サイキック百合ホラー映画『テルマ』の「3つ」の魅力!『AKIRA』ファンにもおすすめの理由とは?

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10月20日より映画『テルマ』が公開されます。本作はアカデミー賞およびゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞のノルウェー代表に選出され、シッチェス・カタロニア国際映画祭では審査員特別賞と脚本賞の2冠に輝き、映画レビューサイトのRotten Tomatoesでは93%の満足度を獲得するなどの高評価を得ています。その魅力がどこにあるのか、以下に大きなネタバレのない範囲でたっぷりと紹介しましょう。

1:衝撃的なオープニング!
“超能力もの”であり“ホラー”でもある理由とは?

本作は、かなり衝撃的と言えるオープニングから幕を開けます。その具体的な内容はここでは書かないでおきますが、ただ奇をてらったというものではなく、その後の物語にも重要になってくる、ということだけはお伝えしておきます。

そして、本作は端的に“超能力(サイキック)もの”と表現できます。主人公の女性に原因不明の発作(てんかん)が起きると、コントロール不能の“何か”が勝手に発動してしまい、それが彼女自身を苦しめていくのですから。スーパーヒーローもののように超能力を利用して活躍するのではなく、“超能力こそが足かせ(悲劇の引き金)になってしまう”物語になっていると言っていいでしょう。

衝撃的なオープニングと、主人公が持つ超能力にどのような因果関係があるのか……それを考えると、誰もがゾッとするでしょう。冒頭の“掴み”から、さらにジワジワと恐ろしい事実を示していく様は、まさに“ホラー”と言えるジャンルの魅力に満ち満ちていました。

なお、ヨアキム・トリアー監督自身、本作を「“自分は何者なのか”と実存主義的な問題を抱えた女性が、自己と向き合う恐怖を描いている」と語っています。なぜか子供の頃の出来事を覚えていなかった主人公が、“逃れることのできない自分”の真実を知っていく……それは、対外的に襲ってくる化け物や不幸よりも、恐ろしいことなのかもしれません。

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2:『AKIRA』との共通点とは?
映像にもマンガやアニメの影響があった!

ヨアキム・トリアー監督は本作のアイデアの発案において、イングマール・ベルイマンやブライアン・デ・パルマの監督作の他、なんと日本のアニメ映画『AKIRA』をも参考にしていたそうです。

『AKIRA』を観た方であればご存知の通り、この作品にはコンプレックス(劣等感)を肥大化させた結果、持って“しまった”超能力で暴走していく少年の姿が描かれています。超能力の設定と悲劇的な物語を通して、前述した実存主義の問題や、人生における大きな疑問を描いているという点は、確かに『AKIRA』と『テルマ』で共通していました。

また、ヨアキム・トリアー監督は『AKIRA』の大友克洋によるマンガ『童夢』の子供や人間などの小さなキャラと巨大なビルがシンメトリックに描かれていた表現や、『東京ゴッドファーザーズ』や『千年女優』などで知られる今敏監督の映像技法にも感銘を受けていたのだとか。しかも、ノルウェーの自然を美しく映し出しながらも、マンガ的な“閉所恐怖症的でありながら壮大でもある映像”もヨアキム・トリアー監督は目指していたのだそうです。

(一見しただけはそうは思えなくても)実は物語と映像の両面で、日本のアニメやマンガを参考にしているというのも、本作の独特の魅力を作り出しているのでしょう。

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3:同性愛への不理解を寓話的に描いている?
悲劇的な“ラブストーリー”でもあった!

主人公の女性が、発作を起こした自分を気遣ってくれた同性の女性と恋愛関係になっていく、というのも重要な要素になっています。何しろ、主人公の両親は信仰心が深く厳格かつ過保護でもあり、そのせいで彼女は深い罪悪感に悩むようになってしまうのですから。

『テルマ』は、“同性愛への理解が得られない”ことを寓話的に描いた内容とも言えるのかもしれません。主人公の同性への恋愛への罪悪感(と別の感情)は、やがて取り返しのつかない悲劇をも引き起こしてしまうのですから……。

そして、物語の結末は観る人によって“解釈が分かれる”ものになっています。もちろん具体的な内容は書けませんが、このエンディングにこそ、本作の“ラブストーリー”という側面が最もエモーショナルに表れていると言っていいでしょう。

余談ですが、2018年は女性同士の恋愛、または恋愛に至らなくても厚い友情を描いた映画作品がなぜか数多く公開されていました。ざっと挙げると、『レディ・バード』、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、『オーシャンズ8』、『ミスミソウ』、『恋は雨上がりのように』、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、『大和(カルフォルニア)』、『少女邂逅』、『カランコエの花』、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』、『累 -かさね-』(愛より憎悪成分が多けだけどキスシーン満載)、『響 -HIBIKI-』、『コーヒーが冷めないうちに』、『リズと青い鳥』、『あさがおと加瀬さん』(厳密には映画ではなくOVA作品)、『若おかみは小学生!』(年の差お姉さん百合)などなど……悲劇的なものから、ニヤニヤと彼女たちの幸せを心から願いたくなるものまで、“百合映画”が大充実していたのです。そんなわけで、『テルマ』も百合映画成分を期待する人にも大推薦です。

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まとめ:様々なジャンルが融合した
“想像”や“考察”のしがいのある映画だった

ここまでをまとめると、『テルマ』は単なる“ホラー”だけにとどまらず、“超能力もの”でもあり、“ラブストーリー”でもある、様々なジャンルが融合している映画であるということです。それぞれのジャンルのバランスが絶妙であり、だからこそ様々な側面から“想像”や“考察”のしがいのある、豊かな作品になっていました。

ヨアキム・トリアー監督は、『テルマ』という作品における“核”を「ダークな映画的空間における実験的な体験」「自分の観たものが何だったのかを説明せずに、すべての映像やサウンドから自分の感情をさらけ出すことができる作品」などとも語っています。くどくどと説明をすることなく、独特の映像美とダークな雰囲気に乗せ、(解釈の分かれるエンディングも相まって)登場人物の心理に観客それぞれが想像を巡らせることができる……これこそが、『テルマ』の最大の魅力と言えるのかもしれません。

ちなみに、ヨアキム・トリアー監督はこれまで『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ニンフォマニアック』などで知られるラース・フォン・トリアー監督の甥であると公式の資料でも紹介されていたのですが、近年で事実確認をしたところ、(親類ではあるものの)叔父や甥ほどの近しい親類でないことが明らかになったのだそうです。

叔父や甥というほどの関係ではなかったにしろ、ヨアキム・トリアー監督とラース・フォン・トリアー監督には良い意味で寒々しくも美しい画作り、人間の内面にある苦しみや負の感情を丹念に描いていることなどに、共通点を見出すことができました。ラース・フォン・トリアー監督作にあった、良い意味での人間のイヤらしい面の描写、“鬱映画”の要素を期待する方にも、ぜひ『テルマ』をおすすめします。

なお、ヨアキム・トリアー監督は過去に『母の残像』というドラマ映画を手がけており、『テルマ』とは家族の軋轢を描いていることや、ガラスが割れるシーンが衝撃的かつ美しくも描かれているなど、やはり一貫した作家性を感じられました。『母の残像』はジェシー・アイゼンバーグ、イザベル・ユペール、ガブリエル・バーンといった豪華な実力派俳優が共演しているのも大きな見所になっていますよ。

おまけ:合わせて観てほしい、悲劇的な超能力映画はこれだ!

最後に、『テルマ』と合わせて観てほしい、“超能力こそが足かせ(悲劇の引き金)になってしまう”物語が紡がれた、おすすめの3本の映画を紹介します。

1.『キャリー』(1967年)

キャリー [DVD]

ブライアン・デ・パルマ監督の代表作の1つで、『テルマ』にも大きな影響を与えていることは間違いはないでしょう。クライマックスの地獄絵図に至るまでの演出、特にスプリットスクリーン(二分割画面)はこの上のない恐怖を呼び起こしてくれました。いじめられたことへの怒りや苦しみを(超能力を通して)具体的かつ物理的に描くと、ここまでの事態になるのだと痛感できるでしょう。

2.『デッドゾーン』

クローネンバーグのデッド・ゾーン(字幕版)

自動車事故に巻き込れた男が5年ぶりに目覚めると、恋人は他の男性と結婚した上に子供がいた……という悲劇から始まる物語です。その喪失と同時に得たのは、他人の過去、現在、未来の秘密を知ることができるという超能力。主人公はその全く望まなかった力によって、さらに人生が狂ってしまうのです。やがて「どのように力を生かすのか」「自分はどう生きるべきか」について答えを見つけようとする主人公を想うと、ついつい涙腺が緩んでしまいました。

3.『クロニクル』

クロニクル (字幕版)

3人の高校生がひょんなことから超能力を持ってしまうというSFでありながら、劣悪な環境下で生きる少年の心情に迫った青春ドラマの側面が強く描かれた作品です。『テルマ』と同様に監督が『AKIRA』からの影響があると明言している作品で、劣等感に悩まされていた主人公が暴走していく様は、『AKIRA』を観た方であればかなりの類似性を感じることでしょう。それでいて、POV(一人称視点)が効果的に作用している他、デイン・デハーンを初めとした若手俳優の熱演、感涙必至のエンディングなど、独自の魅力を持つ名作に仕上がっていました。

この他、『テルマ』を彷彿とさせる作品には、ダークな雰囲気で統一された吸血鬼映画の『ぼくのエリ 200歳の少女』、大学の獣医学部に進学した女性が自己の恐ろしい秘密と向き合う『RAW 少女のめざめ』もあります。いずれも、ゾッとするホラー要素がありながらも、どこか美しさや悲劇性を併せ持つ、奥深い内容になっていますよ。

(文:ヒナタカ)

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