『スパイダーバース』に燃えた方必読!原作コミックスとの違い・疑問点を全力で語る!

3月8日の劇場公開後も、続々と絶賛の声が寄せられている話題の長編アニメーション映画『スパイダーマン:スパイダーバース』。実は今回の映画化にあたっては、より幅広い観客層が楽しめる様に、原作コミックスからの大幅な変更が行われている。

そのお陰で、基本的に原作コミックスの知識が無くとも楽しめるのだが、続編へのヒントや伏線、更には映画では詳しく描かれないので疑問が残ってしまう点など、原作コミックスに触れていれば、より深く楽しめるのも事実。

そこで今回は、原作コミックス「スパイダーバース」と映画版との違いや改変点について、詳しく解説してみようと思う。

映画のOPから、既に挑戦的だった!

実は本編が始まる前、既に映画のOPから最大のギャグが登場している本作。

そう、映画が始まってすぐスクリーンに映し出される“あるマーク”こそ、本作が原作とはまるで別物になったことを観客へ伝えると同時に、製作者側が本作に対して、いかに自信を持っているかの証明だと言える。

何故ならあのマークこそ、アメコミの歴史に悪名高い“コミックスコード”のマークだからだ。

※この“コミックスコード”の暗黒の歴史や、どういう目的で作られたかは、以前紹介した『ミスター・ガラス』の記事で詳しく解説しているので、そちらでご確認頂ければと思う。

では、次第にエスカレートするコミックスの過激な表現への、自主規制として用いられたこの忌まわしいマークを、わざわざ映画のOPに持ってきた、その意図とは何か?

まず、かなり残酷な描写が登場する大人向けのグラフィックノベルだった原作コミックスを、子供や親子連れでも楽しめる人間ドラマに変更したことを、逆説的にコミックスコードのマークを用いることで、観客に伝える目的だったということ。

もう一つは、確かに今時のアニメに迎合したかの様に見えるが、原作コミックスが伝えようとしたテーマや本質は一切変えてないから安心して! という、コミックスコードがかつて行った第三者による表現の弾圧では無く、製作者が確かな意図と自信を持って今回のアレンジを行ったことを宣言する目的として、あえてこのコミックスコードのマークを映画のOPに登場させた、と見ることも出来るのだ。

これから鑑賞される方は、是非このOPに登場するマークを、お見逃しなく!

そもそも原作での展開は、2001年まで遡る!

今回の映画版と原作コミックスで一番違うのは、スパイダーマンたちと闘う悪役の設定だ。

原作コミックスで登場する悪役は、本来“インヘリターズ”と呼ばれる集団。この一員で、全スパイダーマンの宿敵となるモーランがコミックスに初登場したのは、実に2001年のこと。一度倒してもクローン培養された体を使って何度でも蘇る、正にバンパイア的キャラクターなのだが、さすがにこの悪役をそのまま使うのは、明らかに子供向けのアニメには不向きなため、今回は過去の名悪役が総出演する内容に変更した点は、観客からの絶賛評が証明する通り、正に大正解だったと言えるだろう。

実際、映画版の元となっている「アルティメット・スパイダーマン」の原作コミックスでは、脱獄したドクター・オクトパスが悪人集団“シニスター・シックス”を組織して戦いを挑んでくるという展開になるだけに、次はどの悪役がスパイダーマンたちと対決するのか? 我々観客の期待も膨らむばかりだ。

何故、今回は“アルティメットバース”の物語になったのか?

もう一つの大きな改変点は、本作の舞台となるのが、多元宇宙に存在する様々な平行世界ではなく、ピーター・パーカーの死後にスパイダーマンの名を継いだ13歳の少年、マイルス・モラレスが活躍する「アルティメット・スパイダーマン」の世界。つまり、スパイダーバース全体の中のアルティメットバースでの物語に限定されているという点だ。

そのあまりに長い連載期間により、ストーリーや設定が複雑化してしまい、新しい読者が参加するには非常に敷居が高くなってしまっていたマーベルのコミックスたち。そこで新しい読者が一から参加出来る様に、もう一度現代に即した設定や発想で、スーパーヒーローの誕生秘話から再構築しようとしたシリーズ、それが「アルティメット」タイトルのシリーズだった。

そのため、今回アニメ作品として低年齢層や親子連れの観客にも分かりやすい内容が必要とされただけに、新しい読者にも優しい「アルティメット・スパイダーマン」の世界感がメインの設定として使われたのは、十分に納得出来る。

加えて、原作コミックスで「スパイダーバース」が展開していたのと同時期に、テレビではアニメ版『アルティメット・スパイダーマン』が放送されており、実はこのアニメ版のエピソードとして「スパイダーバース」のストーリーが一足先に映像化されていた点も、今回の大幅な改変への大きな要因だったと言えるだろう。

ちなみにこのエピソードには、映画版に登場した“スパイダーマン・ノワール”と“スパイダー・ハム”が登場しており、今回の映画版への二人の起用も、既にアニメ版で子供たちに馴染みがあったからということが推測出来るのだ。

以上のことから、今回の映画版『スパイダーバース』をより楽しむためには、全3冊にわたる原作コミックスを読むよりも、出来ればピーターとマイルスの二人が共演するコミックス「スパイダーメン」や、日本でも地上波で放送された『アルティメット・スパイダーマン』のアニメで予習された方が、きっと本作をより深く理解する近道になるはずだ。

ちなみに映画館の売店では、ちゃんと「スパイダーメン」の日本語版が販売されているので、鑑賞後に興味を持たれた方は、そちらもご購読されてみては?

注:ここからは映画のネタバレを含みます。これから鑑賞を予定されている方は、鑑賞後にお読みいただくか、十分にご注意の上でお読みください。

そもそも、マイルスを噛んだクモはどこから来たのか?

公開後も絶賛評が並ぶネットの書き込みの中で、いきなりピーター・パーカーが死ぬ! という衝撃の展開に驚いた、という感想も多かった様だ。

実はこれは「アルティメット・スパイダーマン」の原作コミックス通りの展開。

更に原作では、マイルスにヒーローとしての心得や技術を教えるのが、何と死んだピーター・パーカーの女性体クローン! という展開があるのだが、今回の映画版ではこの部分が、中年太りで人生に挫折しかかっているピーター・B・パーカーという、別世界のだらしないオッサンのスパイダーマンになっており、実に見事なアレンジを見せてくれている。

だが、ここで大きな疑問として浮かんで来るのが、そもそもマイルスがスパイダーマンになるきっかけを作ったあのクモは、いったいどこから来たのか? 誰がどうやって作ったのか?ということ!

そもそも映画の中では、この大事な部分がほとんど説明されていないため、映画を観ただけでは理解不能だった方も多かったのではないだろうか。

実はこの部分も、原作コミックス「アルティメット・スパイダーマン」からの引用であり、コミックスの設定では、スパイダーマンの宿敵“グリーン・ゴブリン”の正体である、ノーマン・オズボーンの会社“オズボーン・インダストリー”が、遺伝子操作で生み出したクモとなっている。

マイルスのおじさんであるアーロンがオズボーン・インダストリーに盗みに入った際、そのクモが彼のバッグに入り込んでいたため、あの場に現れてマイルスを噛んだという訳だ。

これに対して映画版では、“アルケマックス”という会社が作り出した遺伝子操作のクモが逃げ出して、ラボの近くにいたマイルスに噛みついたという設定にアレンジされている。

実はこの“アルケマックス”という会社は、エンドクレジット後に登場するあの人物とも密接に関係しており、原作コミックス「スーペリアー・スパイダーマン」で初登場したもの。

遥か未来の2099年の世界を支配する大企業であり、こちらのコミックスでもその創設者は、初代グリーン・ゴブリンであるノーマン・オズボーンとなっている。

これを踏まえて映画を観ると、映画の序盤でスパイダーマンが何故グリーン・ゴブリンと闘っていたかが、お分かり頂けるはずだ。

実際、劇場の大スクリーンで見ると、クモの背中に“アルケマックス42”と書かれているのが確認できるのだが、実はこの“42”という実験番号も「アルティメット・スパイダーマン」の原作コミックスそのままの設定であり、更にこの“42”という数字は、マイルスがビルの屋上からのジャンプに失敗して道路に落ちたシーンにも隠されているので、これから劇場で鑑賞される方は、是非このシーンにもご注意頂ければと思う。

実は実写版映画とも深く関係している?

映画の終盤では、アーロンおじさんが実は悪役のプラウラーだったという展開になるのだが、これも原作コミックス「アルティメット・スパイダーマン」での設定であり、通常の世界でのプラウラーはコミックスの初期から登場しているキャラクターで、実は全くの別人であるボビー・ブラウンが変身する設定となっている。

ただ、先ごろリブートされた映画『スパイダーマン:ホームカミング』には、何とこのアーロンがフェリーに乗っている泥棒役で出演しており、彼のセリフでも甥っ子のマイルスについて語られているので、ひょっとして実写リブート版のスパイダーマンの世界は、実は「アルティメット・スパイダーマン」の世界での出来事ではないのか? そんな仮説を立てているマニアもいるほど。

スパイダーマン:ホームカミング (字幕版)

更にもう一点、今回の映画版でいきなり登場した名悪役のスコーピオンも、『ホームカミング』のフェリーのシーンで、後にスコーピオンに変身するサソリのイレズミを入れた男、マックス・ガーガンとして登場しているなど、明らかに実写版とアニメ版とのコラボ狙いの展開が取られているのは、間違いのないところだ。

色々と期待は尽きないが、まずは夏に公開の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』を観て頂いた上で、その先の展開をあれこれ予想して頂ければと思う。

ラストに登場したキャラクター、“ミゲル”って誰?

エンドクレジット後の映像で登場した、“ミゲル”と呼ばれる見覚えの無いスパイダーマン。

残念ながら本編中では、「未来のスパイダーマン」としかセリフで説明されないため、正直「誰?」と思った方も多かったのではないだろうか。

昨年公開された『ヴェノム』に登場した“クレタス・キャサディ”と同様、続編への重要なカギとなる登場人物が出てきても、「誰、こいつ?」としか思えないのでは面白さが半減するし、何か鑑賞後にモヤモヤしてしまうのも事実。

実はこのラストに登場した“ミゲル”と呼ばれるキャラクターは、別世界のアース928に存在するスパイダーマン2099こと、ミゲル・オハラ。

ちなみに彼が最初に訪れたアニメの世界=アース67で出会ったのは、1967年にアメリカのABCテレビで放送されたアニメ版『スパイダーマン』の主人公だ。

前回の記事でも触れた通り、今回の映画はあくまでも「スパイダーバース:導入編」なのだが、ラストで“ミゲル”が登場することにより、続編こそが本来のスパイダーバースであることが予告されて映画が終わるという、正に原作コミックスファンにも大満足の展開となっている本作!

しかも原作コミックスで颯爽と登場するが、いきなり敵に片腕をもぎ取られてしまった巨大ロボ“レオパルドン”を、未来の科学力で修理して最終決戦の場に連れて来るのが、このスパイダーマン2099とくれば、もはや続編に“レオパルドン”が登場することは約束された様なもの!(実は今回の映画版でも、マイルスがレオパルドンっぽいロボットの絵を描いている描写があったりするのだ)

更に重要なのが、このミゲル・オハラが2099年の“アルケマックス社”の研究員だということ。そう、今回の映画版で平行世界の混乱を招く元凶となったあの会社は、実は2099年の未来まで存続しており、あの加速器の研究も継続していたのだ!

こうして2099年の未来で遂に開発された、並行世界への移動を可能とする装置“ポータル”を使って、未来のスパイダーマンが仲間を集めるために行動を起こすという、正に一番いいところで今回の映画が終わっていたことが、お分かり頂けると思う。

これらのポイント以外にも、一瞬だけ登場するベンおじさんの外見が、「スパイダーバース」原作コミックス中のアース3145で生き残っていたベンおじさんと同じだったりするなど、まだまだ奥深い発見や意外な小ネタが隠されている、この『スパイダーマン:スパイダーバース』。

一度ご覧になった方も、二度、三度と繰り返し鑑賞する度に新たな発見が出来る作品なので、全力でオススメします!

最後に

ここまで原作コミックからの変更点や細かな違い、不明な点などを解説してきたが、実はこれらの予備知識が無くとも、一本の映画として充分に楽しむことが出来る様に作られている本作。

ただ、やはり物語の随所に続編へのヒントや伏線が散りばめられていたり、原作コミックスの知識が無いと分かり難い部分が無いとは言えないのも事実。

出来れば、これから鑑賞される方や既に観て疑問点が浮かんだ方は、全3巻からなる原作コミックスを読むよりも、是非「アルティメット・スパイダーマン」をネットで検索して頂いて、そのあらすじや情報を予習・復習に役立てて頂ければと思う。

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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