2020年のロードムービー傑作10選|旅をしづらい今こそ観てほしい!
実は、2020年に日本で公開された映画には、様々な土地を渡り歩きながら冒険する「ロードムービー」というジャンルの映画が充実していたのです。その10作品を紹介しましょう。
1:『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』
ツキに見放された漁師と、施設から脱走したダウン症の青年が旅をし、その2人を看護師の女性が追いかける様を描いた物語です。そのダウン症の青年の旅の目的は、子どもの頃から憧れていたプロレスラーの養成学校に入ること。一方で漁師は、実は他人の獲物を盗んで追われる身という、とても褒められたものではない理由で彼についていくのです。
そんな凸凹コンビがいつしか心を通わせていく様は、アカデミー賞の作品賞ほか脚本賞と助演男優賞を受賞した『グリーンブック』を思わせます。誰もが楽しめるキュートで優しい内容であり、一時は米批評サイトRottenTomatosで批評家の支持率100%の超高評価、わずか17館の上映館数から1500館近くまで公開簿が広がったというヒットも納得できました。鑑賞後には、「新しいことにチャレンジしてみようかな」という希望が持てるでしょう。
2:『ソニック ザ・ムービー』
世界中で大人気のゲームキャラクター、ソニック・ザ・ヘッジホッグを主役に迎えた作品なのですが、新型コロナウイルスの影響を早くに受けることになりました。全世界で3週連続No.1、『名探偵ピカチュウ』を超えてゲーム原作史上最高の興行収入記録を樹立したものの、その後はコロナの影響で多くの映画館が封鎖。日本では3月上映予定のスケジュールが6月まで延びた上に、その公開日と同日にジブリ4作品のリバイバル上映がスタートしたこともあって、週末興行収入ランキングでは6位スタートという憂き目にあっていたのです。
本編はそのタイミングの悪さが心からもったいないと思える、娯楽映画の面白さが詰まった傑作でした。序盤のソニックの「生活」の描写から涙を誘い、ソニックというキャラクターを最大限に生かしたハイスピードアクションに大興奮、伏線がそこかしこに忍ばせた作劇も見事と、全方位的に優れた内容だったのです。子どもが観たら間違いなく映画が好きになる、原作ゲームを知らなくても楽しめる、万人向けのエンターテインメントとしてオススメします。
3:『2分の1の魔法』
自分に自信がない弟と、デリカシーのない兄が共に旅をする物語です。世界の命運などが絡まない、「もう一度少しの時間だけでもいいから亡くなった父に会いたい」というパーソナルな内容になっていて、悪意のあるギャグや、斬新なカーチェイスも盛り込まれた、心から楽しい娯楽作になっていました。きょうだいへの愛情だけでなく「ウザさ」を感じたことがある方は共感すること必至。そして終盤の母の行動には、親御さんこそ涙するのではないでしょうか。
また、前述の『ソニック・ザ・ムービー』とは、ロードムービーであること以外にも、主人公が「夢のリスト」を作っていることや、途中で立ち寄る場所など、偶然にも共通しているところが多かったりします。さらに、この『2分の1の魔法』と同日には勉強漬けの女子高生2人が“リア充”へのパーティ会場に駆けつける様を追った『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』という、こちらも凸凹コンビが車に乗って目的地を目指す物語の映画が公開されていました。こうして似た特徴を持つも、それぞれが独自の魅力を放つ映画が同時多発的に公開されたというのも、2020年の映画の傾向と言えるのかもしれません。
4:『異端の鳥』
美しいモノクロームの映像で綴る、169分という上映時間をたっぷりと使った、ホロコースト時代の少年の旅を綴った作品です。性と死と暴力が充満するその道程はこの世の地獄と呼ぶに相応しく、R15+指定でもギリギリと思われる残虐な出来事が立て続けに起こり、「子どもにそれだけはやめてくれ…!」と思うことも容赦なく描写されます。それらの苛烈なシーンの撮影のため、子役を現場から外して大人の役者が身代わりになっていたり、少年に付き添い人をあてがって十分なサポートをするなど、撮影上における配慮は十分に行われていたそうです。
いかにも観る人を選びそうな作品ではありますが、各エピソードはわかりやすく難解さはありません。こんな旅には絶対に出ていきたくはないですが、ただ露悪的に残虐なだけでなく、戦争が起こる世界での子どもへの加虐性の表出、異質と判断された個人への差別や迫害の恐ろしさを受け手の感情をダイレクトに刺激する手法で実感できる、高い志を持った作品であるということも、強調しておきたいです。
5:『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』
2019年に日本でも字幕版が小規模で公開されていた中国製のアニメ映画であり、この2020年には超豪華な声優陣を迎えた日本語吹き替え版が公開されました。コロコロと表情を変える猫の妖精の男の子がとにかく悶絶する可愛らしさで、コンビとなるクールな青年(年齢不詳)と初めは反発し合うも、少しずつ交流し認め合っていく様はこの世の尊みに満ち満ちています。日本のアニメ作品に影響を受けたハイススピードアクションがたっぷり盛り込まれ、対立する価値観がぶつかり合う作劇の奥深さも備えており、老若男女を問わずに誰もが楽しめるエンターテインメントとして完成されていました。
口コミにより徐々に人気を集め、ファンアートがSNSにたくさん投稿されるという盛り上がりは、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』や『若おかみは小学生!』でもみられたムーブメント。2020年は『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』は言うまでもなく、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』もヒットし絶賛で迎えられるなど国産アニメ映画が注目された年でしたが、この『羅小黒戦記』の他、後述の『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』や『ウルフウォーカー 』など海外アニメ映画の傑作も続々と世に送り出された年でもありました。『羅小黒戦記』は現在は上映終了した劇場も数多いですが、この年末年始にも追加で公開されている劇場がありますので、ぜひチェックをしてみてください。
※『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』はこちらの記事でも紹介・解説をしています↓
『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』の「7つ」の盲点
6:『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』
『コララインとボタンの魔女』や『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』などで知られる、パペットや小物を少しだけ動かして撮影して、また少しだけ動かして撮影して……という、尋常ではない労力を賭して作られる、ストップモーションアニメの製作スタジオ「ライカ」の最新作です。物語は「自己チューな男と純粋なビッグフットが世界横断の旅へ!」という単純明快な冒険活劇であり、「どうやって撮っているの!?」と心から驚けるアクション、美しい雪や水や雨の表現など、1シーン1シーンが「眼福」としか言いようのない喜びに満ち溢れていました。製作期間は5年にもおよび、細部の細部までこだり抜いた、血の滲むような作り手の努力、いや執念は画面からきっと伝わるでしょう。
数々の名作映画のオマージュがあることも特徴であり、主人公が情熱的で風変わりで目的のためならなんでもやる(性格は悪いけど)ヒーローらしさがあること、女性との浅からぬ因縁があるのは『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から始まる『インディ・ジョーンズ』シリーズ、主人公コンビの掛け合いは『シャーロック・ホームズ』のホームズとワトソンの関係、また、冒険のスケールの大きさや鮮やかな色彩は『八十日間世界一周』から影響を受けています。それらを親しんできた大人が観れば、きっと「失った(ミッシング)したものを見つけていく物語」にも、大きな感動があるはずです。
※『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』はこちらの記事でも紹介・解説をしています↓
『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』特別座談会!女流棋士の香川愛生がシャーロック・ホームズの豆知識を語る
7:『家なき子 希望の歌声』
日本でもアニメ化されていた、有名児童小説の映画化作品です。義父に売り飛ばされた11歳の少年が旅芸人の親方と旅をし、年齢を超えた友情と信頼関係を育むという物語で、フランスの美しい風景と美術にずっと見惚れることができるという充実感がありました。お供となる動物たちも可愛らしく、途中で出会う少女との交流もほっこりと笑顔になりますが、その反面、厳しい「運命」が待ち受けていたり、終盤に緊迫したサスペンスも用意されているなど、一筋縄ではいかない内容にもなっていました。
熊谷俊輝や山路和弘による日本語吹き替えも素晴らしい出来栄えで、少年の綺麗な歌声や純粋さ、おじいさんのツンデレぶりがより強調されているように聞こえるというのも魅力の1つ。アニメ映画しか観たことがないというお子さんにも、ぜひおすすめしたい逸品です。
8:『魔女見習いをさがして』
女児向けアニメ「おジャ魔女どれみ」の派生作品ですが、その物語の続編というわけではありません。子どもの頃に「おジャ魔女どれみ」を観ていた、年齢も、住む場所も、悩みも全てが違う3人の大人の女性が出会い、共に“聖地巡礼”に出かけたりするという、「おジャ魔女どれみ」を作品内でフィクションとして扱うという構造の物語になっているのですから。
本作は「おジャ魔女どれみ」に限らず、「子どもの頃に好きだった作品がある大人」は必見でしょう。共通の趣味を持つ「オタク」でもある女性たちの冒険を通じて、その「好き」という気持ちを全力で肯定していくのですから。その過程で人生の転機を迎える様、男性ばかりに頼ららない現代らしい女性観が描かれており、現実世界には存在しない「魔法」の向き合い方も素晴らしいものになっていました。
9:『ヒトラーに盗られたうさぎ』
ドイツの絵本作家の自伝的小説の映画化作品です。9歳の女の子とその家族が逃亡生活に身を投じるまでの「のっぴきならなさ」が初めからリアルに提示され、その後も周囲に残酷な事実が垣間見えるのですが、平和でほのぼのとしているシーンも多いということも特徴です。少女(女性)のみずみずしい感性で戦争の時代を見つめていることなどから、『この世界の片隅に』も思い出しました。
ちなみに、2020年はナチス・ホロコーストが物語関わる映画作品が充実しており、前述の『異端の鳥』の他、ドイツの激動の時代に生きる芸術家の半生を描きながら「アートとは何か」という問いに明確な答えを打ち出した『ある画家の数奇な運命』、捕虜となったナチス兵が名門サッカークラブに入団する実話を映画化した『キーパーある兵士の奇跡』、小さな村に住む羊飼いの少年とナチスの迫害から逃げてきた青年が子どもたちを安全に逃がす計画を立てる『アーニャは、きっと来る』、家族を喪い孤独の身になった16歳の少女が寡黙な医師と交流する『この世界に残されて』も公開されました。
10:『Away』
たった1人のクリエイターが、3年半かけて完成させたというアニメ映画です。「飛行機事故で島に不時着した少年が小鳥と共にオートバイの旅に出る」という物語であり、神秘的な世界を渡り歩き、それぞれで抽象的な出来事が続き、セリフが一切ないということもあって、多分に想像力を刺激される内容になっていました。一歩間違えば死が訪れる、ハラハラできるアクションも盛り込まれ、十分なエンターテインメント性も担保されています。
たくさんの日本のアニメおよびゲームから影響を受けた作品であり、その例をあげると『未来少年コナン』や『母をたずねて三千里』や『ワンダと巨像』や『人喰いの大鷲トリコ』など。良い意味での「孤独感」がある作劇や広大な舞台、そして荘厳な音楽が全編にわたって展開するので、現在公開中の劇場でこそ観てほしいと、切に願います。
おまけ:「新たな世界を知っていく」感動のある映画も数多く公開
上記にあげたロードムービーのように、様々な土地を渡り歩きながら冒険するというわけではありませんが、2020年には「新たな世界を知っていく」過程が描かれた映画も数多く公開されていました。車椅子の女性が“性”をきっかけに意外な冒険に出発する『37セカンズ』、抑圧的な環境に住む少女と森で自由奔放に生活している少女と出会う『ウルフウォーカー』、実写映画版とは違ったアプローチで車椅子の女性が男性と恋をして「物語」の意味を解く『ジョゼと虎と魚たち』、ポケモンに育てられた少年が人間の世界と出生の秘密を知っていく『ポケットモンスター ココ』、ジャズミュージシャンを夢見ながら音楽教師をしている中年男性が魂の世界に迷い込む『ソウルフル・ワールド』(配信作品)がそうです。
新たな世界を知っていくことは、ちょっと怖くもあるけれど、精神的な成長はもちろん、人生の意義を見つけるきっかけにもなる、というのは普遍的な事実であるでしょう。これらの映画は、コロナ禍で様々な事柄が制限されてしまっている今に観てこそ、「いつか、きっと」という未来への希望をも、きっと持つことができるはずです。
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(文:ヒナタカ)
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