7月23日より映画『ロスト・バケーション』が公開されています。ジャンルとしては“サメ映画”となるのですが、そんじょそこらのサメ映画と思うことなかれ。サメ映画ファンはもちろん、全映画ファン必見と言える素晴らしい作品であったのですから!
ここでは、映画ファンが絶対に『ロスト・バケーション』を観るべき10の理由を挙げます。ネタバレはいっさいありません!
1.出てくるのはサメ1体!
世の中には、さまざまなサメ映画があります。
竜巻に乗って大量のサメが飛んでくる『シャークネード』、砂浜でサメが泳ぎまくる『ビーチ・シャーク』、幽霊化したサメが襲ってくる『ゴースト・シャーク』、頭が3倍になったおかげで食事量も3倍になった『トリプルヘッド・ジョーズ』など、アイデア満載かつ出オチ感満載のB級サメ映画もたくさん作られていました(そういう映画も大好きです!)。
しかし! この『ロスト・バケーション』で出てくるサメはたったの1体! なんの特殊能力も持たない! 出てくる場所も1ヵ所のみ! 昨今のサメ映画ではたいへん珍しい“小細工なし!” “直球勝負”な存在なのです!
2.サメ映画版『トレマーズ』だ!
出てくるのがふつうのサメ1体、場所も限定されているかといって、本作がアイデアに乏しいということは決してありません。主人公は小さな岩肌や、“あるもの”に登ることで、サメの襲撃を回避していくのです。
これは、高いところに移動すればモンスターから逃れられるという“高鬼ごっこ”的なおもしろさがあった映画『トレマーズ』のようです。
しかも、この狭い場所であっても、主人公はさまざまなギミックを使ってサメと戦っていくのです! そのアイデアの数々には驚き、興奮できるでしょう。
3.サメ映画版『127時間』だ!
岩と岩の間に挟まってしまった男を描いた映画『127時間』は、空腹や時間の経過に耐えるサバイバル映画として優れていました。本作にも、その“長時間におけるサバイバル要素”があるのです。
何せ、主人公は岩肌に取り残されてしまい、そこからほとんど身動きが取れなくなってしまうのですから。
残酷にも時間はどんどん過ぎていき、あたりは暗くなっていきます。彼女がすでに深い傷を負っているということもあいまって、“長く苦しい時間”がしっかりと表現されているのです。
4.サメ映画版『ゼロ・グラビティ』だ!
宇宙空間を舞台としたサスペンス映画『ゼロ・グラビティ』は、極限状態にいる人間の心情や生存のための“勇気”が描かれ、“生きる理由”というメッセージまでもが示された作品でした。
本作も、(極限状態に限らず)生きるためにどうすればいいか、なんのために生きるのか、という哲学的な問いかけがされています。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、終盤の1シーンには、はっきりと『ゼロ・グラビティ』と同じ精神性を持っていると感じるシーンもありました。
5.『ジョーズ』にも匹敵する恐怖!
サメ映画の金字塔『ジョーズ』は本当に恐ろしく、おもしろい作品でした。無残な死体をさらし、人々が泣き叫び、人喰いザメという存在を観客につきつける恐怖描写がとにかく優れていたことが、名作となった理由のひとつでしょう。
本作においても、サメが登場してからの恐怖描写は圧巻です。ときには死体やサメの姿をハッキリと見せて、ときにはあえて見せずに“想像にお任せする形”で……ゆっくりと、しかし確実に恐怖を示していく演出は、『ジョーズ』に勝るとも劣りませんでした。
–{過酷な撮影現場も要チェック!}–
6.エンタメ&サスペンスの名手、ジャウマ・コレット=セラ監督最新作!
本作の監督は、『エスター』『フライト・ゲーム』『ラン・オールナイト』のジャウマ・コレット=セラ。エンターテインメント性に優れたサスペンス映画を得意とする実力派です。
本作でもその手腕はいかんなく発揮。穏やかな展開が続くと思いきや、“いつ急に襲って来るかわからない恐怖”もあり、始終緊張感が保たれた画作りは、娯楽性抜群です。
『フライト・ゲーム』にあった、“スマートフォンの画面を空間に表示させる”編集も、展開のスピーディーさとスタイリッシュさに一役買っています。退屈になりがちなドラマ部分を手早くまとめるのも、セラ監督らしさです。
7.撮影現場は超過酷! ブレイク・ライヴリーの熱演を見逃すな!
本作の主演を務めるのは、テレビシリーズ『ゴシップガール』で人気を博し、『アデライン、100年目の恋』で100年以上の時を29歳の姿のままを生き続ける女性を演じたブレイク・ライヴリー。彼女は、『デッドプール』で主役を演じた俳優ライアン・レイノルズの妻でもあります。
その撮影環境はとにかく過酷! スタジオ内の水槽で、ライヴリーはほぼすべてのアクションを自分でこなすばかりか、ときには週に6日、1日最大12時間を水中で過ごすこともあったのだそうです。しかも撮影中に鼻を強打したため、そのときの鼻血が本編に使われ“メイクいらず”の状態にもなったのだとか。
セラ監督やスタッフの努力も尋常ではありません。スタッフがライヴリーと同様に1日中水槽の中にいたことや、単なる会話シーンであってもカメラと人物を固定するためにボード9隻と70人のスタッフとダイバーが必要としたこともあったのだそうです。
一見して、登場人物は少なく、撮影場所も限定されているため、労力とお金のかかっていない映画に見えるところですが、実はそうではないのです。映画を観れば、スタッフたちがいかに努力して、妥協のない画作りをしていたかがわかるでしょう。
8.上映時間は90分未満!
本作はその上映時間も魅力的です。なんと最近の映画にしては珍しく、86分と1時間半を切っているのです。
このランタイムだからといって、内容が薄いなんてことはありません。短い時間にギュッと情報が圧縮、緩急をつけた展開がたっぷり、見どころ満載なので、満足度はかなり高いでしょう。
9.主人公が“医学生”であることも重要だった!
主人公が医学生という設定が、物語にうまく機能しています。その医学知識のおかげで自身のケガの“応急措置”ができることはもちろん、彼女自身の人間としての成長に深く関わってくるのですから。
なぜ彼女が医者を志したのか、今どのような心境にいるかは、父親との電話での会話でわかるでしょう。
また、主人公がスペイン語をあまりしゃべれないというのも、サスペンスに見事に活かしています。
この映画は、こうした“会話がしにくくなっている”設定を通して、コミュニケーションの大切さを訴えているのかもしれません。
10.原題『THE SHALLOWS』の意味も奥深い!
本作『ロスト・バケーション』の原題は『THE SHALLOWS』。Shallowの意味は、“浅い”ほかに、“浅はかな(浅薄な)”とあります。
この原題は、主人公が“狭い”岩肌でじっと過ごさないといけなくなるというシチュエーションのほかにも、彼女の“見識の狭さ”を表現しているのではないでしょうか。
家族や自分の未来に対して、彼女がどのような見識を広げ、成長していくかも、本作の見どころとなっています。
まとめ:ここに注目して観てほしい!
本作はこれまで書いたように、単純なサメ映画というだけでなく、サバイバルもの、主人公が成長する人間ドラマの側面も、格調高く、魅力的に仕上がっています。
登場人物がサーフィンをする様子も、音楽の魅力もあいまって迫力のある画になっています。サーファーにとっても必見でしょう。
注目してほしいのは、主人公が海岸に着いたときに口にした“島の形”です。これも観終わってみれば、奥深いものになるのではないでしょうか。
もうひとつ注目してほしいのは、主人公の心強いパートナーとなる“カモメ”です。このカモメはCGではなく本物で、その一挙一動はかわいらしく、見事な“演技”をしています。主演男優(女優?)賞ものの、カモメの素晴らしい演技も堪能してください!
(文:ヒナタカ)