『ROMA/ローマ』がアカデミー賞最有力の傑作と断言できる「8つ」の理由

第91回アカデミー賞で最多10部門のノミネートを果たしたNetflix製作映画である「ROMA/ローマ」。これまでの賞レースの結果とアカデミー賞競合ノミネート作品・過去の受賞データから見ても有利な条件をクリアし、監督賞は特に優勢となっています。

今回は本作がアカデミー賞最有力であり、かつ素晴らしき傑作であると思う8つの理由をお伝えしていきます。

理由1:前哨戦の結果は昨年と同じ

ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞から、ゴールデングローブ賞監督賞受賞という流れは、昨年のギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』と全く同じ流れです。

『ROMA/ローマ』がこの“勝利の方程式”に乗っかってきていることからも、受賞の可能性が高いと言えます。

特に監督賞はアカデミー賞全体候補作品の中でも有力な一本の『グリーンブック』のピーター・ファレリー監督がノミネートから外れています。その点でも、『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロン監督が圧倒的に有利です。

ノミネート数で並び、対抗馬と言える『女王陛下のお気に入り』は、英国色が強くてBAFTA(イギリスアカデミー賞)では獲れるかもしれませんが、アメリカのアカデミー賞では『ROMA/ローマ』が優勢です。またこの二作品はすでに第75回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門で直接対決済みで、ここで『ROMA/ローマ』が勝利しています。

理由2:“いまのアメリカ”という視点で見ても優勢

いま、アメリカではトランプ大統領の存在もあって人種というテーマを無視して物事を語ることはできません。その点でも“トランプの壁”で渦中の存在と言えるラテンアメリカ=ヒスパニック系の人々が主人公の作品というのは強いですね。

この視点で言うと『ROMA/ローマ』のキュアロン監督にとって、対抗馬はもしかしたら『女王陛下のお気に入り』より『ブラック・クランズマン』のスパイク・リー監督のほうがより強力な相手かもしれません。

今年のアカデミー賞ではブラックムービー旋風が吹き荒れていて作品賞に『ブラックパンサー』『ブラック・クランズマン』『グリーンブック』と三作品がノミネートされています。

その中で監督賞に名前が残った作品は『ブラック・クランズマン』のスパイク・リー監督だけです。そのためにブラックムービーへの票がスパイク・リー監督に集まる可能性もありますが、アカデミー賞会員の構成がリベラルな方向に向かっているとはいえ、まだ黒人監督に賞を贈るという英断を下すにはもう少し時間が必要だと思われます。

アカデミー賞アメコミ映画の『ブラックパンサー』を作品賞のノミネート作品に挙げたことがすでに偉業で、更にもう一枚ガラスの天井を一つ突き破るまでには至らないのではないかと思います。

かねてよりアカデミー賞に苦言を発信し続けるスパイク・リー監督とアカデミー賞との相性・関係性の良し悪しも響いてくるかもしれません。

他の二作品『COLD WARあの歌、2つの心』は外国語映画賞も含めたノミネート状況は『ROMA/ローマ』の後追い的な立ち位置ですし、『バイス』は監督の映画というより、俳優の映画というべき作品です、演技部門の中心の戦いになるでしょう。

理由3:断然の実績!!アルフォンソ・キュアロン

過去5回のアカデミー賞のうち、4回の監督賞受賞者がラテンアメリカ系監督です。

2013年の『ゼロ・グラビティ』でアルフォンソ・キュアロン監督が受賞したのを皮切りに、2014年と15年に連続で『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント:蘇りし者』のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督が2年連続アカデミー賞監督賞を受賞。そして昨年は『シェイプ・オブ・ウォーター』でギレルモ・デル・トロ監督が受賞。“スリーアミーゴス・オブ・シネマ”とも呼ばれるこの三人が近年、圧倒的な強さを見せています。

また、2010年代に拡げてみてもアカデミー賞監督賞を受賞した監督の中でアメリカ出身の監督は2016年の『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼル監督だけなのです。

理由4:圧倒的な完成度と映像美

この映画ではALEXA65という6Kの65ミリカメラが用いられています。これは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で使われ、2019年12月20日に日米同時公開が決定したの『スター・ウォーズ/エピソード9』でも使用されていると言われる高性能のカメラです。

アルフォンソ・キュアロン監督はその高性能カメラを採用した上で、敢えてモノクロで『ROMA/ローマ』を撮影しました。

そして今回、アルフォンソ・キュアロン監督が撮影監督も兼ねています。

『ゼロ・グラビティ』で組んだエマニュエル・ルベツキ(『ゼロ・グラビティ』『バードマン』『レヴェナント』と3年連続でアカデミー賞撮影賞を受賞した売れっ子撮影監督)のスケジュールが合わなかったこともあってのことですが、キュアロン監督の半自伝的映画『ROMA/ローマ』にとって、その映像は監督の目線にストレートに繋る必要があり、監督が撮影も担当するというこの展開はむしろ良いことと言っていいでしょう。

アルフォンソ・キュアロン監督と言えば『トゥモロー・ワールド』の6分間の長回し(ワンカット撮影)や『ゼロ・グラビティ』の宇宙飛行士も称賛する宇宙空間のシーンなど映像派監督としても知られていますが、今回もまた、時に静物画やポートレートのようにも見える美しい映像を堪能できます。

『ROMA/ローマ』のタイル張りの地面から始まり、飛行機が飛ぶ空のラストショットで終わるまでの様々なカメラワークにも要注目です。

ところで、映画『ROMA/ローマ』は物語としては大きな起伏があるわけではありません。

1970年代初頭のメキシコというとオリンピックも開催されるなど社会的・政治的に大きな動きのある時代でした。ただ、キュアロン監督はそんな社会的は動乱を物語の背景に設定しつつも、物語は何もないことを丁寧に描くことに徹しています。

ここでそのストーリーを少し、ご紹介していきます。

ストーリー

1970年のメキシコ・シティの高級住宅地の部類に入る“ローマ地区(=タイトルはここから来ています)”。そこでクレオは、裕福な中流階級の白人家庭で住み込みの家政婦として働いています。

このクレアという女性はキュアロン監督を育てた乳母のリボをモデルになっていて、映画の最後には“この映画をリボに捧げる”とクレジットされています。

一家の母親ソフィアや祖母テレサも真面目に働く彼女のことを信頼しています。

4人の子供たちも面倒見が良くて優しいクレオに懐いています。ただ、医者である家長のアントニオが留守がちで、またもやケベックに長期出張に出る予定です。実は、すでに夫婦仲は破綻しかけています。不満を募らせたソフィアはクレオやもう一人のメイド、アデラに時々八つ当たりをしたりすることも…。
そんなクレオとアデラにも恋人がいます。クレオの交際相手はフェルミン。

休日ごとにフェルミンとのデートを重ねていたクレオですが、ある時妊娠していることが発覚します。困った彼女はフェルミンに事情を打ち明けると彼はその場を立ち去り、二度とクレオのもとに戻ってきませんでした。クビを覚悟で恐る恐るソフィアに相談したところ、優しく受け止めてくれます。ソフィア自身も夫との関係に深く傷ついていて、クレオの境遇を他人事とは思えず、同情してくれます。

やがて、アントニオに若い愛人がいることが分かり、彼はソフィアたちを捨てて家を出ていきます。一方のクレオも、ようやくフェルミンの居場所を突き止め、話し合いの場を持とうとしますが、女子供は邪魔だと冷たく突き放されてしまいます。

そして、いよいよ出産予定日が迫ったある日、クレオは買い物先で、学生運動のデモ隊と警官隊の衝突に遭遇します。

店に逃げ込んでくる若者を冷酷に殺害する政府側に追随する暴力集団。その中には、なんとフェルミンの姿があって、去り際にクレオにも銃口を突き付けます。

ショックを受けたクレオはその場で破水してしまい、そのまま病院に運ばれていきますが、道路は暴動で大混乱していて、なかなか病院にたどり着けず…。

理由5:プロの役者をほとんど使わず、素の演技で進む物語

クレオを演じるヤリッツァ・アパリシオは本作が映画デビューとなる新人女優。

元々、話すことも苦手だった彼女は、『ROMA/ローマ』への出演が決まり、人と話すことに慣れるトレーニングから始めたというほどの全くの新人でした。

他のメインキャストも、その多くが現地の演技経験の少ない、または全くない人たちが起用されました。

このようなキャスティングもあって、セリフや演技も即興的な展開を採用して撮影は進められました。このキャスティング方法は全く機能しないか、逆にフレッシュでナチュラルな演技が映画にリアリティを与えるかのどちらかですが、『ROMA/ローマ』では完全に後者で、映画に圧倒的なリアリティを与えています。

結果としてヤリッツァ・アパリシオは第91回アカデミー賞の主演女優賞ノミネートを筆頭に多くの映画賞の主役の一人となり、一躍、ライジングスターとして映画界で注目の存在となっています。

理由6:現代に通じる不条理さの物語

『ROMA/ローマ』の物語の構成は、あるパターンの連続になっています。

それは現実社会にも通じる”不条理と矛盾”のエピソードです。

例えば、恋人との交際が順調だったのに妊娠の可能性が出ると恋人は責任逃れで姿を消します。

この時、映画館のスクリーンには戦争映画で戦闘機が撃墜されるという、まるで関係が破綻するのを予見させるようなシーンが映ります。『ROMA/ローマ』の中ではこのように何かの破綻を予感させるシーンがさりげなく挿入されていて、そんな描写も見逃せません。

またクレオの働く家は一見すると裕福で幸せそうな家庭に見えますが、実は家長夫婦の関係は破綻寸前です。

ペットの犬は愛らしく家族はもちろんクレオたち家政婦にもなついていますが、いたるところで粗相をして、クレオはその都度掃除して回ります。

ソフィアは高級車のフォードギャラクシーを乗り回しますが、家のガレージには大きすぎて入りません。

そして、最後の旅先のシーン、クレオのとった行動は皆から感謝されますが、彼女自身の心情は全く別のところにあります。

そもそも『ROMA/ローマ』がキュアロンの新作にも関わらずモノクロ・スペイン語映画ということでハリウッドメジャースタジオがどこも資金を提供しなかったという不条理な条件で生まれた映画でもあります。

つまり、劇中の”パターン化された不条理”はそのまま現実というモノを投影しているとも言えます。

理由7:キュアロンの女性賛美の姿勢

このように世界の不条理に翻弄される女性の姿が中心に描かれる『ROMA/ローマ』ですが、その中でもキュアロン監督の“女性の持つ強さへの賛美と尊敬の気持ち”を感じることができます。

思わぬ妊娠に戸惑い、恋人からは突き放されるクレオですが、それでも自分の力で前に進もうとします。

夫の不貞を知り時にはヒステリックな態度をとってしまうこともあるソフィアですが、思わぬ妊娠に戸惑うクレオには母親の先輩として親身に接します。クレオの同僚のアデラは楽しい時も悲しい時も笑顔と共に彼女を支えてくれます。

結婚生活が破綻しているソフィアを見守る母親のテレサは優しく、何事もないように娘と孫たちを、さらにクレオのことも“もう一人の娘のように”優しく接してくれます。
気が付けば、劇中の女性たちは血のつながりはないものの、心の部分で強くつながった家族のような関係性を築いていきます。

キュアロン監督はこの過程を丁寧に描くことで“監督自身の女性の強さへの賛美”をストレートに伝えることに成功しているのです。

理由8:映画の在り方・作られ方を変えるかのか? Netflixの大勝負

映画『ROMA/ローマ』のトピックとして無視できない事柄が、製作が映像ストリーミングサイトの雄、Netflixということです。

“映画の公開の在り方”をひとつに固定して他を排除していいのか?

という映画の在り方にという大きな問題に一石を投じる作品となっています。

カンヌ国際映画祭は映画館で上映を念頭に置かず、直接映像ストリーミングでの配信に向かう作品を映画として認めておらず、コンペティション部門のエントリーすら拒否しています。

その一方で、ヴェネチア国際映画祭ではウェルカムの姿勢で、結果として、『ROMA/ローマ』は最高賞の金獅子賞を受賞しました。

Netflixは劇場で公開されていないという批判に対して『ROMA/ローマ』を一部の劇場で公開し、柔軟な姿勢を見せました。

また、アメリカ映画協会(MPAA)にNetflixは映像ストリーミング会社として初めて加入が認められ、アメリカの映画界の中でハリウッドメジャーと肩を並べるスタジオであるとして確実に受け入れ始めています。

劇場公開されないことからアメリカの映画館チェーン会社が『ROMA/ローマ』をアカデミー賞関連作品の特集上映で上映を拒否したことが話題になりましたが、それがかえってNetflixの加入者を増やしているという話もあります。

少なくとも観客目線で言えば映画祭などの後に直に、映像ストリーミングでの配信というのは“あり”となっています。

『ROMA/ローマ』がアカデミー賞受賞にまでたどり着くと映画の作られ方も大きく変わっていくかもしれません。

そもそも『ゼロ・グラビティ』の監督の次回作がモノクロ・スペイン語映画と分かるとどこも資金を出しませんでした。そんな中でNetflixが出資を即決しました。

この後にも、すでに マーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロが9度目のタッグを組むことで話題のギャング映画「The Irishman(原題)』もNetflixが製作して、独占配信することに決まっています。今のハリウッドメジャースタジオではスコセッシ監督の最新作に高い製作費を出すスタジオはいないようです。

強力な資金力を誇るNetflixは、これ以外にも月に何作もトップスターを起用した長編映画をハイペースで配信し続けています。

2018年末に配信されたサンドラ・ブロック主演の『バード・ボックス』はクリスマスシーズンの中でも最も注目を浴びた作品となり、劇中の登場人物と同じように目隠しをして日常生活を送ろうとする“バード・ボックス・チャレンジ”が社会現象化しました。(そして、事故が多発して社会問題となってしまいました。)

このように『ROMA/ローマ』新しい作られ方で撮影され、賞レースでも中心的な作品となり、映画の新しい形に向かう第一歩となる可能性が高い作品です。

アカデミー賞の結果発表はまだですが、現時点ですでに映画『ROMA/ローマ』は圧倒的な映像美、清新なキャスト、監督の想いが込められた物語、全く新しい造られ方、などなどどの切り口から見ても映画史に残る傑作になっています。

2月24日のアカデミー賞授賞式ではいくつの栄冠が『ROMA/ローマ』を彩り、さらに作品の価値を高めてくれるのか楽しみでなりません。

(文:村松健太郎)

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    ライタープロフィール

    村松健太郎

    村松健太郎

    村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年目に入った映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方で各種記事を執筆。

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