映画コラム

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2017年08月28日

女優・芳根京子の素晴らしさを今でこそ語る!映画『わさび』はその集大成だ!

女優・芳根京子の素晴らしさを今でこそ語る!映画『わさび』はその集大成だ!



(C)外山文治 2016


8月26日より、短編作品集『わさび』、『花なれや』、『此の岸のこと』が渋谷ユーロスペースにて、2週間限定でレイトショー上映されます。実はこの『わさび』、NHKの連続ドラマ「べっぴんさん」で大ブレイクした芳根京子が主演を務めており、彼女の魅力が最大限に表れた映画であったのです!

ここでは、芳根京子が主演または出演した映画を振り返り、どのようなヒロインを演じてきたか、そして若手女優としていかに頭一つ抜きん出ている存在であるかを記していきます。

1:『物置のピアノ』:冒頭の激しい演奏に聞き入って!





「べっぴんさん」で芳根京子は、引っ込み思案でおとなしいけれど、芯は通っている女の子を熱演されていました。映画初主演作『物置のピアノ』では(も)、芳根京子は自分勝手な姉に振り回されつつも、確かな自分の意思を持つ女子高校生に扮しています

圧巻なのは、映画が始まって数分後のピアノの演奏!芳根京子はもともとピアノが得意だったそうですが、この映画に挑む前にも猛特訓をしていたとのこと。映像作品でしかできない、「おとなしそうに見えるけど、ピアノの音色を聞くと、心に抱えた何かがある」という心理描写にも感服しました。

東北大震災から1年が経過した福島県桑折町を舞台に、家族を失った人々の苦悩や、後継ぎ問題で揺れる桃農家の現状などが描かれています。そこから紡がれる“自分の進む道を探す”若者たちの物語は、多くの方の琴線に触れることでしょう。

2:『向日葵の丘・1983年夏』:映画が大好きな女子高生に!





タイトルの通り、1983年を舞台とした青春映画です。DVDが存在しないどころかビデオデッキも普及し始めたばかり、娯楽の基本は雑誌とテレビ、1000円札には伊藤博文が描かれている……そのような時代で、女子高校生たちが映画づくりに励むす姿が描かれています。

“和製ニュー・シネマ・パラダイス”という触れ込みは伊達ではなく、劇中の自主制作映画は『俺たちに明日はない』や『雨に唄えば』などをオマージュし、その他にも名作映画への愛に溢れたシーンばかり!今のアラフォーからアラフィフ世代であれば当時のノスタルジーにたっぷり浸れますし、若い人が観ても当時の文化を知ることできて面白く観られるでしょう。映画部の部長が“ボクっ娘”であるということも見逃せません。

芳根京子は、その映画が大好きな女子高生の1人をかわいらしく演じています。天真爛漫でありながらも、時には厳格で融通の効かない父と衝突することもある……そのキャラクター造形は秀逸です。終盤に次々に明らかになる“切ない事実”にも涙腺が刺激されてしまいました。もっと多くの人に観て欲しい作品です。

3:『先輩と彼女』:憧れの先輩の前でキョドってしまうのがかわいい!






中高生向けの恋愛映画のヒロインも、芳根京子は魅力的に演じきっています。憧れの先輩のイケメン行動を親友に喜々として話したり、勇気を振り絞って先輩に対しての想いをたどたどしく訴えるシーンは「どれだけかわいいんだ!」と叫びたくなるほどでした。

さらに出色なのは、ヒロインが酔っ払って先輩におぶってもらうシーン。彼女は勢いで先輩に対しての不満をぶちまけてしまうのですが、その時の彼女の言動も嫉妬心がむき出しすぎて、とてもかわいいのです。こんなの惚れてしまうわ!

志尊淳が演じた「ぶっきらぼうだけど、内面は優しい」先輩のキャラも秀逸です。彼が繰り出す“タイミングが不自然すぎる壁ドン”は、その不器用さをも表しているようで大好きでした。それにしても、本作の志尊淳のイケメンっぷりは『帝一の國』のひたすらにキュートなぶりっ子キャラとぜんぜん違う!若手実力派俳優の本気を思い知りました。

4:『64 -ロクヨン- 前編・後編』:父に猛反発をする少女を熱演!






時効寸前となった誘拐事件を題材としたサスペンスであり、事件そのものだけでなく、広報官と記者クラブとの軋轢などの警察組織での問題にも焦点が当てられた人間ドラマでもあります。若手からベテランまで演技派の俳優たちが総出演しており、その鬼気迫る会話の応酬だけでもグイグイと引き込まれるものがあるでしょう。

芳根京子は、佐藤浩市演じる広報官の娘として出演。父に猛反発をする少女を、“凄み”までも感じさせる熱量で演じていました。出演時間は決して多くはないのですが、前後編に分かれた大ボリュームの映画の中でも、格別の存在感を見せつけています。

5:『心が叫びたがってるんだ。』(実写版):しゃべらないけど、内に秘めたものがあるヒロインに




(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ


芳根京子がこの作品で演じたのは、過去に犯した罪のために“しゃべるとお腹が痛くなってしまう”というヒロインでした。そのために中盤まではほとんどセリフがないのですが、その苦しみと“内に秘めた想い”を、芳根京子は細やかな表情の変化で見事に表現しきっていました。

劇中では高校生たちがつくるミュージカルが重要な要素になっています。原作のアニメ版を観ていると、より“生身の人間が演じている”からでこその感動を得られるでしょう。芳根京子の澄み切ったような声(歌声)の魅力と、そして豊かな表現力を最も感じられるのが、本作なのではないでしょうか。

※筆者は以下の記事も書いています。後半の重大なネタバレがあるのでご注意を↓
『心が叫びたがってるんだ。』(アニメ版)、ヒロインのキャラクターを考察する

6:『わさび』:“アンパンマン”のような自己犠牲をいとわないヒロインに




(C)外山文治 2016


最新作『わさび』で芳根京子が演じているのは、心の病を抱えた父のために、寿司屋を継ごうとしている女子高生です。

劇中でヒロインは、進路相談をしていた先生に“アンパンマン”に例えられてしまいます。自分を犠牲にしてでも、誰かに“分け与えている”その姿がそっくりだと……。だけど、そんな彼女も望んでそのような役回りになったのではなく、“仕方なく”そうしているにすぎません。現実での“将来の選択肢”に悩むその姿は、前述した『物置のピアノ』のヒロインにも通じていました。

外山文治監督はこの『わさび』を手がけるにあたって、「映画の中の10代はいつも夢に向かってキラキラしていますが、現実にぶつかって夢を諦めざるをえない状況の子だっています。そんな彼らも、明日を夢見て青春を謳歌している子に負けないくらいに輝いているはずです」という想いを持っていたそうです。

この監督の言葉通り、本作の芳根京子は不遇な状況に追い込まれていたとしても、強く、そして輝いているように見えます。この青春映画としての魅力は、監督の手腕もさることながら、芳根京子という女優の存在があってこそでしょう。

7:芳根京子が演じてきた役には一貫性があった




(C)外山文治 2016


偶然ではあるのでしょうが、こうして芳根京子が演じてきた映画作品を振り返ってみると、「夢や好きなことがあるけれど、辛い現実とのギャップに苦しむ」という役が多いことがわかります。

『わさび』は上映時間がわずか30分の短編ではありますが、その苦悩が彼女の卓越した演技力と細やかな表情の変化で、“これでもか”とわかるようになっていました。芳根京子という女優の集大成とも言える役柄になった、と言っても過言ではないでしょう。

余談ですが、『わさび』の舞台は、あの『君の名は。』の田舎町のモデルにもなった飛騨高山です。その風景の美しさだけでも楽しめますし、鉛色の空と、粉雪が舞う気候には『君の名は。』とはまた違う飛騨高山の魅力を感じられるでしょう。

8:個人制作・個人配給だからでこそ、応援したい!




(C)外山文治 2016


短編作品集『わさび』、『花なれや』、『此の岸のこと』は、実は“個人製作”および“個人配給”がなされています。というのも、外山文治監督がポスター作り、ホームページのデザイン、試写会の手配、チラシ作りまで、全部1人で手がけていたのだとか!

そのような状況であったにも関わらず、『わさび』では芳根京子だけでなく下條アトム、『花なれや』では吉行和子と村上虹郎という豪華キャストが配役されています。これは、出演して欲しい俳優に直筆の手紙を書くという“直接のオファー”をした外山監督の行動力と誠実さのおかげもあるのでしょう。

製作やプロデュースまでを兼任していることに「誰もやってくれる人がいないからやっているだけです」と自虐的に言いながらも、「実際は周囲の方々に支えられているおかげで活動できています。本当に感謝してもし尽くせない想いです」と語った外山監督の言葉にも、胸が熱くなりました。大々的な宣伝をする大作映画が多い今だからでこそ、この短編作品集を応援したいのです。

9:セリフが少ない/皆無だからでこそ、映画としての魅力に満ちていた!




(C)外山文治 2016


言うまでもなく、この短編作品集で魅力的なのは『わさび』だけではありません。

『春なれや』は20分という短い上映時間で、ごくごく限られたセリフで紡がれた物語でありながら、“価値観”や“コミュニケーション”に鋭い見識を与える内容になっています。吉行和子の演技も素晴らしく、そしてかわいい!

『此の岸のこと』は、セリフが少ないどころか全編においてセリフが皆無!そうであるのに、介護生活の果てに、湖畔での心中へと向かうまでの夫婦の心情が細やかに、時に痛烈に表れていました。映画でしか成し得ない“登場人物の心情を読み取る”醍醐味を感じられることでしょう。

短編映画『わさび』、『花なれや』、『此の岸のこと』は、渋谷ユーロスペースにて、8月26日より2週間限定でレイトショー上映です。芳根京子のファンはもちろん、多くの方が劇場に足を運んでくれることを期待しています。

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(文:ヒナタカ)

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