©️2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

【映画ライター厳選】『オッペンハイマー』だけじゃない!2024年注目作品“10選”


2024年も注目の映画が目白押しだ!

ようやく日本公開が決まったクリストファー・ノーラン最新作『オッペンハイマー』。『ミッドサマー』のアリ・アスターが突きつける3時間の挑戦状『ボーはおそれている』。日本では応援上映の火付け役となった《あの映画》の新作『マッドマックス:フュリオサ』。これ以外にも要注目作品がたくさんある。

今回は、2024年公開予定の最新映画の中から「注目映画」を10本紹介する。どれも熱い作品なので、逃さずチェックしてほしい。

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1:『きみの色』(2024年夏)



『映画 聲の形』の山田尚子×吉田玲子コンビ最新作がこの夏やってくる。原作ものを数多く手掛けてきたふたりにとって珍しいオリジナル長編アニメーションとなっている。

人の感情が「色」となって見えてしまう女子高校生トツ子を中心に、思春期の少年少女の感情を浮き彫りにしていく作品。

山田尚子×吉田玲子コンビは今まで、繊細な人間心理を紡いできた。『たまこラブストーリー』では、ヒロイン・たまこに恋心を寄せる大路もち蔵が糸電話を投げるも彼女の手に届かない様子を通じて恋の温度感を表現していた。

実写では表現が難しい運動を通じて、人間心理に迫ってきたふたりが今度はどのような世界をみせてくれるのか期待である。

2:『めくらやなぎと眠る女』(2024年初夏)

© 2022 Cinéma Defacto – Miyu Prodcutions – Doghouse Films – 9402-9238 Québec inc. (micro_scope – Prodcutions l’unité centrale) – An Origianl Pictures – Studio Ma – Arte France Cinéma – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

村上春樹の小説がまさかのアニメ化!?

彼の6つの短編を軸とする本作は、東日本大震災後の日本を舞台としたファンタジーである。妻に失踪された小村、次なる震災から東京を守るために現れた巨大かえると対峙する片桐の話を幻想的かつゆらめくような質感で描いている。

監督のピエール・フォルデスは変わったキャリアの持ち主である。元々、パリで画家を目指していたピエールは作曲に興味を持つようになる。映画音楽の仕事に携わるためにニューヨークへ渡った際、友人から村上春樹の小説を薦められる。ブダペストで映画制作の勉強をした後にパリへ戻ってくるのだが、ここで村上春樹の世界を映像化するアイデアが浮かび本作が制作されたのである。

世界最大級のアニメの祭典・アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員特別賞を受賞している『めくらやなぎと眠る女』は、2024年初夏ユーロスペースほかにて全国順次公開となっている。

3:『違国日記』(2024年6月)

©️2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

2023年、『正欲』で翳りのある演技を開拓した新垣結衣。来年も彼女の活躍に期待である。ヤマシタトモコの同名コミックを映画化した『違国日記』にて、人見知りながら事故で両親を失った少女を引き取ることとなった小説家を演じる。

監督は『HOMESTAY(ホームステイ)』の瀬田なつきだ。彼女は、どこか落ち着かない感情を運動として画に収めるタイプの作品を得意とする。『ジオラマボーイ・パノラマガール』では、思春期特有の未来が見えず時間だけがあるもどかしさ、学校に収まらない言語化し難い感情をふわふわぐるぐると常に動き回る様を通じて捉えていた。

『違国日記』でも人見知りの狼狽、行き場のない少女の葛藤を映画的運動で掬い取っていると思われる。原作ファンはもちろん、新垣結衣や瀬田なつき監督を推している方、必見の作品である。

4:『ミッシング』(5月17日)

©︎2024「missing」Film Partners

『犬猿』『空白』『神は見返りを求める』と一筋縄ではいかないアプローチで人間の醜さを描いてきた吉田恵輔監督。最新作、『ミッシング』では愛する娘の失踪をテーマとしている。

特報では陽光差し込む中、幸せそうな日々が提示される。かと思いきや、突き落とすかのように娘のいない寝室が映し出される。そして、感傷的な音楽に包まれながら慟哭と堅忍の物語であることが強調される。

しかし、『ヒメアノ〜ル』を筆頭に思わぬ隠し味を添えてくる吉田恵輔監督は、そう簡単に観客をセンチメンタルな世界へと誘うことはしないであろう。今回はどのような変化球を仕掛けてくるのか期待である。

2024年5月17日(金)公開。

5:『わたくしどもは。』(2024年ロードショー)

©️TETSUYA to MINA film

第36回東京国際映画祭コンペティション部門に選出された本作は、不思議な空気感溢れる一本となっている。

小松菜奈演じる女性が佐渡金山の麓で目を覚ます。記憶のない彼女は、そこで出会った清掃員キイのもとで働くこととなる。そんなある日、同じく記憶を失った男性(松田龍平)と遭遇する。やがて、ふたりの正体が明らかとなってくる。

佐渡金山は朝鮮半島の労働者や罪人が強制労働させられた歴史を持っている。ここから着想を得た本作は、美しい画に寡黙な登場人物を配置することによって歴史の残酷さを紐解こうとする。

また、レオス・カラックス映画好きには刺さるオマージュが隠されているので、映画ファンは要チェックである。

6:『異人たち』(4月19日)

(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

先日、亡くなった小説家・山田太一。彼の代表作「異人たちとの夏」が、『荒野にて』のアンドリュー・ヘイ監督の手によって映画化された。

「異人たちとの夏」といえば、大林宣彦監督が映画化したこと有名である。亡くなったはずの両親がノスタルジックな浅草の風景と共に男の前で蘇り、心揺さぶられていく。終盤、突然映画のジャンルが変わる衝撃的な作品であった。

大林版を知っていると、繊細なタッチで知られるアンドリュー・ヘイが本作を手掛けることに意外性を感じることであろう。彼はゲイの物語へとアレンジし、「異人」との対話を紡いだとのこと。そのため、大林版における名取裕子演じる桂のポジションを『aftersun/アフターサン』のポール・メスカルが務めている。

日本では2024年4月19日(金)公開である。

7:『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』(2月2日)

© 1984 TALKING HEADS FILMS

日本でも「A24の知られざる映画たち」と特集が組まれるほど、注目されつつある映画会社A24。

『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などの話題作を輩出してきた会社だが、新しいフェーズに突入しようとしていることをご存知だろうか?

それがデジタルレストアである。

昨年、ダーレン・アロノフスキー長編デビュー作『Π』 が、円周率の日にあたる3月14日にアメリカ本国でIMAX上映された。これを企画した映画会社こそがA24であり、8K・アトモスレストア版が作られたのである。



A24はさらに、トーキング・ヘッズのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』のレストアも行っている。『羊たちの沈黙』のジョナサン・デミがメガホンを撮り、『ブレードランナー』のジョーダン・クローネンウェスが撮影を手がけた極上のライブ映画。日本でもスタンディング強制上映が行われるほどの人気を持つのだが、長らくオリジナルネガが紛失していた。

しかし、MGMの保管庫でそれが発見されたことにより、最高レベルのレストア版が完成したのだ。実際に、アメリカではIMAX上映イベントが行われ、ライブ上映としては過去最高レベルの興行成績を叩き出している。

そんな『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』はギャガ配給で2024年2月2日(金)公開である。IMAX版も同時公開となっているので、要チェックだ!

8:『レオノールの脳内ヒプナゴジア』(1月13日)


満面の笑みを浮かべる中年女性の脳から煙が噴き出す。変わったポスターデザインが特徴的なフィリピン映画『レオノールの脳内ヒプナゴジア』

内容も、まるでチャーリー・カウフマン作品のように奇天烈である。引退した女性監督レオノール・レイエスは、頭部を強打し、未完である自分の脚本の世界に迷い込んでしまう。そんな彼女を息子は現実へ引き戻そうとする。B級映画タッチで展開される脚本の世界。

そのユニークが評価され、サンダンス映画祭ワールド・シネマ部門で審査員特別賞を受賞した。変わった映画好きにはたまらない作品である。

2024年1月13日(土)シアター・イメージフォーラムほかにて公開。新春一発目の映画に選んでみてはいかがだろうか?

9:『ゴースト・トロピック』(2月2日)



『CLOSE クロース』のルーカス・ドンや『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』のシャンタル・アケルマンなど日本でもベルギー出身の監督作品が注目されている。

2024年、次なる注目監督が日本紹介される。それがバス・ドゥボスだ。第73回ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門で最高賞を受賞した『Here』、彼のマスターピースである『ゴースト・トロピック』が2024年2月2日(金)よりBunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国ロードショーとなる。

『Here』はルーマニアからベルギーにやってきた建設労働者と中国人のコケ博士との関係を描いている。『ゴースト・トロピック』も同様に、移民労働者を扱っている。

こちらは、マグレブ出身の清掃員が主人公である。終電を乗り過ごしてしまった彼女が経験する一夜の冒険。警備員、ホームレス、若者の群れ、静かながらもスリリングに彼女は人々と対峙する。その中で、移民としての孤独と微かな温もりが浮き彫りとなっていく。バス・ドゥボスが見つけたユニークな視点は要チェックである。

10:『マリア 怒りの娘』(2月24日)



2024年2月にユーロスペースほかにて珍しい映画が上映される。中南米ニカラグアで制作された『マリア 怒りの娘』だ。ニカラグアは長らく政情不安が続いていたため、映画がほとんど作られてこなかった国である。

監督であるローラ・バウマイスターはどんな方なのだろうか?彼女は、ニカラグアの学校を卒業し芸術の勉強をしたかったとのこと。しかし、ニカラグアにはそのような学問を積む場所がなかったため、社会学を専攻する。その後、メキシコへ渡り映画の勉強をし、短編映画をいくつか制作する。

映画産業が全くないニカラグアに戻り制作したこの初長編監督作は、ゴミ集積場の近くに住む娘マリアの冒険を描いている。映画制作の体制が整ってない中でもパズルを解くように試行錯誤しながら撮られた本作には力強さが感じられる。

来年、上半期の貴重な映画体験の一本になることだろう。

(文:CHE BUNBUN )

参考資料

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