昭和のサスペンスが面白いのは、事件や謎解きだけじゃない。
そこには“男が男であるだけで、ある程度許された”空気が、そのまま残っている。
白衣、学問、肩書、政治力——権威は時に、人を救う道具にも、他者を踏み台にする免罪符にもなる。
今回並べた4本は、その「免罪符」を握った男たちが、どれだけ平然と嘘をつき、女を使い捨て、責任から逃げるかを、容赦なく映し出す。
“クズ男”という言葉で笑い飛ばせる軽さと、笑えなくなる冷たさ。
その境目で、昭和の物語はやけに生々しい。
『背徳のメス』——白衣は、善意の仮面にも凶器にもなる

作品データ:1961年8月6日公開/87分/モノクロ/監督:野村芳太郎/原作:黒岩重吾(直木賞受賞作)/脚色:新藤兼人/出演:久我美子、高千穂ひづる、田村高廣、山村聡 ほか。
宗教団体の資金で運営される病院を舞台に、医師・薬剤師・看護婦たちが“金と欲”の泥にまみれていく医療サスペンス。
人命を扱う場所で、最も露骨にむき出しになるのは「倫理」ではなく「損得」なのだ、と言わんばかりの導入が強烈だ。
中心にいるのは産婦人科医・植。腕はある。
だが酒と女と金にだらしない。
夜の女たちに無断で診察して小銭を稼ぎ、看護婦にも次々と手を出す。
科長・西沢もまた、金にならない患者に冷たく、現場の命を“勘定”で量る。
堕胎をめぐる対立が、やがて人間関係の殺意へ転がっていく。

男の“クズ”性(ここが刺さる)
- 権威の濫用:医療行為が「助け」ではなく「支配」にすり替わる。
- 女への搾取が日常:口説く・抱く・捨てるが、仕事の延長線で行われる。
- 責任は常に下へ落とす:白衣の下にあるのは、倫理より保身。
いま観る価値
Z世代の目には「それアウトです」のオンパレード。
でも、その“アウト”が日常の顔で横たわるから怖い。
昭和の病院は、社会の縮図だったと気づかされる。
『松本清張 内海の輪』——「若さ」は免罪符じゃない。恋は、時に刃物になる

作品データ:1971年9月28日公開/103分/監督:斎藤耕一/原作:松本清張(「黒の様式」所収「霧笛の町」)/出演:岩下志麻、中尾彬、夏八木勲、富永美沙子、赤座美代子、三國連太郎 ほか。
この物語の恐ろしさは、派手な悪事よりも「恋愛の顔をした支配」にある。
夫を亡くした美奈子の前に現れるのは、かつて弟のように接していた若い宗三。
関係は曖昧なまま熱を帯び、やがて“戻れない地点”へ進む。
清張作品らしく、情念はロマンではなく、社会と体面と劣情が混ざった“現実”として描かれる。

男の“クズ”性(ここが刺さる)
- 「好き」を盾に踏み込む:相手の弱り目に、正しさの顔で侵入する。
- 未熟さの暴力:若さや純情が、相手を縛る口実になる。
- 被害者ポジションの巧さ:「自分だって苦しい」と言いながら、結果は相手に背負わせる。
いま観る価値
SNSの恋愛観で観ると、言語化できる地雷が山ほど出てくる。
だからこそ面白い。「これは愛か、依存か、支配か」——観ながら自分の尺度が試される一作だ。
『わるいやつら』——“人格”じゃなく“肩書”で生きる男の、転落エンタメ

作品データ:1980年6月28日公開/監督:野村芳太郎/原作:松本清張/出演:松坂慶子、片岡孝夫(現・片岡仁左衛門)、藤田まこと、梶芽衣子、宮下順子、藤真利子、神崎愛 ほか。
病院の院長・戸谷は、平然と女を食い物にする。
資産家の未亡人に近づいて金を引き出し、邪魔者がいれば排除する。
医師という立場が“信用”を生み、その信用が詐欺の燃料になる。
清張の筆致は冷たいほど公平で、「こういう男は特別な悪党ではなく、社会が生む」と言わんばかりだ。
さらに凶悪なのは、周囲の女たちもまた一筋縄ではいかない点。
愛、欲、復讐、打算——感情が絡むほど、戸谷の“クズ”は加速し、そして破綻する。
昭和の濃厚な人間ドラマとしても、純度が高い。
本作は日本アカデミー賞で、作品賞・監督賞(野村芳太郎)・脚本賞・主演女優賞(松坂慶子)など複数部門でノミネートされた記録がある。

男の“クズ”性(ここが刺さる)
- “医者だから”を武器にする:信用の先払いで、人を操作する。
- 恋愛を契約にする:感情は演技、目的は出世と金。
- バレない前提で生きる:倫理ではなく、露見リスクだけを恐れる。
TVドラマ『黒革の手帖』——“クズ男だらけの銀座”で、女はどう生き延びるか

作品データ:1982年放送(全6話・各話約45分)/原作:松本清張/脚本:服部佳/出演:山本陽子、田村正和、渡辺美佐子、萬田久子、吉行和子、三國連太郎 ほか。
本作は、何度も映像化されてきた『黒革の手帖』の初ドラマ化。
地味な銀行員・原口元子が巨額横領を成し遂げ、銀座で成り上がっていくピカレスクサスペンスだ。
そして松竹側の紹介文が痛快で、「登場人物ほぼ全員悪人」と言っても過言ではない、という。
まさに“昭和クズ人間動物園”。
ここでの“クズ男列伝”は、主人公を取り巻く男たちに現れる。
政治家、医師、夜の世界の権力者——彼らは皆、女を“手に入れるもの”として扱い、都合が悪くなれば切り捨てる。
その腐った欲望の中心で、元子は被害者にも加害者にもなりながら、前へ進む。

男の“クズ”性(ここが刺さる)
- 権力の匂いに群がる:女を愛するのではなく、所有して格を上げる。
- 弱みを握る・握られる:人間関係が全部“取引”。
- 女の野望を笑う:だが笑った側から、手帖に名前を書かれる。
昭和クズ男は、笑える。でも笑い終わったあとに残る
4本を通して見えてくるのは、「クズ男」が“個人の性格”だけで出来上がっていないことだ。
病院、家庭、夜の街、銀行、政治——制度と空気が、男の横暴を支え、女の沈黙を要求していた。
だからこそ、令和の私たちが観ると痛快でもある。
権威が崩れる瞬間、恋が破滅に変わる瞬間、そして“この社会”の輪郭が露わになる瞬間に、サスペンスは一段と熱くなる。
配信サービス一覧
『背徳のメス』
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