあと思います。ただ、先日倉田保昭さんの稽古に参加させていただいたときにおっしゃったことが「梨奈、これからは世代が回ってきて、俺たちの全盛期だった頃のような日本のアクション映画の時代がまた必ずやってくる。だからこの稽古を大切にしろ」と。私も今はそれを信じて頑張ってます。

出演が決まってから1、2か月練習するというのでは、やはり海外に勝てないと私は思っています。おととしプライベートで『マッハ!!!!!!!!』チームの練習に参加させていただいたとき、みなさん企画があろうがなかろうが、ずっとアクション映画の準備のために訓練をされてるんですよ。正直そういうスタンスが日本にないのは悲しいですけど、私はいつオファーが来ても受けられるよう稽古は続けています。そうじゃないと世界には行けないと思いますし、そういったスタンスは変えていかなければいけないということもこれから発信していきたいですね。

初めての映画企画への挑戦
『ジャパニーズ・スタイル』

──私が武田さんがいいなと思うのは、アクションとドラマ、両方のバランスをちゃんと保ちながら活動されているのがこちらにも伝わるところで、その意味ではノンアクションの『祖谷物語 おくのひと』(14)『リュウグウノツカイ』(14)を初めて見たとき、ものすごく感銘を受けたのです。

武田:『ハイキック・ガール』と『KG カラテガール』(11)をやった後に事務所に所属することになって、いろんなジャンルの映画やドラマのオーディションをいっぱい受けたのですが、審査員の方々が「これは学園ものなんだけど、知ってて来てるの?」「はい、もちろんです」「君、アクションの人なのに何で来たの?」とおっしゃったんです。それがすごくショックで。おそらく「空手はすごいけどお芝居はできない子」みたいな目で見られてたんでしょうね。でもこれは変えていかなければ、お芝居の勉強ももっとしなければと思って、そちらも追及していくようになったんです。

──今は『ジャパニーズ・スタイル』という新作映画の企画と主演を務めてらっしゃるとのことですが、これはアクションではないんですよね。

武田:アクションではないです(笑)。アベラヒデノブ監督とダブル主演の吉村界人さんとは何年も前からいつか映画を作ろうと約束していて、昨年ようやく実現に向かて動き出すことができました。今はようやく年末年始の撮影を終えて、もうすぐ編集が終わるところです。企画から携わるのは初めてのことで、まだ配給も劇場もこれから決めないといけなかったりと結構大変ではありますけど、これもすごく良いきっかけというか自分の転機になると思っていますので、どうぞ楽しみにしていてください!

《プロフィール》武田梨奈(たけだ・りな)

2009年、映画『ハイキック・ガール』オーディションで主演に抜擢。映画『祖谷物語 おくのひと』(14)『海すずめ』(16)、ドラマ『ワカコ酒』(16~)など多数の作品で主演を演じる。空手歴18年、琉球少林流空手道月心会黒帯。

(取材・文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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