「追憶」VS「ミスティック・リバー」、降旗康男監督の叙情ミステリー対イーストウッドの重厚大作!

■「役に立たない映画の話」

「イーストウッドって、そんなに巧い監督かあ?」

(c)2017映画「追憶」製作委員会

後輩 久しぶりですよね。新旧の作品あるいは同じジャンルの映画を、露骨に比較するVSシリーズは。しかも今回は日本映画とアメリカ映画の対決。

先輩 うん。実は「追憶」の試写を東宝で見て、な~んかどこかで観た映画に似ているなあ、と1階に降りたら知り合いの映画評論家の人と会って「これって何の映画に似てるんでしたっけ?」と聞いたら、あっさりと「『ミスティック・リバー』だよ」と。

ミスティック・リバー (字幕版)

後輩 観ている間、気づかなかったんですか?

先輩 正直、「ミスティック・リバー」はあまり好きな映画じゃないから、覚えてないんだよ。つーかこの映画って面白いと思ったか?お前。

後輩 何言ってるんですか!? クリント・イーストウッド監督作品ですよ!!

先輩 イーストウッドの監督作品だったら、全部面白いのか?

後輩 そ、それは、まあ・・・時にはそうじゃない作品も。

先輩 おれもねえ「ミリオンダラー・ベイビー」とか「マディソン郡の橋」とかは好きだけど、正直、他に「これは良いなあ」と思った作品がない。「アメリカン・スナイパー」も試写で見て「え?これで終わりなの?」と思ったけど、回りの評判が良いからIMAXで再見したけど、やっぱり物足りなかったし、「ハドソン川の奇跡」も、単に事実をなぞっただけじゃん、と。

後輩 そういう手法なんでしょうから、しょうがないじゃないですか?

先輩 シナリオに書いてあることを、そのまま撮っていくタイプの人なんだろうな。「硫黄島からの手紙」に出演した日本人キャストが言ってたけど、ほとんどのテイクは1回でOKなのだそうだ。だから見終わって「お話は分かったけど・・それで?」と言いたくなる、つまり物足りなく感じる映画が多いのが、おれの感想だ。

後輩 では、「ミスティック・リバー」もさほど評価しないと。

先輩 重厚な文芸大作なのは分かるけど、DVDで再見して、重厚すぎてすっげー退屈した。

後輩 そもそもなんで、そういう作品のDVDを持ってるんですか?しかも2枚組って。

先輩 まったくだ。わははは・・・。

3人の少年の過去に起こった事件が現在に影響を・・。

後輩 その「ミスティック・リバー」が「追憶」と、どこがどう似ているんですか?

先輩 まず子供たち3人が登場して、ある事件が起こる。そのあたりは共通していて、そこから3人の少年はバラバラに。ところが3人が成人した後、そのうちのひとりが死亡して、過去の秘密が明らかになっていく・・という、早い話がミステリーだわな。

(c)2017映画「追憶」製作委員会

後輩 3人の少年が鍵を握るあたりは似ていますが、ディテイルは微妙に違いますね。

先輩 そりゃそーだろ。「追憶」は成人後の少年たちを岡田准一、小栗旬、柄本佑の3人が演じている。

後輩 殺されるのは、そのうち誰なんですか?

先輩 柄本佑。で、岡田准一が刑事でその事件を担当し、容疑者として小栗旬が浮かぶという話だ。

後輩 うーん・・・・その3人の過去に何があったかが、殺人事件の謎を明かす鍵になるわけですね。

先輩 そうだけど、さすがに詳しくは言えないよ。でも、それっぽい見せ方はしている。

(c)2017映画「追憶」製作委員会

大げさな音楽をがんがん鳴らすのは、日本映画の大作の悪いクセだ。

先輩 ただねえこの映画、ミステリーなのにやけに情緒をかき立てるというか、叙情性を強調するように、音楽がやたらに鳴り響くんだよ。女性のコーラスの「♪ああぁぁぁ~」みたいな。

後輩 その発声では、よく分かりません。

先輩 いかにも「この映画は名作だろっ!!」「感動しろっ!!」とばかりに大げさな音楽を鳴らすのは、日本映画の大作の悪いクセだと常々思っているよ。

後輩 で、ミステリーである以上、最後に犯人は捕まるわけですよね。

先輩 まあそうなんだけど・・・。

後輩 もごもご言わないで、はっきり言ってください!!

先輩 「え、そういうことなのっ?」って、ちょっと意表を突かれたというか、まあよく画面を見ていけば分かるんだけどね。

後輩 ただ降旗康男監督に撮影が木村大作、脚本を「あなたへ」の青島武が手がけているところを観ると、高倉健主演作のスタッフですよね。

先輩 その通り。おれの記憶が確かなら、この映画の中で岡田准一は一度も笑顔を見せないんだ。終始何かに耐えるような表情で、それは健さんを意識しているのかなあ、と思えたなあ。

後輩 他の俳優さんはどうなんですか?

先輩 皆、良いんだよ。小栗旬は、地方の親分肌のいなせな労務者がぴったり(笑)。柄本佑も着々と性格俳優の王道を行っていて、顔も父上にかなり似てきた(笑)。

(c)2017映画「追憶」製作委員会

後輩 女優陣は?

先輩 地味な長澤まさみを、映画で初めて見た(笑)。それと、安藤サクラも良かったなあ。ひとつ言っておくけど、この映画の謎の部分を背負うキーパーソンは安藤サクラの役だからな。

(c)2017映画「追憶」製作委員会

後輩 もういいです。ネタバレしないでくださいっ。

先輩 まあ設定とか人物配置の面では、確かに「ミスティック・リバー」と似ているけれど、ディテイルの部分は違っている。その違いがだんだん広がって行って、すべての謎が解ける。ただし「追憶」の場合、繰り返すけど、いささか叙情性過多。でも「ミスティック・リバー」の重厚な退屈さよりは良いかなあ。

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(企画・文:斉藤守彦)


    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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