フランス映画が嫌いな人に見て欲しい。笑いあり感動あり『奇人たちの晩餐会』

パリは好きだけど、フランス映画だけはどうも好きになれないという人の話をよく聞きます。フランス映画といえば、「暗い」「重い」「救いようがないほどの悲劇」そして「難解」というイメージがつきまといます。確かに、フランス映画は芸術志向が高くて、考えさせられるストーリーが多いのも事実。

しかし、フランス人の大半はそういった映画が特別好きな訳ではありません。意外かもしれませんが、フランス映画の過去の興行収入を見てみると、コメディ映画が上位を占めます。フランス人は映画に笑いも求めるように思います。もともとフランスにはHumoriste(ユーモリスト)というコメディアンの文化があり、大半のフランス人は実はコメディ好き。それに、フランスのコメディ映画は単に笑えるだけでなく、そこにはしっかりとドラマがあります。今回は、筆者の一押しの笑いあり感動ありのフレンチコメディ『奇人たちの晩餐会』の魅力を紹介します。

奇人たちの晩餐会(字幕版)

フランスの原題は「馬鹿のディナー」

日本語のタイトルは『奇人たちの晩餐会』ですが、原題は『Le dîner du con』(馬鹿のディナー)です。筆者は最初、フランス語のタイトルを知ったとき、タイトルに「con /馬鹿」がついていることに、驚いてしまいました。「馬鹿のディナー」って、「このタイトル倫理的に大丈夫なの?」と思ったほど、ショックでありました。フランス人にどのように思うか聞いてみると、「普通だよ。これはジョークの一種」という答えが返ってきたのです。

このタイトルからわかるように、意外かもしれませんが、フランスのコメディはシュールなものが多く、時には悪趣味にさえ思ってしまうほど。政治を皮肉って笑いに変えるならまだしも、宗教を風刺画で皮肉ったり、実際に笑いになっていないブラックジョークまでもがメディアで発信されるのがフランスなのです。

悪趣味な設定、でも笑いが止まらない

エッフェル塔が見えるアパートに住む出版社の大金持ちの社長ピエールの楽しみは、馬鹿の晩餐会。金持ちたちが毎週馬鹿な変人を同伴したディナーを開催し、食事のあと変人ぶりを笑い合い、馬鹿のチャンピオンを選ぶという、悪趣味きまわりないもの。しかし、ピエールはディナーの前に腰を痛めてしまい、この晩餐会には参加できなくなってしまいます。そして、喧嘩をした妻クリスティンにも去られてしまうという散々な夜。ディナーをキャンセルしようとしますが、今回のゲストである、マッチ棒でエッフェル塔の模型などを作ることが趣味の変人、ピニョンがアパートに現れるというところから、物語は始まります。

ピニョンはピエールの想像を絶するような馬鹿。医者に電話するはずが、ピエールの愛人マルレーンに誤って電話をかけ、ペラペラと奥さんが出ていったことを話し、帰ってきた奥さんを愛人だと勘違いして、追い返してしまう始末。ピニョンの馬鹿っぷりにピエールは振り回され、このドタバタコメディはめまぐるしく展開します。ピニョンを一流の馬鹿と形容するように、全ての物事を悪い方向へしか運ばない、天然の徹底した馬鹿っぷりに、笑いが止まりません。

愛すべき馬鹿フランソワ・ピニョンの魅力

ここまで読んだ方は、「馬鹿で笑うなんて悪趣味だ」と思われるかもしれません。しかし、この映画がただ変人を馬鹿にして笑いをとっているかというと、そうではないのです。この映画の魅力は、ピニョンが「愛すべき」馬鹿であるということ。

「最初は何この変な人!」と、ちょっと引いてしまいそうになるキャラクターですが、映画が進行するにつれて、ピニョンのいい人ぶりに惹きつけられます。映画が進むにつれて不思議と、ピニョンが可愛らしく思えてくるほど。失敗ばかりしていますが、ピエールを心から助けたいと思うピニョンの人の良さには、不思議と心も温まります。

ただ笑いだけでないヒューマンドラマがここにはあるのです。2005年に亡くなってしまったフランスの名優ジャック・ヴィルレが愛すべきキャラクター、ピニョンを見事に演じています。

馬鹿に振り回される金持ちピエール

『奇人たちの晩餐会』が、ただ馬鹿を馬鹿にした映画で終わらないのは、馬鹿を食い物のように笑いにしていた金持ちピエールが一流の馬鹿ピニョンに振り回され、その様子が滑稽で可笑しくあるからです。

ピエールは、絶縁していた親友と直接話さなければならない羽目になったり(そのおかげで再び友情を取り戻すこともできましたが)、愛人マルレーンが家に押しかけて来ることになったり、奥さんの居場所を探すためとはいえ税務署の査察官が怪しい高級品だらけのアパートに来る羽目になったりと、一夜でジェットコースター級の災難にあいます。

そして、愛人マルレーンがピニョンになぜ今夜の晩餐会に呼ばれたのか、その訳を暴露したときに、ピエールのモラルの低さが恥ずかしいほど晒され、ピエールもまた違った意味で馬鹿な人なのだということが露呈されます。馬鹿を馬鹿にするのは大馬鹿者と言わんばかりに、大金持ちの悪趣味が痛々しく描かれています。ただ馬鹿を馬鹿にして笑いをといるのではなく、しっかりと金持ちの悪趣味を批判し、スッキリとしたオチのある映画となっています。

ホロリとするラスト

そして、『奇人たちの晩餐会』がただのコメディーで終わらないのは、ラストシーンにホロリとする感動があるからです。

愛人マルレーンの暴露により、ピエールに馬鹿にされているとわかったピニョンは、事故にあったピエールの妻クリスティンの病院に電話をかけ、直接話すことに成功します。このシーンが、とてもいいのです。ピニョンは馬鹿を演じてただけなの?と思うほど人の心を掴む温かくてスマートな会話をクリスティンと交わします。

思わずジーンとくるほど。ここでネタバレはしません。ぜひ映画を見てみて、感動を味わってみてください。そして、映画のラストは、しっかりとしたオチがあります。コメディ映画において、名人芸を見せられるような映画の終わり方。ピニョンはやはり 本物のcon (馬鹿)なのでしょうか!?

舞台劇のような映画

『奇人たちの晩餐会』を全編見て気づくのが、この映画は主にピエールのアパートが舞台になっている密室劇。舞台劇のような作りとなっています。まるで舞台を見ているような圧倒されるセリフと展開ですが、ただ舞台劇を映画にしただけではありません。ピニョンの多彩な表情をカメラが捉え、心に訴えかける何かがあります。映画であるからこそ、この物語は素晴らしいと思えるのです。『奇人たちの晩餐会』フレンチコメディの真骨頂を発揮した映画です。

さいごに

『奇人たちの晩餐会』は80分ほどの比較的短い映画。長さ的にもフランス映画が嫌いな人にも入りやすい映画ではないかと思います。笑いあり、感動ありのこのフランチコメディをぜひ体験してみてください。フランス映画に対する印象も変わるはずです。

(文: 北川菜々子)

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    ライタープロフィール

    北川菜々子

    北川菜々子

    パリ在住のフリーランス・ライター。大阪出身。大学卒業後、2007年に渡仏。パリの大学院では映画を社会学と記号学的アプローチから研究する。好きな映画「浮雲」(成瀬巳喜男)「「レディ・イブ」「赤ちゃん教育」「天井桟敷の人々」など、クラシック映画を愛する。その他に、読書や写真、カフェ巡り、街歩きなどが趣味。

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