「正義 VS 悪」という単純な構図を超え、自らの素性を偽って敵地に入り込む潜入捜査は、スパイ映画とも刑事ドラマとも違う独特のカタルシスを生みます。
今回はそんな“二重生活”のスリルが味わえる洋画から、公開順に2本をセレクト。
――誰が味方で、誰が裏切り者なのか? 緊張感の先に待つドラマと、主演俳優たちの“仮面”演技をとことん堪能してください。
『エイリアン・コップ』〈原題:Peacemaker〉
1992年2月8日 日本公開(製作:1990年/米 91分)

(C)1990 FRIES ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
◆あらすじ(※ネタバレ最小限)
ロサンゼルスの検死官ドリー(ヒラリー・シェパード)の前で、遺体安置室の男が突然“再生”――彼は自らを“ピースメーカー(宇宙警察官)”と名乗るタウンゼント(ランス・エドワーズ)。
逃亡犯のエイリアン・イエーツ(ロバート・フォスター)を追ってきたと言うが、イエーツは「悪いのは奴のほうだ」と真逆の主張を始める。
どちらが正義でどちらが極悪人なのか? 地球人ドリーだけが“真実”を知らないまま、二人の不死身エイリアンは市街地で壮絶な肉弾戦を展開する――。

(C)1990 FRIES ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
◆ここが熱い!俳優陣の“二重芝居”
- ランス・エドワーズ:タウンゼントが見せる寡黙なヒーロー像は“信じていいのか”と観客を揺さぶり続ける。眉ひとつ動かさずに放つ「Trust me.」のひと言に宿るカリスマはSF版『刑事コロンボ』!?
- ロバート・フォスター:渋い二枚目が血まみれで立ち上がるたび“善悪の境界”をかき乱す。フォスターの優しい声色が逆に不気味さを加速させ、「正義の皮を被った怪物」感を倍増。
- ヒラリー・シェパード:単なる巻き込まれヒロインではなく、最後まで“市民の理性”を代弁。コップ二人の間で揺れる瞳が、物語をミステリーへと昇華させる。
90年代低予算SFの枠を飛び越え、〈地球外潜入捜査〉というギミックで「潜入=疑心暗鬼」の本質を突きつける一本です。
(C)1990 FRIES ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
『潜入者』〈原題:The Infiltrator〉
2017年5月13日 日本公開(米 127分)

(C)2016Infiltrator Films Limited.
◆あらすじ
舞台は1980年代、“麻薬王”パブロ・エスコバルが牛耳るメデジン・カルテル。
米関税局のベテラン潜入捜査官ロバート・メイザー(ブライアン・クランストン)は、富豪“ボブ・ムセラ”に成り済まし、カルテルの資金洗浄ルートへ潜り込む。
一度正体が露見すれば家族もろとも抹殺――命綱は偽装婚約者キャシー(ダイアン・クルーガー)と同僚アブレヴ(ジョン・レグイザモ)だけ。
友、家族、そして“敵”との情誼が絡み合い、メイザーは巨大帝国を内部から崩壊させる結婚式作戦に賭ける。

(C)2016Infiltrator Films Limited.
◆ここが熱い!ブライアン・クランストン、魂の三重演技
- 公僕メイザー:スーツの袖口まで滲む使命感。しかし家では優しい夫・父の顔。
- 富豪ムセラ:紫のダブルスーツに葉巻、洗練された英語で巨額マネーを動かす“影の銀行家”。
- 揺らぐ人間ロバート:カルテルのボス(ベンジャミン・ブラット)と家族ぐるみで接し、友情に似た感情を抱いてしまう――。
クランストンはこの“三層構造”の人格を一つの視線、声色で自在に切り替え、観る者をドラマの深層へと引きずり込む。
- クールで機転の利く潜入要員を演じるダイアン・クルーガーは、危険な〈偽〉新婚生活の中で芽生える“本物の情”を繊細に吐露。
- ジョン・レグイザモのアブレヴはユーモアで張り詰めた空気を裂きつつ、潜入捜査の闇を背負う影の相棒として物語を支える。
実話ゆえの重み、80年代クライム・サスペンスの香り、高揚感あふれる80’sナンバー――**潜入映画の“決定版”**と呼ぶにふさわしい緊迫と陶酔が詰まっています。
(C)2016Infiltrator Films Limited.
潜入捜査映画がくれるもの――“もう一人の自分”と対峙する快感
偽りの身分で敵の懐に飛び込み、嘘が真実になり、真実が裏切りになる――。
『エイリアン・コップ』はSFアクションの奔放さで、“正義は顔をしていない”という真理を。
『潜入者』は実話スリラーの骨太さで、“正義は自分の中でしか証明できない”という覚悟を。
潜入捜査映画の魅力は、痛みとスリルを背負いながら“二つの人生”を生き抜く主人公の呼吸を、観客も疑似体験できること。
あなたなら、偽りの名刺をポケットに入れて、どこまで闇に踏み込めるだろうか――?
ぜひ二本続けて鑑賞し、“潜入”という名の深い深い心理迷宮に飛び込んでみてください。
配信サービス一覧
『エイリアン・コップ』
・U-NEXT
・Hulu
・Lemio
・Amazon Prime Video
・J:COM
・RakutenTV
・AppleTV+
『潜入者』
・U-NEXT
・Lemio
・Amazon Prime Video
・FOD
・RakutenTV
・AppleTV+