『ギルティ』高評価続出の「3つ」の理由とは?口コミ通りの面白さは本当?

© 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

その意表を突く設定と内容の面白さから、映画ファンの間で口コミが広がっているデンマークのサスペンス映画『THE GUILTY/ギルティ』。

いよいよ2月22日から公開が始まった本作を、今回は公開初日の劇場で鑑賞して来た。

ポスターやチラシの宣伝コピーからは、電話の音声を頼りに事件を解決する低予算を逆手に取ったサスペンス映画、そんな印象が強かった本作。果たして、口コミ通りの面白さだったのか?

ストーリー

過去のある事件をきっかけに警察官として一線を退いたアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)は、いまは緊急通報指令室のオペレーターとして、交通事故の搬送を遠隔手配するなど、電話越しに小さな事件に応対する日々を送っている。そんなある日、一本の通報を受ける。それは今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だった。彼に与えられた事件解決の手段は“電話”だけ。車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い…。電話から聞こえるかすかな音だけを頼りに、アスガーは“見えない”事件を解決することはできるのか――。

予告編

驚異の観客満足度!その口コミは本当だった!

監督にとって初の長編映画で、主演は馴染みの無い俳優。しかも限定空間が舞台のデンマーク映画で、上映時間は88分と短い。

こうして本作の情報だけを並べてみると、あまりにマイナス要素が多いように思えるのだが…。

でも大丈夫! 既に多くの観客がネットで発言されている通り、その抜群の面白さと意外性、完成度の高さを一度知ってしまえば、これらのマイナス要素が一転してセールスポイントに変わってしまうからだ。

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本作を観て改めて思ったのが、映画はやはり有名スターや派手なアクション・CG合成だけでは無い! ということ。

昨年の『カメラを止めるな!』の大ヒットが証明するように、劇場に足を運んだ観客がいかに心を動かされたか? 全てはその一点にこそある、そう思わずにはいられなかった、この『THE GUILTY/ギルティ』という映画。

実際アメリカの映画レビューサイト「ロッテントマト」では、日本版ポスターの宣伝文にもある通り、驚異の観客満足度100%を叩き出した本作。

では、これほど観客の高評価を得て口コミが広がっている理由とは、いったいどこにあるのだろうか?

理由1:声を頼りに展開するサスペンス映画にハズレ無し!

いきなりかかってきた電話の音声だけを頼りに、偶然巻き込まれた主人公が孤独な戦いを繰り広げながら事件を解決する!

思えば、観客の想像力を刺激するこうした設定の映画は、過去に何本も製作されてきた。

極限状態に置かれた主人公の必死の行動と、被害者に迫る危険や事件解決までのタイムリミットの設定により、観客が主人公の行動に感情移入しながら自分もリアルタイムで追体験出来るこの設定は、正に“ハズレ無し”の鉄板要素だったからだ。

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殺人鬼からの電話や脅迫電話、これから自殺すると告げる電話に、誘拐されたり監禁されている人からの電話など、限定されたシチュエーションや設定にも関わらず、実に幅広いそのバリエーションには驚かされる。

最近の作品から一例を挙げると、香港でもリメイクされた『セルラー』や、『THE GUILTY/ギルティ』に似た電話ボックスの中という限定空間で、電話の音声を頼りに事件を解決しようとする『フォーン・ブース』。更に、『THE GUILTY/ギルティ』とよく似た設定の2013年公開作品『ザ・コール 緊急通報指令室』など、どれも先の展開が予測できない一級のサスペンス映画となっているのだ。

ザ・コール 緊急通報指令室 (字幕版)

だが物語の構成上、電話の向こうの相手の顔や、置かれている状況など、観客が観たいと思う肝心の見せ場がスクリーンに登場しないにも関わらず、何故にこれほど観客の興味を引き付けることが出来るのだろうか?

その理由は、観客が主人公と同様の立場に置かれることで、主人公が得られる限られた情報から自分も判断・推理しなければならないという、正に観客参加型の楽しみ方が出来るからに他ならない。

特に、スクリーンを観ていれば全てを説明してくれるという、最近主流の親切丁寧な作品を見慣れている観客には、この『THE GUILTY/ギルティ』の様に不自由を強いる作品は、かなり新鮮に映るのではないだろうか。

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ただ、本来は映像を観ることが重要な要素である映画において、あえてその情報を隠すことで通話音声に観客の注意を集中させるというこの設定は、観客の想像力と注意力を必要とするため、ある意味鑑賞へのハードルが高いとも言える。

だが、そのハードルに挑戦して迎える結末には、通常の作品以上の達成感と満足感が待っているのも事実。

観客が思わず感情移入してしまう主人公の行動と選択は、是非劇場で体験して頂ければと思う。

理由2:限定空間が舞台でも、持続する緊張感が凄い!

本作の上映時間は、最近の映画の中ではかなり短い部類に入る88分。更に物語の舞台となるのは、警察署の緊急通報指令室と隣の部屋の二カ所だけ! という、非常に限定された空間で物語が展開する本作。

まともに考えれば、相手の顔や状況が見えない電話での会話と、指令室内にいる主人公の行動だけで話が持つとは考えにくいのだが、本作の監督であるグスタフ・モーラーによる脚本が非常に良く練られているので、最後まで観客の興味と緊張感が持続して、決して途切れることが無いのが凄い!

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しかも、映画の中の事件と実際の上映時間がリアルタイムで進行するので、観客に与えられる情報も主人公と全く同じ条件となるため、正に“観客参加型の映画”として、我々も事件の捜査や推理に参加している気分になれるのだ。

前科持ちの暴力的な夫による誘拐、そう思われた事件が二転三転して迎える意外な結末と、主人公アスガー自身が抱える重大な秘密。そして、最悪の事態に向かって迫り来るタイムリミットなど、低予算をカバーするための単なるアイディア勝負の作品とは違う深い人間ドラマが展開する本作こそ、正に第一級のサスペンス映画と呼ぶに相応しい作品と言えるだろう。

理由3:ダマされる快感がクセになる!

実はポスターやチラシの宣伝文から内容を予想して鑑賞に臨むと、かなり意外な展開が待っている本作。

映画中盤に明らかにされる、ある衝撃的な事実を境に、そこから物語は一気に予期せぬ方向へと走り出すことになるからだ。

ネタバレになるので詳しくは書かないが、過去の類似作品の様に電話の音声に隠された手掛かりから事件を解決するだけでなく、いかに人間が視覚からの情報と、常識や思い込みによって普段は判断しているか? この部分が重要なテーマとなっている本作。

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主人公アスガーのように、自分の目で見た物や調べた情報ではなく、誰とも知らない第三者からの伝聞や情報で物事を判断した結果、重大な事実誤認を引き起こしてしまうというのは、正に現代のSNSやネット社会に通じる問題点そのものであり、こうした国や文化を越えて共感できる内容になっている点も、世界中で高い評価を得ている要因なのだ。

事実、これが長編映画監督デビュー作で、今回脚本も担当しているグスタフ・モーラー監督の見事な手腕により、固定観念や偏見に捕らわれていた我々の視点や考えが一瞬で覆される展開は、正に“ダマされる快感”と言うしかない。

大ヒットした『カメラを止めるな!』にも通じる、映画を観て良かった! と思わされる、この“ダマされる快感”の瞬間は、是非劇場で!

最後に

“犯人は、音の中に、潜んでいる”との宣伝コピーから、警察への通話音声だけを頼りに誘拐事件を解決するサスペンス、そんな内容を予想していた本作。

確かに宣伝コピーに間違いは無かったが、嬉しいことに映画の内容はそんなに単純なものではなかった。

一見、よくある低予算の限定シチュエーション物と思わせて、実はそこで描かれているのは、デンマークという国が抱える大きな問題や、現代のネット社会における希薄な人間関係と、不確定な情報伝達に頼ることへの警鐘だったからだ。

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デンマークでは多くの移民の流入が問題となっており、それに伴う凶悪犯罪の増加や、異人種間のコミュニケーション不足や文化・習慣の違いによる偏見・差別など、様々な問題が巻き起こっている。

本作の主人公アスガーが一時的に配属された緊急通報指令室は、そんな市民からの声に最初に触れる部署であり、市民と警察とを繋ぐ重要な部署に他ならない。

だが、アスガーはそんな仕事にやりがいを見出せず、早くこの部署での勤務期間が明けることだけを考えているのだが、そんな彼が偶然に取った一本の通報電話が、彼の人生を大きく変えることになる!

自身の平穏な生活と引き換えに、警官としての誇りや正義を手放そうとしていた彼にとって、この一本の電話こそ、正に神が与えてくれた最後のチャンスだったに違いない。

誘拐事件にあったと告げる女性の声から、アスガーは様々な手掛かりを見つけ出し、人質の救出と犯人逮捕のために全力で立ち向かうのだが、最終的にこの一夜の体験が、彼に運命の決断を迫ることになる。

ある事情により一時的に警察官の職場を離れ、市民からの通報と担当部署を繋ぐだけの役割に徹していたアスガーが、今度は自分から誰かに電話をかける姿で迎えるラストは、観る人によって様々な解釈が出来るはずだ。

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事件解決に向けて必死の努力を続ける中で、主人公アスガーが取り戻した警察官としての使命感と誇り。だが、その代償に彼が失った、あまりに大きなものとは何だったのか?

タイトルの『THE GUILTY/ギルティ』に込められた意味の重さが、観客の心に深い余韻を残すラストに、思わず彼のその後の人生や行動について、誰かと意見交換したくなる本作。

どんな極限状態においても、人間は損得でなく自分の心の声に従って正しいと思う行動を取るべきだ! そんな力強いメッセージが素晴らし過ぎるので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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