GWにあえて推したい、“社会派映画”5選<喧騒から離れて余韻に浸るのもまた一興>
いよいよ始まるゴールデンウィーク。長期休暇を利用して旅行に出るという方がいれば、人混みに身を置かずあえて家でのんびり過ごすという方も多いだろう。
たっぷり時間がある時こそ趣味に充てるのもひとつの手段。ゴールデンウィークという気分が高まるタイミングで、今回はあえて「社会派映画」5作品を紹介していきたい。
暇つぶしのはずが、鑑賞後に必ずや何かが心に残っているはずだ。
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1:『空飛ぶタイヤ』
■リコール隠しの大企業と闘う男たちの物語走行中のトラックからタイヤが外れ、直撃を受けた主婦が死亡──。『空飛ぶタイヤ』はそんな悲劇的な事故をきっかけに、小さな運送会社が財閥系自動車メーカーの「リコール隠し」に立ち向かう様子を描く。原作は『半沢直樹』や『下町ロケット』、『アキラとあきら』など数々の映像化作品で知られる池井戸潤の同名小説。
池井戸作品といえば不振にあえぐ中小企業の大逆転劇や、企業間あるいは会社内の対立構造をスリリングに描いているのが特徴。
リベンジを果たす展開はじつに爽快だが、本作は冒頭から人ひとりの命が失われていることから、理不尽な運命がもたらす喪失感を常に拭い切ることができない。突如として「遺される立場」となった家族の魂の慟哭も映し出されるのでなおさらだ。
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
それでも本作は、巨大企業の悪事に挑む男たちの“熱”を画面にしっかり刻みこむ。特に長瀬智也演じる、事故によって矢面に立たされた「赤松運送」社長・赤松徳郎のセリフの数々は胸に響くものが多い。
また赤松運送が窮地に立たされる中、自社の不正を暴こうと行動に出る社員たち(ディーン・フジオカ、ムロツヨシ、中村蒼)も魅力的。ひとりだけの力ではない、小さな力が寄り集まって巨悪に挑む高揚感は池井戸作品ならではともいえる。
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2:『おまえの罪を自白しろ』
■中島健人vs堤真一、笑顔を封印した対決が勃発!真保裕一の同名小説を原作に、中島健人・池田エライザ・山崎育三郎・中島歩・美波・尾野真千子・堤真一ら豪華キャストを迎えて映画化した本作。
『舞妓Haaaan!!!』や『謝罪の王様』など、コメディ映画を撮る印象の強い水田伸生監督が社会派サスペンスを手がけたことも注目したいポイントだ。
(C)2023『おまえの罪を自白しろ』製作委員会
主演の中島が演じるのは、政治家一族・宇田家次男の宇田晄司。自身が立ち上げた建築会社の倒産以降は、国会議員で内閣府副大臣を務める父親・宇田清治郎(堤真一)の秘書として奔走する日々を過ごしている。
一方で清治郎は、報道記者の神谷美咲(美波)から政治スキャンダルを追求されている立場。さらに何者かによって孫娘をさらわれ、身代金ではなく「記者会見を開いてお前の罪を自白しろ」という脅迫を受ける。
(C)2023『おまえの罪を自白しろ』製作委員会
本作はストーリーが二転三転を繰り返し、政治ゲームの裏に潜む“真実”が徐々にベールを脱いでいく。政治と民間の乖離した現実はなんとも居心地が悪く、エンターテインメントでありながら妙にリアルな肌ざわりを感じてしまう。
骨太な物語に呼応するキャストの熱演も見もので、特に晄司と清治郎の親子対決は必見。誘拐事件の方針対立だけでなく、親子の確執が生むヒリヒリした緊張感も本作の大きな見どころだろう。
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3:『PLAN 75』
■現代日本に突きつけられた衝撃作「この国」に住んでいる以上、高齢化問題に目を背けることはできない。生きていれば当然年を重ね、それこそ誰もが70歳、80歳を迎える時代になった。
特に少子高齢化が進む「この国」においては、満75歳から生死の選択権が与えられる「プラン75」が施行された“近い将来の日本”という本作の舞台設定がリアルに感じられる。
(C)2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
本作が制作されたきっかけのひとつとして、2016年に発生した障がい者施設殺傷事件が挙げられる。“生産性”で人命を語る犯人の主張は大きな波紋を生み、本作でもモチーフとして描かれた上にプラン75制度の法案可決・施行の要因となった。以降、本作はプラン75で自ら死を選ぶ者とその家族や関係者たちの言葉にできないほど大きな苦悩を浮き彫りにしていく。
(C)2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
出演を即決したという倍賞千恵子が主人公・ミチを演じ、プラン75の窓口となる市役所職員・ヒロム役の磯村勇斗や、ミチと交流するコールセンター職員・瑶子役の河合優実らが名を連ねた本作。いかにも説明的なセリフは省き、役者の演技を引き出して心象的な背景などで物語る早川千絵監督の手腕は、これが長編映画デビュー作とは思えないほど。
少子高齢化社会におけるプラン75は是か非か。「いま」という時代を反映する意味では、本作は映画である以上に存在する意味が大きい。
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4:『Winny』
■憎めないキャラクター性が光る注目作革新的なファイル共有ソフト「Winny」が開発され、Winnyを悪用した違法アップロード・違法コピーが社会問題化したのは2000年代初頭のこと。事件に関連して著作権法違反幇助の疑いで逮捕されたのが、本作の主役ともいえるWinny開発者の天才プログラマー・金子勇氏だった。
(C)2023映画「Winny」製作委員会
「殺人に使われた包丁をつくった職人は逮捕されるのか」。本作のテーマを端的に表した言葉であり、観客も本作を鑑賞しているあいだずっとその言葉を咀嚼するはず。
いまは亡き天才プログラマーを近年のベストアクトと呼べるほど好演したのは東出昌大。劇中の金子が純粋にシステム開発を楽しんでいる姿を目の当たりにすればするほど、より一層作品のテーマが重くのしかかってくる。
(C)2023映画「Winny」製作委員会
筆者もWinny騒動についてはリアルタイムで目にしていたが、本作を鑑賞するまで逮捕された金子氏を「悪」だと決めてかかっていた。なおかつ裁判の経緯とその後についてはほとんど情報を知らず、事件の顛末を最後まで描いた本作を観て恥じる思いだった。自分は作品内で金子を敵視していた者たちと同じではないか、と。
それだけに、三浦貴大演じる弁護士・壇俊光ら金子を支える存在がいたことに安堵したのも事実。また最後に映し出される金子氏本人の言葉からは、2時間の物語に負けないメッセージを感じ取ることができた。
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5:『マネーモンスター』
■ジョディ・フォスターが挑んだ“社会派エンタメ”この作品、スタッフクレジットを知らずに鑑賞してジョディ・フォスターが監督だと知って驚いた人もいるのではないだろうか。しかも人生を狂わされた男の復讐劇でありながらエンタメ色がしっかり押し出されており、ハラハラドキドキさせる仕上がりになっている。その手腕は誇張抜きでお見事と言うしかない。
本作で主人公リー・ゲイツを演じるのはジョージ・クルーニー。財テク番組「マネーモンスター」の司会を務めるゲイツは、巧みなトークスキルを武器に視聴者から圧倒的な支持を得ていた。しかし彼が番組で紹介した企業の株が暴落する事態が発生。ゲイツを信用して投資をおこない、全財産を失ったという男カイル(ジャック・オコンネル)が銃を手にスタジオに乗り込んでくる──。
これだけのあらすじだと、ゲイツたち番組スタッフ対カイルの攻防戦が展開する作品だと思うだろう。しかしジョディ・フォスターが「それだけ」に終始するはずがない。
もちろん攻防戦という表現も正しいが、ジュリア・ロバーツ演じる番組ディレクター・パティのリーダーシップや、株価暴落の背後に秘められた思惑など、ストーリーが多層的に絡み合いながらクライマックスに向けて一気に加速していく力作だ。
▶︎『マネーモンスター』を観る
まとめ
社会派映画と一言でいっても、国や人種、時代背景などによって内容はさまざま。作品内のキャラクターに自分を置き換えたり、置かれた環境によって受け取るメッセージが個人間で異なっていたりと、他ジャンルにはない独特の余韻を味わえるのも社会派映画ならではの醍醐味といえるだろう。平日どころかせっかくの土曜休日に重い映画は観たくない、という時こそ長期休暇を利用するチャンス。ゴールデンウィークの喧騒から一旦離れ、胸に押し寄せるその余韻に静かに浸ってみてはいかがだろう。
(文:葦見川和哉)
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