映画コラム

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2019年08月07日

『ワイルド・スピード』スピン・オフ、誰でも楽しめる「5つ」のポイント

『ワイルド・スピード』スピン・オフ、誰でも楽しめる「5つ」のポイント



(C)Universal Pictures 



率直な感想、鑑賞を終えてこんなに清々しい気分になる映画はいつ以来のことか。まさに夏休み映画に相応しいスケールと怒涛のアクション。たとえばもしも中学生時代にでも観ていようものなら友人と熱く語りあったに違いない。やってくれたな、デヴィッド・リーチ。ヒットシリーズ『ワイルド・スピード』からの初スピン・オフ作品『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』が公開され、見事脳みそをぷるんととろけさせてもらった。

主人公はロック様ことドウェイン・ジョンソン演じるホブスと、ジェイソン・ステイサム演じるデッカード・ショウにバトンタッチ。見るからに顔圧が強いぜ。初のスピン・オフということで本シリーズが持つ魅力が損なわれないかと心配にもなったが、幸いにも杞憂となった。むしろスピン・オフだからこその面白さも加わり、本シリーズに負けないほどの魅力を放つ作品となったのだ。今回はそんな『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』の見どころを紹介したい。

1:ざっとおさらい:ホブス&ショウの関係は?


『ワイルド・スピード』シリーズから派生したストーリーとはいえ、ホブスもショウもシリーズ1作目から登場していたわけではない。ホブスは本シリーズの主人公ドミニク(ヴィン・ディーゼル)とブライアン(ポール・ウォーカー)を追うFBI特別捜査官として、シリーズ5作目の『ワイルド・スピード/MEGA MAX』から登場。当初はドミニクらを追い詰める役だったものの、シリーズを追うごとにドミニクたちと共闘する立場となった。

さらにショウに至っては、シリーズの人気者であったハン(サン・カン)を殺害した“悪役”としてシリーズ6作目『ワイルド・スピード/ユーロ・ミッション』のラストで登場。演じるステイサムといえば『トランスポーター』シリーズでプロの運び屋を演じているだけに、まさかの悪役として参戦を果たしたことは大きな話題を呼んだ。さらに──ポール・ウォーカーの遺作となったシリーズ7作目『ワイルド・スピード/スカイ・ミッション』では宿敵役としてドミニクたちと火花を散らすことになった。

そんなショウがシリーズ8作目『ワイルド・スピード/アイス・ブレイク』ではまさかのドミニク側に立つこととなり、ワイスピファンを驚かせる展開に。映画好きとしてはステイサムが加わるのは実に頼もしい限りだが、ワイスピファンからすれば「いやいやあなたハンを殺してるし」と複雑な思いを抱えたはずだ。ともあれまさかのショウがファミリー入りを果たしたことで、今回の『スーパーコンボ』へと繋がることになったのだ。



2:『スーパーコンボ』は単発でも十分に楽しめる安心設計!


シリーズ初のスピン・オフとして誕生した『スーパーコンボ』だが、言ってしまえば本シリーズとは直接的な物語の接点はない。はっきり言ってしまえばホブスとショウがどのようなキャラか頭に入っていれば、残る設定は今回初めて描かれる内容と言っても過言ではない。しかも本作の鍵を握るMI6所属の女性エージェント・ハッティ(ヴァネッサ・カービー)はショウの妹であるなど、今回新たに明らかになる重要情報も多い。

そして本作の核となる新型ウィルスを所有するテロ組織や、ウィルスを体内に取り込んだハッティを執拗に追う“ブラック・スーパーマン”ことブリクストン(イドリス・エルバ)も本作で初登場。つまりワイスピファンにとっても今回お初にお目にかかる物語であり、言ってみればワイスピシリーズに新たな“流れ”が誕生した瞬間でもある。



(C)Universal Pictures 



3:アクションを知り尽くした男、デヴィッド・リーチ!


新シリーズ開幕に相応しい監督として白羽の矢が立ったのが、スタントマン出身のデヴィッド・リーチだ。リーチはノンクレジットながらチャド・スタエルスキとともに『ジョン・ウィック』を手がけたことで有名に。その後『アトミック・ブロンド』で監督として単独クレジットされることになり、さらには『デッド・プール2』監督と着実にアクション作品で名を馳せていった。

スタントや第二班監督の経験を存分に活かした演出手腕が見事に作品と合致しているリーチ監督だけあって、本作もまさにリーチ監督の真骨頂ともいうべきアクションのつるべ打ちとなっている。いやもうそれどころの規模ではなく、もはや全編がクライマックス級のシーンと言ってしまっても過言ではない。ハッティ奪還を巡るロンドンでの怒涛のカーチェイスやロシアの研究所での攻防、そしてサモアでの肉弾戦&ヘリ戦など手を変え品を変えのアクションで観る者に息つく暇を与えさせない。もちろん本シリーズあってこそのアクションの系譜だが、ここまで景気の良いアクションは近年のアメコミブームを除けば久しぶりなのではないだろうか(筆者としては『バトルシップ』と同枠なんじゃないかという思いがある)。



(C)Universal Pictures 




4:予想外の迷・名コンビぶりを発揮したホブス&ショウ


リーチ監督が生み出すアクションに大きな魅力を注ぎ込んだのは、紛れもなくそのアクションを乗りこなしてみせたロック様とステイサムだろう。パワー系アクションとスタイリッシュ系アクションで系統は違うものの、むしろそれが作品内で絶妙なコンビネーションを生み出すことになっている。片やTシャツの袖が悲鳴を上げるほどガチムチなロック様と、ビシッとスーツを着こなしたステイサムという見た目も凸凹感を全開にしつつ、揃って軽妙な演技によってトーンがぴたりと合うのだから心地が良い。

決してショウが犯した罪を忘れたわけではないが、そこはステイサムの魅力がカバーしているといったところか。シリーズ3作目『ワイルド・スピード/TOKYO DRIFT』から脚本を担当しているクリス・モーガンによれば本作並びに今後もショウは過去の過ちと向き合うことになり、今回もちらりとだがショウが言及する場面があるので聞き逃さないようにしてほしい。

またハッティ役のヴァネッサ・カーヴィーの眩しいまでの魅力も、本作には必要不可欠となっている。カーヴィーは『アバウト・タイム』や『エベレスト』などへの出演を経て、昨年公開された『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』で演じたホワイト・ウィドウ役で注目を浴びた存在。本作ではロック様・ステイサム・エルバに囲まれながらも引けを取ることはなく、むしろバランスを調整する役としても重要な意味をなしているのではないだろうか。兄のショウに勝るとも劣らない格闘術のセンスも抜群で、役柄を超えてカーヴィーの存在は今後の映画界でも重宝されるのではないかと思える。



(C)Universal Pictures 



5:細かいことは気にするな、乗るっきゃない。このビッグウェーブに!


前述のように本作は言うなれば新シリーズの開幕に当たるが、正直言って頭を空っぽにしなて鑑賞することをおススメしたい。もちろん物語の骨子となる部分(テロ組織の存在やホブス&ショウの関係性など)はあるものの、映画は序盤から「君たちが観たいのはこんなアクションなんだろう?」と製作側の思惑が見え隠れしているようなシーンが連続する。それはホブス&ショウに限らず、今回ヴィランを演じたイドリス・エルバのどっしりした重厚感漂うクールなアクションもまた大きな魅力になっている。『パシフィック・リム』で熱血司令官ペントコスト長官を演じていた姿が懐かしいところだが、ブリクストンが魅せる存在感もさすがのひと言。特にオートパイロットのバイクとともに駆る姿は惚れ惚れするほどで、エルバの起用は大正解だったと言える。

どうしてもアクションばかり注目しがちになってしまうが、実はしっかりと本シリーズに流れるテーマ性を継承している点も特筆すべきところだ。本シリーズももちろんカーアクション(最近はそれだけにとどまらなくなったが)を売りにしているが、一方で“家族”或いはそれに似た絆を描き続けていることも忘れてはいけない。特にシリーズ7作目の『スカイ・ミッション』はポール・ウォーカーが不慮の事故で他界したこともあり、ラストで本シリーズが描き続けてきた家族という形の到達点を観客に示して見せた。

本作ではそもそもショウとハッティは血の繋がった兄と妹であるし、そんな2人の仲を心配する母親クイニー(ヘレン・ミレン)の存在もちょっとしたアクセントになっている。またホブスの生まれ故郷であるサモアの家族は本作で大きな役割を果たしており、ラストの決戦は彼らがいてこその盛り上がりを見せる。ホブス&ショウの横の繋がりだけでなく縦軸を描くことで実はちゃんと物語に深みを与えて、ただのアクションに終始しないところが本作の魅力でもある。下手に考えず、スクリーンから受け取るままに物語を“体感”した方が、本作は鑑賞中も、そして鑑賞後も胸の中で大きく躍動し続けるのだ。



(C)Universal Pictures 



まとめ


重ね重ねになるが、本作は近年稀に見るほどエンターテインメントに特化した作品であり、純粋に「映画」というコンテンツを楽しめる仕組みになっている。ずば抜けたアクション演出に魅力的なキャラクター。それぞれが映像を、物語を補い合うので暇になる瞬間がない。

今回のスピン・オフを軸として今後どのようなエピソードが誕生するかは未知数だが、おそらくいくらでもストーリーを生み出す余地はあるだろう。それが本シリーズと合流するようなことがあればワイスピファンとしてますます楽しめるところだが、まずは絶好の船出を飾った本作を心から(あある意味童心に帰れる気楽さのようなものでも良い)楽しんでほしい。

(文:葦見川和哉)

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