実は、橋本環奈版「ヘイトフル・エイト」だった、「セーラー服と機関銃-卒業-」

公開前から、ネットでのユーザーレビューが予想以上に高得点。観客からの評価も絶賛が多い、「セーラー服と機関銃-卒業-」。
しかし、ポスターのデザインから受ける印象、そしてアイドルの橋本環奈主演という事で、スルーを決め込んでいる映画ファンの方も多いのではないだろうか?

セーラー服と機関銃 -卒業-

(C)2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会

結論から言おう。大丈夫、その心配は無用だ!

とにかく、ポスタービジュアルから受ける印象で、単なる「アイドル映画」あるいは「若い人向けの映画」だと判断すると、絶対に損をする作品、それがこの「セーラー服と機関銃-卒業-」だ。

まず、原作小説で物語の中心となる女性登場人物たちを一気に排除し、やくざ組織のハードな対決構造にシフトさせた製作側の英断に、心からの拍手を送りたい。

原作そのままで映画化すれば、他にも女性アイドルを何人も出す事が出来て、よりコアなファンの集客に成功したと思うが、敢えてそれをしなかったスタッフの姿勢こそが、本作成功の最大の要因だからだ。

更に、原作の基本設定を生かし、旧作へのオマージュをしっかり捧げつつも、単なるノスタルジーや観客への「目配せ」には終わらせていない。

セーラー服と機関銃 -卒業-

(C)2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会

旧作で印象的に使われていた、1シーン1カットの長回しがあるのはもちろんだが、本作での映画的手法、映画だからこそ成立する魔法の様な表現には驚いた。

旧作の設定は、主に過去の回想として後から語られる事になるのだが、きっと昔からの角川映画ファンには、その回想シーンでの大林宣彦的表現に「おおっ!」となるに違いない。

特に一番印象に残るのは、やはり主人公の持つ機関銃の乱射シーンだ。

意外なところで登場する、その名シーンへのオマージュは、ラストでもう一度登場するのだが、もはやそこには旧作にあった様な「カタルシス」は存在しない。

そう、この映画は決して甘くない。

原作小説にあった、青春物やミステリー要素は影を潜め、現代社会の抱える様々な現実問題(危険ドラッグや高齢化社会の介護など)をテーマとして、よりハードな内容に大きくシフトすると共に、主人公の周りには、とにかく死の影が常に存在する世界が広がっているのだ。

それを象徴するのが、映画終盤で展開する、まさに「ヘイトフル・エイト」的な場面。その中で語られる、安藤政信演じる敵ボスの主張が正論に聞こえる程、我々観客の倫理観や常識も、大きく揺さぶられる事になる。

セーラー服と機関銃 -卒業-

(C)2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会

今回、主人公の機関銃がどこに向かって放たれるのか?
奇麗事や大義名分ではない、主人公自身の心の叫びと共に、彼女の機関銃が破壊した物とは何だったのか?
今回の映画化で明確に設定されたその矛先に、是非とも注目して見て頂きたいと思う。

冒頭で述べた女性登場人物の排除と並ぶ、原作との大きな変更点は、登場する悪役たちの設定だろう。原作に登場する悪役の男たちは、皆どこか人間臭く憎みきれない部分が残されており、そのため全体的にどこかライトな印象を受ける。

特に原作では、安藤政信が演じる悪役の安井は60代の老人であり、地上げで儲けようとする悪人でありながら、愛人への愛情に厚いなど非常に人間臭い描写がある。

そう、実は原作で一番凶悪なのは、本来主人公が守るべき街の住人代表の老人だったりするのだ。映画でも、本来自分が守るべき商店街の住人たちが、主人公たちの敵に回るシーンがあるが、この部分の設定に関しては、原作の方が更に重く救いが無いといえる。同じく、奥野瑛太演じる、安井の右腕である殺し屋の瀬田も、原作に登場するのだが、そのキャラクターは大きく変更されている。

本編中で見せたような、無感情の殺人マシーン的なキャラ設定は映画オリジナルのものであって、原作では、映画で長谷川博己が演じた月永の様な性格設定であり、悪役でありながら自分のルールに従って、卑怯なマネはしないというキャラとなっている。
映画版で見せた見事なナイフ戦シーンと相まって、観客に強烈な印象を残すこの変更は、見事に成功したと言って良く、俳優奥野瑛太の今後の活躍にも期待したいところだ。

そして、これら悪役たちと見事な対比を見せるのが、武田鉄矢の軽妙な演技だと言えるだろう。彼の肩の力を抜いた様な演技が、ラストで実に効いて来る。

セーラー服と機関銃 -卒業-

(C)2016「セーラー服と機関銃 -卒業-」製作委員会

しかし、これだけの男臭いキャストに囲まれて一歩も引かず、見事に自身の姿をスクリーンに焼き付けた、橋本環奈の演技力と存在感はどうだ!

暴力的な世界に放り込まれ、周りを屈強な男達に囲まれながら、一歩も引かず見事にガッシリ受け止めた、彼女の女優としての器の大きさ、そして真っ直ぐな立ち姿!とにかく、逃げていないのだ。しっかり踏みとどまって、立ち向かい受け止める。彼女のその姿勢が、美しいのだ。

映画の開始時点で、橋本環奈演じる主人公は既に組長として機能しており、自分から積極的にトラブル解決に乗り出す。この主人公の動機に説得力を与えるのが、先代の目高組組長である叔父さんが、「主人公の眼の前で殺された」という、映画オリジナルの設定だ。

ただ原作では、過去に敵対する浜口組と手打ちに持ち込んだ事で、目高組の名声はやくざ社会に知れ渡り、組の解散後も主人公が裏社会から一目置かれている、という記述があるのだが、その辺の事情は映画だけ見るとちょっと判りにくい様な気がした。

可愛い女子高生が、やくざ達と対等に渡り合うシーンを受け入れられるか?は、意外と本作の評価にも大きく影響すると思うので、原作を読まれてから映画を見るのも、本作をより深く楽しむためには、良い方法かも知れない。

ただ、自分より遥かに年上の敵対する組長と対峙しても、一歩も引かない橋本環奈の素晴らしい演技が、それに説得力を与えているのは間違いない、とだけ言っておこう。

「アイドルが主演の可愛いだけの映画」、あるいは「ぬるい表現の青春映画的展開」を予想していた我々の考えを、文字通り機関銃で打ち砕く様なこの映画。

是非とも劇場に足を運んで、新たな映画スターの誕生の瞬間を目撃して頂きたい。

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(文:滝口アキラ)


    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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