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<見どころ解説>『バズ・ライトイヤー』の同性愛描写は「当たり前」だから素晴らしい


3:「当たり前」に描く同性愛の素晴らしさ

本作は同性愛の描写が物議を醸しており、それを理由に14か国での上映中止が決定してしまった。該当シーンをカットしての公開という妥協をせず、その決定をしたことそのものに、送り手の力強い主張が窺える。そして、実際の本編での同性愛は「当たり前のこととして描いてくれて嬉しい」と思えるものだった。

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なぜならバズは、親友の女性に女性のパートナーがいること、そのことをサラッと、でも心から祝福しているのだから。同じような同性愛の描写は、同性同士のカップルの成立の報告に「あ、そう、良かったね」と言う(でも緊急時だから「それどころじゃねえんだよ!」という対応もする)ヒーロー映画の『デッドプール2』や、想いを寄せる女の子と上手くいくことをその親友が心から応援する青春コメディ映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』にも近い。



いわば、同性愛そのものを「大ごと」にするのではなく、普段の生活や人生の選択肢そのものに、自然に溶け込んでいるように見えたのだ。

しかも、その「当たり前に描く」同性愛の描写は、前述した序盤の驚きの展開とも密接にリンクしている。同性同士のカップルが成立することだけでなく、彼女たちの人生そのものを祝福するような、尊く感動的な展開が待ち受けていたのだから。

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だからこそ、その本編の描写に反して、まさに大ごとである14か国での上映中止という決定が下ってしまったのが悲しいのだが、無事にそのままのかたちで日本で公開されることは喜びたいし、劇中のような同性愛が現実の社会でも当たり前になることを期待したいのだ。

4:ダメダメな仲間との切磋琢磨

前半はバズに待ち受ける過酷な現実をこれでもかと見せつける内容だが、後半は「ポンコツな仲間」とのストレートなSFアドベンチャーとなっていく。実践経験がない女の子のイジー、情熱もなく頼りない青年のモー、仮釈放中の爆弾作りの名人でぶっきらぼうな老人のダービー、そして万能な能力を持つが過剰に干渉しがちなネコ型ロボットのソックスと、それぞれ別ベクトルにダメダメで、彼らは優秀なバズにとっての「お荷物」になってしまうのだ。

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正直に言って、この仲間たちとの切磋琢磨こそ、最もわかりやすいエンターテイメント要素にして、賛否両論も呼ぶ部分だとも思う。というのも、これら仲間のダメダメな部分が目立ちがちで、人によっては愛嬌の前にイライラの方を過剰に感じやすくなっていると思うからだ。

また、物語前半のバズに突きつけられる過酷な現実に対して、この後半では都合よくバズにスペース・レンジャーとして、もしくはリーダーとしての「役割」が与えられている印象もある。後述する『トイ・ストーリー』およびピクサー作品に通底するテーマからすれば、やや安易な作劇にも思えてしまったのだ。

そんな風に欠点にも感じてしまった部分ではあるが、個人的にはそれでも総合的には肯定したい。物語が進むにつれて、バズと同様に観客もイライラしてしまったであろう仲間にももちろん良いところが見えてくるし、彼らのことを信頼できなかったバズが「あること」を打ち明ける場面はとても感動的で、それは多くの「先輩」を経験した方であれば思い当たるところのある言葉だからだ。

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何より、ダメダメで連帯感すらなかったように思えた彼らが、実は個人に備わっていた能力や勇気を活かして立ち向かう様には確かな感動がある。SFアドベンチャーとしての数々のギミック、ピクサーの力を存分に発揮したアクションも見応えがあり、心から楽しめた。やはり、仲間キャラのダメダメさも、本作には必要だ。現実の社会で生きづらさを抱えていたり、上手く能力を発揮できないと悩んでいる、多くの方を勇気づけるものであるのだから。

5:『トイ・ストーリー』およびピクサー作品に通底するテーマ

思えば、『トイ・ストーリー』およびピクサー作品では、「ある一定の価値観に固執する危険性」「帰ることのできる場所がなくなる恐ろしさ」が描かれていることが多かった。それは、今回の『バズ・ライトイヤー』でも完全に通じるテーマだった。

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物語前半のバズに突きつけられる過酷な現実、そして戦いを余儀なくされる思いもよらぬ敵は、そのテーマを克明に描き出している。それは、現実の人生にもフィードバックして、よりよく生きるためのヒントにもなるものだった。人生はその後を左右する選択と、そして後悔の連続ではあるが、それでもなお「未来」を捉え続けること、その尊さも再認識できるだろう。

そして、『トイ・ストーリー』シリーズのバズが口にしていた、「無限の彼方へ、さあ行くぞ(To infinity and beyond)」という言葉は、本作でも登場する。その「無限の可能性がある」というメッセージに、さらなる深みと広がりを与えてくれた、今回の『バズ・ライトイヤー』という映画が筆者は大好きであるし、この映画を観たアンディがバズというおもちゃを愛した理由もよりわかるようになったのだ。ぜひ、その感動を、映画館で見届けてほしい。

(文:ヒナタカ)

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