映画『海街Diary』に感じるかつての日本映画の空気感とは?

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10月24日(土)に東京国際映画祭の会場、新宿ピカデリー・スクリーン5では映画『海街Diary』上映後に是枝裕和監督とMCによる質疑応答が行われました。

今作は、父親が亡くなり異母妹を引き取ることになった3姉妹の住む鎌倉を舞台に、長女・幸(綾瀬はるか)、次女・佳乃(長澤まさみ)、三女・千佳(夏帆)、四女・すず(広瀬すず)が、それぞれの思いを抱えながら家族になっていくまでの1年を描いた、吉田秋生の同名漫画が原作の映画。

まずMCから、「Japan Now」という今年から開催することになった部門の意図として、「日本の今が表現されている映画を集めて、海外の方はもちろん、むしろ日本の方々に、日本というものを感じてもらいたくて企画したもの」だと説明があり、続けて「そしてこの1年のなかで、絶対欠かせないと思ったのが『海街Diary』です」という紹介ののち、MCによる質疑応答が始まりました。

時間の流れの中から見た人間・家族を描いた作品

MC「日本のクラシックな佇まいのようなものを内容にも映像にも感じるんですけれども、そのようなイメージは持っておられました? 日本といってもいろんな映画がたくさんあるなかで、小津安二郎の映画だとか、じゃあ小津さんの映画と一緒かというと、画はいつも動いているから違う、だけど何かそういうにおいを感じる。情念的には成瀬巳喜男監督の感じも見える。そういうものがどんどん日本の映画から失われていってるなかで、この映画というか是枝さんの最近の映画の中にはそれを感じてるんですけれども」

是枝監督「今回の旅でロンドンとアムステルダムとベルギーとパリをまわって、映画祭に出たり、上映に立ち会ったりしたんですけれども、どこでも必ず、小津と言われました(笑)。褒め言葉だと思っているので、それはありがとうございます。でも、自分ではそんなことはない言い続けてきてるんですが、今回は似てるだろうと言われて。ただ、舞台が鎌倉の日本家屋だということ以上に、家族を描いてはいるけれども、流れてくる時間、巡ってくる時間という大きなものから人間をみているような、人間ドラマから少し離れた視点に作り手がいる感じを原作から受けたんです。それで、今回の原作の感じは『若草物語』とかチェーホフとかなんじゃないかなと。小津作品も『麦秋』は見返しました。普段それほど参考にしている訳ではないけれども、似ていると言われる機会が多いので、「じゃあ、小津って何なんだろう、小津と成瀬は何が違うんだろう。家を撮る時、成瀬はどうやって撮ったんだろう、というようなところは意識せざるを得なくなる。特にこの10年くらいはそれが自分にとってプラスになっていると思います」

MC「小津っぽさは要素としてはたくさんあると思う。これまで是枝監督は捨てられた子供の話が多かったですね。逆転すると、親はこどもに捨てられるものだとはっきり描いた『東京物語』の小津監督があって、是枝さんは『歩いても 歩いても』の時も結局子供は親を捨てられないんだという風に、今という形で小津を刻んだのかなと僕は感じたりして。あの頃から小津を意識していたのかなって思っていたけれども、その頃は「むしろ成瀬なんです」とおっしゃっていた。この映画は、と考えると、捨てられた娘たちというかたちがありつつ、彼女たちは最後は生き生きと自立したなかで親を捨てていく。つまり、全く違うかたちでありながら、『東京物語』のようなかたちを持っているところが非常に興味深いと思う」

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是枝監督「脚本を読んでたときも撮影の現場でも、綾瀬さんの佇まい、所作というのが美しいと思った。特に浴衣を着たときの身のこなしとかが他の3人とは明らかに違う。それを生かそうと思って、おばあちゃんっ子で、家にいるときの姿がおばあちゃんに似てる、というように描いた。おそらくそこに、ある種の古風な、原節子と名前を出すとあれですけれど(笑)、そういうにおいがしたんじゃやないかな? でも僕は親を捨てる話だとは捉えてなくて、すずを引き取ったことによって、自分たちを捨てた存在から、この妹を残してくれた存在という風に、幸の中で父というものの解釈を変えていく話だと思ったんですね。そこが彼女の倫理というか成長といってもいいんですが」

MC「今までの生き方から、彼女を解放していく、というようにも見えた」

是枝監督「そうですね。それは決して親を捨てることではなくて、再解釈していくということ。その時間の捉え方が美しいと思って、その美しさを描きたいと思いました。先ほど原節子という名前をあえて出しましたけれど、小津さんの映画の原節子は結婚しようがしまいがだいたい幸せにならないんですよね。「海街~」で幸が選んだ生き方は、一見平穏な時間が続くように見えるけれど、それがいつまで続くかわからない。幸が誰かの妻になること、もしくは自分が選ぼうとした男を自分の父のようにすることをやめて、すずが帰ってくるあの家にひとまず留まることを選択をする。その行為が小津監督の描く原節子的だと思いました」

MC「決定的にこの映画が小津作品と違うのは、先ほどおっしゃられた時間みたいなものがもうひとつの主役にいるじゃないですか。「生きる」みたいなことは小津さんからはあまり感じない。「海街~」は佳乃の肉体から映画が始まる。それもセックスして朝になったシーンで、彼女の肉体から性を感じますよね。そこから最終的に葬式に行くというような。そういうかたちですごく人間を描いていますが、その背景には変わらず海があり、家の中でも花々とか所作とか衣装とか、四季の移り変わりを感じるものをカットカットで描いてますよね。まさに今おっしゃった、彼女ら四姉妹の、あるいは長女の変わり様を主役に考えているように見えながら、その背景にもっと大きな時間の流れを捉えようとしているように感じるんですけれども、それはもう意図的ですよね?」

是枝監督「もちろん意図的にやってますけども、それは素晴らしい原作が描いているものに近づきたい、それを映画にしたいというスタッフの思いが共通認識としていいかたちで重なったからできたと思っています。ファーストシーンに関して言うと、原作もそこから始まるんですよ。それはなぜだろうと、この作品は家から描かれるべきじゃないかと最初は思ったんです。でも、佳乃の部屋は漫画の中にほとんど描かれてこない。そこから僕が解釈したのは、彼女の居場所は家の中にはなくて、男の隣にある。つまり、佳乃に母親の姿を重ね合わせていて、だから、祖母の姿を重ね合わせている幸とは対立する。そして、母が家を出たように佳乃もいつかは家を出る、というように、今いる人間を見ながら過去にあの家で展開されたドラマを想像させていくというようなことを、原作がすごく丁寧にやっている。だからこそ、時間と人間が重層的に見えていくんですね。今だけじゃなくて、そこに過去も見える。その描き方が非常に見事で、映画がそこに向かったということです」


    ライタープロフィール

    大谷和美

    大谷和美

    高校2年の時に観た「バトルロワイアルⅡ」に衝撃を受け、映画の道を志すも、縁あって雑誌編集者に。特撮誌、若手俳優グラビア誌等の編集・ライター、WEB編集者を経て、現在はフリーランスで活動中。人間の感情や社会の闇を描いた邦画が好きで、気づけばR指定のDVDばかり借りていることも。一方、元々好きだったライダー・戦隊などの特撮作品やコメディ映画も好んで観ます。他、元上司のバカタール加藤が主催するニコ生番組「崖の上の生放送」に準レギュラーで出演中。

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