『聖杯たちの騎士』の奥に潜む『8 1/2』的な愛と映画の迷宮

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

寡作家という言葉があまりにも似合っていたテレンス・マリックが、ここ数年新作を発表し続け、すっかりその称号を返納しようとしている。しかも、その度にオールスターキャストになりながらも、作家としての思想性を一切ブレさせることなく作品を生み続けるのだから、俳優たちが出演を熱望するのも頷ける。
12月24日から公開された『聖杯たちの騎士』は、クリスチャン・ベイルをはじめ、ケイト・ブランシェット、ナタリー・ポートマンといったオスカーウィナーから、イモージェン・プーツやフリーダ・ピントら新進気鋭のスター候補が集う幻想的な愛のドラマである。

〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.12:『聖杯たちの騎士』の奥に潜む『8 1/2』的な愛と映画の迷宮>

聖杯たちの騎士 メイン

(C)2014 Dogwood Pictures, LLC

ベイル演じる脚本家は、日夜ショウビズ界の享楽に浸り、パーティーに明け暮れる。しかし彼は、ブランシェット演じる妻との関係や、家庭崩壊によって落ちぶれてしまった弟、そして新たに訪れた大きな仕事に悩まされていた。そんな彼の前に、次から次へと現れる女性たち。彼女たちから与えられる愛情と助言に導かれて、愛と人生の真実に近付いていくのだ。

『地獄の逃避行』と『天国の日々』での鮮烈な初期を過ごしたテレンス・マリックは、『シン・レッド・ライン』まで20年の沈黙を守り続けた。2010年代に入り、長い公開延期を経て完成した『ツリー・オブ・ライフ』は、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。人生と家族、そして宗教観について論じたその神秘的なドラマは、賛否両論を巻き起こした。続く『トゥ・ザ・ワンダー』はある愛を巡る物語であり、それを踏まえると近2作のテーマを集約させて、自身が身を置くショウビズ界に落とし込んだのが今回の『聖杯たちの騎士』ということだろうか。

ショウビズ界に生きる男の苦悩と、そんな彼を導き、さらに悩ませる女性たちという構図を前にすると、否が応でもフェリーニの『8 1/2』を想起せずにはいられない。

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フェデリコ・フェリーニの最高傑作どころか、20世紀の映画を代表する名作として今なお語り継がれる『8 1/2』。医者の勧めで温泉地に療養にやってきた映画監督のグイドは、クランクインが迫る新作の構想が固まらずにいた。そのせいで出資者との関わりにはストレスばかり募り、さらに妻や愛人との関係にも苦悩し、精神的に追い詰められていく。そしてグイドは幻想へと逃避し、現実との間を往来し始める。

もちろん言うまでもなく優れた映画なのだが、フェリーニ作品ではもっと優れた作品が山のようにある。それでもこの映画が持つ不可思議な魅力によって、時折何かを思い出したように観てしまうのだ。グイドを演じるマルチェロ・マストロヤンニを筆頭に、クラウディア・カルディナーレ、アヌーク・エーメ、サンドラ・ミーロといった当時の人気女優がそれぞれに貫禄を示す。

現実のシーンと幻想シーンの境目が、どんどん曖昧になっていく意地の悪さや、幾度も繰り返される横移動ショットに、映画を観ているという実感が湧き上がってくる。そして何と言ってもクライマックスの巨大セットを前にした場面は実に美しい。モノクロームの画面でありながら、その場面に本来映し出されていた色の姿を容易に思い浮かべることができるのだ。

『8 1/2』のマストロヤンニが、フェリーニの映画監督としての苦悩を代弁していたとするならば、この『聖杯たちの騎士』のベイルは、20年間監督業を退き、脚本を書き続けていた頃のマリックの姿なのだろうか。強いて両作の大きな違いを挙げるとするなら、マストロヤンニが常に死相を携えていた『8 1/2』に対し、この『聖杯たちの騎士』は死が隣り合わせではないということだ。〝生〟に必要な、愛情と信仰心を模索する、極めてポジティブな物語として捉えることができよう。

相変わらず様々な角度から、ありとあらゆる方向へ向かって動き回るエマニュエル・ルベツキのキャメラは、さすがに見慣れてきただけあって、不思議と安心感を覚える。さらにはすべからく美しく撮り上げられた女優陣に息を呑むにちがいない。とくにナタリー・ポートマンは、これまでのキャリアで最も美しく撮られているのではないだろうか。

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(文:久保田和馬)

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    ライタープロフィール

    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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