映画コラム

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2022年11月14日

『すずめの戸締まり』松村北斗の良さが凝縮!宗像草太“4つ”の魅力

『すずめの戸締まり』松村北斗の良さが凝縮!宗像草太“4つ”の魅力



物語が進むほど、愛おしさ増す草太の“4つ”のポイント

※以降からは『すずめの戸締まり』の物語の核心に触れるネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

(1)掴みどころのない、ミステリアスな魅力


「ねぇ、君」
ーー風光明媚な通学路を自転車で駆け降りていく鈴芽に、草太が最初に投げかけた一言はこれだった。

そもそも声をかけるという行為は、少なからず緊張が伴うこと。それゆえ、多くの人は「すみません」から入るが、草太は違った。この時点で、相当不思議な存在であることは想像できるだろう。一方で草太にはミステリアスだけど、恐怖心を与えない柔らかさも感じた。

草太の印象には大きく分けて2つの理由があるのではないかと考える。

まず1つが本来の魅力ともいえる、落ち着いた声色とセリフの相性。もう1つが独特のテンポ感と間合いだ。


「ねぇ」と「君」の間にある1秒にも満たない、だけれども確実にある間(ま)。そのテンポのまま投げかけた「このあたりに」「廃墟はない?」という質問は、聞くものの息を潜め「この人、これから何をしゃべり出すんだろう」と興味を惹きつける魔力があるように思えた。

個人的に推したいのは「このあたりに」の「に」で、わずかに語尾を伸ばした部分。どこか躊躇いがちに聞こえるこの音から、独特雰囲気をまとう草太の、人間っぽさを感じたからだ。

(2)危機迫る状況を乗り越える神としての凛々しさ


本作の公式パンフレットに収録されている松村のインタビューによると、新海誠は「草太は神と人間の融合体みたいなイメージ」と言っていたそう。

次の魅力として挙げたいのは、その“神”によったたくましい草太だ。“災い”をもたらす扉を閉める「閉じ師」としての草太は、先述した柔和でミステリアスな雰囲気からは想像のつかない凛々しさを持っている。



例えば予告映像にもある、鍵を閉めるシーン。

「君は、なぜ!」と扉を押さえつけながら鈴芽に問いかけてから「お返し申す!」という叫びをピークに持っていくまでの間、草太から恐怖心や迷いを感じることはない。普通の大学生でありながら、人知れず日本中を“災い”から守っている特異な使命を受け入れている、たくましさゆえだろう。

この凛々しい声もまた、松村との親和性が高い。後ろ戸から出てくる“災い”を封じ込めようとする時の声は、松村が本来持つ声の力強さを存分に発揮しているのだ。

(3)椅子・草太の狙っていないかわいらしさ


椅子になってからのシーンはクスリと笑える、そして「かわいい」とほっこりさせるシーンが多く見られた。

端正でクールな印象を持たれがちの松村は、これまでに出演したドラマ「パーフェクトワールド」(フジテレビ系)「レッドアイズ 監視捜査班」(日本テレビ系)などで、子犬系や後輩キャラを演じてきたことも多い。

椅子・草太のシーンは、そんな彼の隠れた魅力・かわいらしさが存分に発揮されていた。

個人的にツボだったのは、自分がしてしまった事の重大さに落ち込む鈴芽に、パンを食べるよう勧めるシーン。そのパンを買ってきたのは鈴芽な上に、お腹が空かなくなってしまった(というか食べる術がない)椅子・草太。それでもなんとかして鈴芽を慰めようとしているのかと想像すると、愛おしすぎた。


また椅子になって間もなくの頃、自分の姿が椅子であることを忘れて、凛々しく振る舞おうとしているところにもかわいさを感じた。鈴芽に迷惑をかけまいという気持ちから「君についてこられても困るんだよ!」と突き放すも、すれ違う人から「椅子が1人で歩いている」と不審がられる不甲斐ない椅子・草太。

不甲斐なさに見えるもどかしさは、YouTube特番での新海監督の言葉を借りるなら「笑わせようというお芝居だと上滑りしちゃうから、きっと草太は草太として淡々としゃべるんだよね」という部分だろう。

あえて、あざといことをしないからこその愛嬌が椅子・草太にはあるのだ。

(4)死へ抗えない、1人の人間としての本能


筆者は、生きることの難しさや生きる尊さを叫ぶ演技・パフォーマンスをしている松村北斗がツボだ。(ジャニーズJr.祭り2018で披露した、加藤シゲアキのソロ「あやめ」は圧巻で、今でも夢に見る)

映画の中盤で、草太は“災い”を封じ込める要石にされてしまい、草太としての自我を閉じ込められてしまう。さっきまでのようにかわいらしくコミュニケーションを取ることはないし、3本脚でタッタカ走ることもない。本来の椅子でしかなくなってしまうのだ。そんな草太を本来の姿に戻すため、鈴芽が奮闘するというのが物語中盤以降での見どころ。その甲斐もあって、草太が要石としての運命に抗おうとするシーンがあるのだが、このシーンで「生きたい」「死ぬのが怖い」と叫ぶ草太の声は、涙を誘った。


少し前までは「“災い”を封じ込める運命を背負っているのなら、死んでもしょうがないぐらい」といったように無茶をしていた草太。そんな彼が、自我が消失していく運命に抵抗しようとするのは、鈴芽や周囲の愛に触れて増していった人間としての本能ゆえ。

「命は大切です」と直接的な言葉こそないが、生きることへの尊さを感じた。

松村北斗の魅力を再確認させた“宗像草太”


映画を見終えてまず思ったことは、新海誠監督が松村を草太として迎え入れてくれたことへの感謝だった。演技力の高さは折り紙付きだった松村が、声だけでもその魅力を十二分に発揮できることを証明していたからだ。

また『すずめの戸締まり』という作品を通して、草太の言葉の一言一言に松村や新海誠はじめとする、製作陣の緻密なこだわりを感じさせられた。もちろん、いうまでもなく原菜乃華ら出演した全キャストからも感じたことなのだが。

きっと松村は、この作品を皮切りにまた演者として、世間から見つかってしまうことだろう。次は、どんな世界を見せてくれるのか。これからも彼の活躍を見続けたい。

(文:於ありさ)

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