映画コラム

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2017年08月06日

『少女ファニーと運命の旅』で未来へ語り継ぐ、ナチス占領下フランスの子供達

『少女ファニーと運命の旅』で未来へ語り継ぐ、ナチス占領下フランスの子供達

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」



(C)ORIGAMI FILMS / BEE FILMS / DAVIS FILMS / SCOPE PICTURES / FRANCE 2 CINEMA / CINEMA RHONE-ALPES / CE QUI ME MEUT - 2015


イスラエルで暮らすファニー・ベン=アミというひとりの女性が発表した自伝が、2011年にフランスで大きな話題となる。ナチス占領下のフランスから、子供たちだけでスイスに逃げた実体験を記したこの自伝は、不条理な世界の中で生き続けた子供たちから現代を生きる人々へ、〝二度と繰り返してはならないが決して忘れてはならない歴史〟の存在を伝える。

その自伝を基にした映画『少女ファニーと運命の旅』が8月11日より全国ロードショーとなる。生きること、離れ離れになった家族と再会することを決して諦めない子供たちの姿に、きっと心を打たれるだろう。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.43:『少女ファニーと運命の旅』で未来へ語り継ぐ、ナチス占領下フランスの子供達>

少女ファニーと運命の旅 ポスタービジュアル


(C)ORIGAMI FILMS / BEE FILMS / DAVIS FILMS / SCOPE PICTURES / FRANCE 2 CINEMA / CINEMA RHONE-ALPES / CE QUI ME MEUT - 2015


1943年、ナチスドイツ占領下のフランス。母親と離れ、幼い妹たちとユダヤ人支援組織の施設に預けられたファニー。ある時、ドイツ軍が施設に迫っていることを察知した責任者のマダム・フォーマンは、子供たちをスイスに逃がそうと決意する。しかし、スイスへ向かう道中、子供たちを先導していた青年・エリーが、ドイツ兵の姿を見て逃げ出してしまう。彼の代わりに他の子供たちを率いることになったファニーは、不安に駆られながらも、仲間たちと絆を深めながら国境を目指し始める。

本作を手がけたローラ・ドワイヨンといえば、96年に世界中で大絶賛された『ポネット』のジャック・ドワイヨン監督の娘。さらに、本作でマダム・フォーマンを演じたセシル・ド・フランスの出世作『スパニッシュ・アパートメント』を監督したセドリック・クラピッシュの妻であり、妹は女優のルー・ドワイヨンという、フランスきっての映画家系の出身。まだ長編キャリアが浅いとはいえ、『ポネット』で主人公のヴィクトワール・ティビソルを最年少でベルリン国際映画祭女優賞に導いた父親譲りの、子供を描くセンスを遺憾なく発揮する。

この極めて重厚なテーマを、シンプルな語り口で紡ぎあげ、死と隣り合わせとなる危険な旅をする子供たち。それでも彼らは感情を失わずに、時に仲間たちとぶつかり合いながら、ひたむきに〝生きる〟ということを求めるのだ。

これまでも、ナチス占領下のフランスを舞台にした映画が数多く作られてきた。フランスの近代史上で最も記憶しなければならないこの時期を、例えば終戦直後にルネ・クレマンが『禁じられた遊び』で描いたように、子供の目線で振り返ることが、映画として未来へ残すひとつの選択肢といえるのではないだろうか。

近年徐々に、当時の真実が明るみになり、映画の中での描かれ方も変化してきた。国策によって迫害されたユダヤ人について多く描かれるようになったのだ。それは、当時起きたヴェルディヴ事件の存在を95年にシラク政権が認めたことがひとつの契機となった。

サラの鍵 (字幕版)



2010年に東京国際映画祭でグランプリを獲得し、翌年日本でも公開されたジル=パケ・ブランネール監督の『サラの鍵』は、そのヴェルディヴ事件の犠牲者家族と、現代で生きる人々を繋ぐ物語。ナチス占領下のフランスで、ユダヤ人に対して何が行われていたかを知る上で、極めて重要な一本である。

アメリカ人女性ジャーナリストのジュリアは、夫の両親からパリのアパートを譲り受ける。ちょうど同じ時期に、戦時中のヴェルディヴ事件について取材を重ねていた彼女は、自分たちが住もうとしているアパートが、当時ユダヤ人家族から接収したものだと知る。ジュリアは、そのアパートに暮らしていたサラという名の一人の少女の足跡を辿り始めるのだった。

ナチス同様にユダヤ人を迫害するフランス人がいたこと、その中でもユダヤ人を命がけで守ろうとする人々もいたこと、どちらも決して忘れてはならないだろう。後者は「正義の人」と呼ばれ、今では讃えられる存在になっている。

『少女ファニーと運命の旅』では、セシル・ド・フランス演じるマダム・フォーマンや、終盤で彼らを助ける農夫のジャン(ステファン・ドゥ・グルーと)、そしてはっきりと登場はしなくとも、支援組織がそれに当たる。彼らの存在があったからこそ、子供たちの希望を守り抜き、現代にその記憶を繋ぐことができたのである。

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(文:久保田和馬)

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