名前を吹き込んだら、もう逃げられない――『だぁれかさんとアソぼ?』からたどる清水崇“令和の呪い”3作

金曜映画ナビ

学校の誰もいない階段、その13段目。
カセットテープに、日付と誰かの名前を吹き込む。
すると、名前を吹き込まれた人物が、その日付に謎の死を遂げる――。
2026年7月24日に公開された清水崇監督の最新作『だぁれかさんとアソぼ?』は、若者たちの間で密かに広まる、絶対にやってはいけない「遊び」を描いたホラー映画だ。

©2026映画「だぁれかさんとアソぼ?」製作委員会

軽い気持ちで始めた遊びが、現実の死を呼び寄せてしまう。
しかも恐ろしいのは、登場人物たちが一方的に呪われるだけではなく、自ら誰かの名前を選び、呪いに手を染めてしまうことにある。
清水監督は近年、『ミンナのウタ』『あのコはだぁれ?』と、音や学校、若者たちの日常に怪異が忍び込む作品を続けて手がけてきた。
最新作『だぁれかさんとアソぼ?』を入口に、共通するモチーフを持つ清水崇監督の近作3本をたどってみたい。
※本稿は、各作品の核心に触れる重大なネタバレを避けて構成しています。

『だぁれかさんとアソぼ?』――呪われるだけでなく、呪いに手を染める側へ

若者たちの間で、ひそかに噂されている遊びがある。
学校の誰もいない階段、その13段目で、カセットテープに日付と誰かの名前を吹き込む。
すると、名前を吹き込まれた人物が、その日付に謎の死を遂げるという。
最初は、ありがちな学校の怪談にすぎなかった。
しかし、遊びを試した学生たちの周囲で、実際に不可解な死が続発する。
事態を重く見た学校は、生徒たちの心のケアのため、心理カウンセラーの平瀬小春を招く。
ところが、遊びに関わった学生のひとりは、小春の妹・菜々美だった。
主人公・平瀬小春を演じるのは、FRUITS ZIPPERの鎮西寿々歌。
本作が映画単独初主演であり、ホラー作品への初挑戦となる。
『だぁれかさんとアソぼ?』が前2作と大きく異なるのは、人間が呪いを受け取るだけではなく、自ら利用してしまう点だ。
『ミンナのウタ』では、登場人物たちは呪いの音を聴いてしまった。
『あのコはだぁれ?』では、“いないはずの生徒”と遭遇した。
しかし本作では、自分の声で誰かの名前を吹き込み、呪いを発動させてしまう。
つまり、登場人物は被害者であると同時に、加害者にもなり得る。
本当に死ぬとは思わなかった。
友達同士で盛り上がっただけだった。
腹を立てた勢いで、名前を入れてしまった。
そんな一瞬の悪意や好奇心が、取り返しのつかない結果を招いていく。

カセットテープが生む、後戻りできない恐怖

呪いを発動させる道具として使われるのは、スマートフォンではなくカセットテープだ。
ここでカセットテープという道具が選ばれていることにも、重要な意味があるように思える。
階段の13段目まで行き、録音ボタンを押し、自分の声で日付と名前を吹き込む。
スマートフォンで文字を入力し、画面をタップするよりも手間がかかる。
途中でやめる時間も、考え直す時間もある。
それでも、名前を吹き込んでしまう。
その一連の行為によって、遊びに参加した人間の責任と後悔が、より生々しく浮かび上がる。
清水監督は本作について、言葉や文字、音に宿る「言霊」は、人を救うこともあれば、呪いにもなり得ると語っている。
顔の見えない相手へ悪意ある言葉を投げつけ、その言葉が一瞬で可視化され、拡散されていく時代。
『だぁれかさんとアソぼ?』で描かれる呪いは、SNS社会における無責任な言葉の恐ろしさとも重なっている。
誰かの名前を口にすること。
その名前を記録すること。
そして、その言葉が取り消せない形で残ってしまうこと。
本作の恐怖は、幽霊や怪異だけではなく、言葉を発する人間の側にも向けられている。

鎮西寿々歌が“可愛い”を捨てて挑んだ恐怖

鎮西寿々歌といえば、明るい笑顔と親しみやすいキャラクターで知られる存在だ。
しかし本作では、心理カウンセラーとして学生たちの異変に向き合い、妹を救おうとする平瀬小春を演じる。
鎮西は撮影について、「“可愛い”というものをいかに捨てるか」が課題だったと明かしている。
撮影序盤には、声の演技について清水監督から「ちょっと可愛すぎる」と指摘され、アイドルとして身につけてきた表現を抑えながら、役を作っていったという。
明るいイメージを持つ人物が、理解不能な怪異に追い詰められていく。
これは『ミンナのウタ』でGENERATIONSのメンバーを本人役として起用し、『あのコはだぁれ?』で渋谷凪咲の新たな表情を引き出した流れにも通じている。
清水監督は、出演者がそれまで築いてきたイメージを完全に消すのではない。
むしろ、その明るさや親しみやすさを恐怖との落差に変える。
よく知っている笑顔だからこそ、怯えた表情が強烈に残るのだ。

無邪気な子どもの歌声が、映画館を出たあとも残り続ける

本作のエンディングテーマを担当するのは、“ののちゃん”こと村方乃々佳。
楽曲名は映画と同じ「だぁれかさんとアソぼ?」。
幼い子どもの無垢な歌声と、終わることのない遊びを思わせる不穏な言葉が組み合わされている。
それは、『ミンナのウタ』から続く「歌を恐怖へ変える」仕掛けの最新版ともいえるだろう。
ホラー映画では、エンドロールが始まれば緊張が解けることも多い。
しかし『だぁれかさんとアソぼ?』では、物語が終わったあとに聞こえてくる幼い歌声が、観客の頭の中へ残り続ける。
映画館を出ても、映画は終わらない。
清水崇監督は今回も、観客の記憶そのものを恐怖のスクリーンへ変えている。

【作品概要】
出演:鎮西寿々歌(FRUITS ZIPPER)
星乃あんな、大西利空
向井怜衣、小國舞羽、室はんな
マキタスポーツ(友情出演)/オクイシュージ、菜 葉 菜、染谷隼生/穂紫朋子
染谷将太
監督:清水崇 
脚本:角田ルミ 清水崇 
配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/darekasantoasobo-movie/

『ミンナのウタ』――すべては、30年間眠っていたカセットから始まった

©2023「ミンナのウタ」製作委員会

『だぁれかさんとアソぼ?』におけるカセットテープと音の恐怖をたどると、2023年公開の『ミンナのウタ』へ行き着く。
物語は、人気ラジオ番組のパーソナリティを務める小森隼が、ラジオ局の倉庫で「ミンナノウタ」と書かれたカセットテープを発見するところから始まる。
そのテープは、30年前に届いたまま放置されていた。
小森は収録中、不穏なノイズに交じって奇妙な声を耳にする。そしてライブを目前に控えたある日、突然姿を消してしまう。
やがてGENERATIONSのメンバーたちの周囲にも、同じ不気味なメロディーと少女の影が現れ始める。
本作の大きな特徴は、GENERATIONSのメンバーが本人役で出演していることだ。
架空のグループを演じるのではない。
劇中でもGENERATIONSとして活動し、互いを本名で呼び、ライブの準備を進めている。
現実で活躍する彼らが、そのまま映画の中で呪われていく。
その構造によって、観客はフィクションと現実の境界を少しずつ見失っていくことになる。

目を閉じても逃げられない「音」のホラー

©2023「ミンナのウタ」製作委員会

『ミンナのウタ』の恐怖は、音から侵入してくる。
映像ならば、目を閉じることで一時的には逃げられる。
しかし、一度覚えてしまったメロディーは、耳をふさいでも頭の中で再生され続ける。
気づかないうちに、自分がその歌を口ずさんでいる。
その瞬間、観客自身も映画の呪いへ参加させられる。
また、カセットテープというアナログな媒体も効果的だ。
若い世代にとっては、使い方すらよく分からない不気味な物体に見える。
一方、カセットを知る世代にとっては、誰かの声が磁気テープの中に何十年も残り続けていること自体が薄気味悪い。
録音された声は、その人がその場からいなくなったあとも残る。
再生ボタンを押せば、過去の声が現在に蘇る。
『ミンナのウタ』は、そのカセットテープの性質を、怪異が時代を越えて侵入するための装置へ変えた。
公開約4週間時点では、観客動員38万人、興行収入4.8億円を記録したと報じられ、その反響は翌年の『あのコはだぁれ?』へとつながっていった。

『あのコはだぁれ?』――教室に、ひとり多い

 ©2024「あのコはだぁれ?」製作委員会

2024年7月19日に公開された『あのコはだぁれ?』では、恐怖の舞台がラジオ局から夏休みの学校へ移る。
補習授業に集められたのは、男女5人の生徒たち。
ところが、その教室には、“いないはずの生徒”が紛れ込んでいる。
臨時教師の君島ほのかは、目の前で起きた女子生徒の不可解な死をきっかけに、生徒たちとともに“あのコ”の正体を追い始める。
主演は、本作が映画初主演となった渋谷凪咲。
明るく親しみやすいキャラクターで知られる渋谷が、理解不能な怪異を前に恐怖を募らせていく教師を演じた。
『ミンナのウタ』が耳から忍び込む恐怖だったとすれば、『あのコはだぁれ?』は、視界の隅に潜む恐怖である。
教室、机、廊下、階段、屋上。
見慣れた学校の風景も、そこにいる人数がひとり違うだけで異界へ変わる。

人間は、目の前にいる人の数すら正確に覚えていない

 ©2024「あのコはだぁれ?」製作委員会

『あのコはだぁれ?』の怖さは、人間の記憶や認識の曖昧さにある。
この教室にいたのは、本当に5人だったのか。
あの席には、最初から誰か座っていたのか。
さっき廊下に立っていた人物は、誰だったのか。
人は普段、目の前の風景を正確には見ていない。
その盲点を突かれると、観客も登場人物と同じように、画面の隅や教室の奥を凝視するようになる。
清水監督は、『あのコはだぁれ?』が『ミンナのウタ』と同じ世界線で展開する物語であると明かしている。
同じスタッフに加え、一部の同役キャストも参加。現代の生徒たちだけでなく、彼らを取り巻く大人たちの約30年前の学生時代も物語に関わってくる。
夏の陽炎、蝉の声、忘れられた学校の記憶。
明るい夏の日差しの下に、過去の怪異が潜んでいる。
『あのコはだぁれ?』は、2024年8月22日時点で興行収入10億円、観客動員85万人を突破するヒットを記録した。

3作品をつなぐ「音」「学校」「過去から続く呪い」

『だぁれかさんとアソぼ?』『ミンナのウタ』『あのコはだぁれ?』には、いくつもの共通点がある。
まず、音。
カセットテープ、録音された声、不気味なメロディー、子どもの歌。
清水監督は、目に見えない音を怪異の通り道として使っている。
次に、学校。
階段、教室、補習授業、生徒たちの噂話。
誰もが一度は過ごしたことのある場所だからこそ、観客は恐怖を自分自身の記憶へ重ねやすい。
そして、過去から続く因縁。
忘れられた出来事や、置き去りにされた記憶が、現在を生きる若者たちの前へ戻ってくる。
過去を知らない世代が、知らないまま怪異を受け継いでしまう。
この構造は、『呪怨』以来、清水監督が描いてきた「終わることのない呪いの連鎖」にも通じている。
ただし、『ミンナのウタ』と『あのコはだぁれ?』が同じ世界線であることは公式に明言されている一方、『だぁれかさんとアソぼ?』を含む3作品が公式な三部作として発表されているわけではない。
それでも、音、学校、若者、言葉、そして過去から続く怪異というモチーフを共有する3作品は、清水崇監督の近年のホラーを連作のように味わえる作品群となっている。

「聴く」「遭遇する」「吹き込む」――近づき続ける呪い

3作品を並べると、人間と呪いの距離が少しずつ縮まっていることが分かる。
『ミンナのウタ』では、呪いを聴いてしまう。
『あのコはだぁれ?』では、“いないはずの生徒”と遭遇する。
『だぁれかさんとアソぼ?』では、自分で誰かの名前を吹き込んでしまう。
最初は、誰かが残したカセットを再生しただけだった。
次は、忘れられていた存在が教室へ紛れ込んできた。
そして最新作では、人間自身が誰かを選び、呪いを起動させる。
幽霊の力が強くなっているのではない。
人間の側が、呪いへ近づいているのだ。

『呪怨』の清水崇が描く、令和の怪談

『呪怨』では、強烈な呪いが染みついた「家」が恐怖の中心にあった。
その場所に関わった人々が、逃れがたい呪いの連鎖へ巻き込まれていく。
しかし近年の3作品では、恐怖の入口はさらに身近になった。
カセットを再生する。
歌を聴く。
教室にいる人数を数える。
学校の階段を上る。
誰かの名前を録音する。
どれも、若者が興味本位で試せてしまうほど簡単だ。
呪いの場所へ出かけるのではない。
普段使っている道具や、毎日通う学校、何げなく口にする言葉そのものが、呪いの入口になる。
それが、清水崇監督が提示する令和のJホラーなのだ。

“だぁれかさん”は、画面の中だけにいるのか

『だぁれかさんとアソぼ?』で最も恐ろしいのは、階段の13段目でも、古いカセットでも、そこに現れる怪異でもないのかもしれない。
誰かを傷つける言葉を、軽い気持ちで口にできてしまうこと。
その言葉がどこまで届くのか想像せず、記録し、送信し、拡散できてしまうこと。
映画の中で名前を吹き込む若者たちと、画面越しに誰かを攻撃する現代の私たちとの距離は、それほど遠くない。
“だぁれかさん”とは、正体不明の怪異であると同時に、遊びのつもりで一線を越えてしまう人間のことでもある。
映画館を出たあと、再生ボタンを押す前にためらう。
誰もいない教室をのぞく前に、人数を数えてしまう。
そして、誰かの名前を口にする前に、ほんの少しだけ考える。
その小さなためらいこそ、清水崇監督のホラーがスクリーンの外へ持ち帰らせる、最も長く残る恐怖なのである。

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