【生誕120年】小津安二郎——日本が世界に誇る“庶民派巨匠”


2023年12月12日に、日本映画の歴史に偉大な足跡を残した小津安二郎監督が生誕120年を迎えます。(ちなみに没後60年)

小津安二郎というと、記録的な大ヒットや豪華絢爛な画作り、海外での受賞歴などが多くないこともあって、黒澤明監督や溝口健二監督と比べると国内では「知る人ぞ知る」「映画ファンは知っている」存在になりがちですが、海外では多くのフォロワーを産み、国際的な評価を集めています。

今年の第36回東京国際映画祭では、4Kデジタル修復された名作の数々が大々的に回顧上映されました。

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超駆け足“小津安二郎”伝

(C)1962/2013 松竹株式会社

小津安二郎は120年前の1903年に東京で生まれました。自宅の近くに映画館があったこともあって、幼少から映画にのめりこみます。

そして1923年に松竹キネマ蒲田撮影所に入社。スタッフとして研鑽を積みながら1927年に長編映画監督デビュー。以降1928年に5本、1929年に6本、続く1930年には7本の作品を撮り上げました。

1930年代に入ると小津安二郎の評価は高くなっていきますが、そこで日本は戦争の時代に入っていきます。小津も招集に応じて最終的にシンガポールで終戦を迎えます。

小津が帰国したのは1946年。翌年から監督に復帰、批評・興行の両面で成功をおさめることになりました。

トーキー映画やカラー映画、ワイドスクリーンへの移行など映画を取り巻く状況が大きく変わりつつある中でも、小津は自身のスタイルを崩さず、やがてそのスタイルは“小津調”と呼ばれるものに昇華されていきます。

(C)1951 松竹株式会社

15本以上の作品に出演した笠智衆をはじめとする俳優陣や脚本(原案)の野田高梧、撮影の茂原英雄などは小津作品に欠かせない常連として“小津組”と呼ばれ、10本以上に関わった人達が多くいます。

その後も『晩春』『麦秋』といった作品を撮り、映画監督としての地位を築き挙げて国内の賞レースの常連に。

1962年に『秋刀魚の味』を発表、結果としてこれが最後の監督作品となりました。そして1963年に還暦を迎えた当日(つまり誕生日)に60歳の若さでこの世を去りました。

代表作『東京物語』と多くのフォロワー

『東京物語』(C)1953/2011 松竹株式会社

小津安二郎監督の作品はサイレント映画時代から多くの作品あります。そんな中でも代表作と言えるのが、1953年の『東京物語』でしょう。

この『東京物語』は2012年英国映画協会の映画雑誌「Sight&Sound」が発表した“映画監督が選ぶランキング”で1位に輝き、2023年の同ランキングでも同率の4位に輝いています。またMOMA・ニューヨーク近代美術館にフィルムが収蔵されています。

『東京物語』は広島・尾道で暮らす夫婦(笠智衆と東山千栄子)が東京で暮らす子どもたちを訪ねて歩くという物語。日常生活に忙しい子供たちは、両親に対してどうしてもぞんざいな扱いをしてしまいます。唯一親身になって二人に接してくれるのは戦死した次男の妻の紀子(原節子)だけでした。



シンプルな物語ですが、時代の変遷によって変わっていく“家族の在り方”を描いたものとして高い評価を受けています。

特に海外ではフォロワーが多く、1990年のジュゼッペ・トルナトーレ監督の『みんな元気』、台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の一青窈や浅野忠信が出演した『珈琲時光』(2004年/小津安二郎生誕100年記念)などは『東京物語』へのオマージュ精神溢れた作品と言えます。

またイランのアッバス・キアロスタミ、アメリカインディーズ映画の雄ジム・ジャームッシュ、フィンランドのアキ・カウリスマキなどの作品では“小津の因子”を見てとれます。

当然、国内でもフォロワーは少なくなく『Shall we ダンス?』の周防正行監督は長編デビュー作のピンク映画で思い切りパロディをやっていますし、『CURE』や『スパイの妻』の黒沢清監督や『EUREKA』、『共喰い』の青山真治監督などは“小津の影響”を公言しています。

また、2013年の山田洋次監督作品『東京家族』は実質的なリメイク作品と言えるでしょう。

▶︎『東京物語』を観る

『PERFECT DAYS』小津安二郎フォロワー最新作

『PERFECT DAYS』©️2023 MASTER MIND Ltd.
▶︎『PERFECT DAYS』画像をすべて見る

今年の第36回東京国際映画祭の審査員長を務めたドイツのヴィム・ヴェンダース監督は、“小津フォロワー”を公言している監督の一人です。

『ベルリン、天使の詩』『パリ、テキサス』などで知られるヴェンダース監督は1985年にドキュメンタリー映画『東京画』を製作。映画内では鎌倉の小津安二郎の墓所に参ったほか、『東京物語』の主演の笠智衆や小津組名カメラマン厚田雄春等にインタビューを敢行しています。

また妻のドナータ・ヴェンダースと共に京都から、『東京物語』のもう一つの舞台ともいえる広島・尾道への道中を収めた写真展「尾道への旅」も開催されています。

『PERFECT DAYS』©️2023 MASTER MIND Ltd.

そんなヴィム・ヴェンダースの最新作は“東京”を舞台にした『PERFECT DAYS』です。

もともとは渋谷区内の公共トイレを刷新する“THE TOKYO TOILET”プロジェクトのPRを意図した短編オムニバス映画の企画でしたが、ヴェンダースに声がかかったところから長編企画にシフトチェンジ。

結果として主演に役所広司を迎えて、公共トイレを強いプロ意識をもって清掃し続ける男の物語を創り上げました。

『PERFECT DAYS』©️2023 MASTER MIND Ltd.

ヴェンダース監督は公共のモノであって日々折り目正しいサービスを提供し続ける日本の感性に感銘を受けたと語っています。

ちなみに役所広司演じる主人公の名前である“平山”は、小津安二郎の『東京物語』や『秋刀魚の味』で笠智衆が演じた役名と同じです。

本作は第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の作品としてプレミア上映されると高評価を受け、主演の役所広司が男優賞を受賞これは2004年の是枝裕和監督の『誰も知らない』で柳楽優弥が受賞して以来の19年ぶりの快挙でした。役所広司は、この結果を受けて「やっと、柳楽君に追いつけた」というお茶目なコメントを出しています。

『PERFECT DAYS』をきっかけに

『PERFECT DAYS』©️2023 MASTER MIND Ltd.

映画に限らずカルチャー全般に言えることですが、その中身は毎日のように刷新されています。特に近年は大量生産大量消費に拍車がかかり、現在進行形のものをカバーするだけでも手一杯なのが現状です。

そんな中で、歴史を遡って過去の名作・秀作に手を拡げるというのはなかなか大変なことですが、なにか“ちょっとしたきっかけ”があるとグッと身近に距離が近づくときがあります。

12月22日(金)公開の『PERFECT DAYS』は、小津安二郎に触れるにはぴったりな“ちょっとしたきっかけ”になってくれると思います。

『PERFECT DAYS』きっかけで小津安二郎の存在を知った方は、生誕120年で各種イベントも展開されているので、ちょっと手を伸ばしてみるのも良いかと思います。

▶︎小津安二郎特設サイト

(文:村松健太郎)

『PERFECT DAYS』


  • 『PERFECT DAYS』

    12月22日(金) より TOHO シネマズ シャンテほか全国ロ
    ードショー!

    ■配給:ビターズ・エンド



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