取材現場に入室した瞬間から、そして写真撮影のあいだも、話がやまない。滝藤賢一の「痩せた？」の第一声に、「あの頃よりはむしろ太っちゃって……」と返す渡部秀。映画『ひみつのなっちゃん。』にて、彼らはともにドラァグクイーンという難役に挑戦した。漏れ聞こえてくる話からは「京都」「美味しいご飯」「ヒレ酒」などの単語が。

滝藤賢一の初主演作となる今回、撮影の合間もこんなふうに、ふたりのあいだには話題が溢れていたのだろうか。

惜しくもカットされた幻のアドリブ

――お会いになられた瞬間から、打ち解けた様子が伝わってきます。京都のお話をされていたんですか？

滝藤賢一（以下、滝藤）：少し前まで、ロードムービーの撮影で京都に行ってたんですよ。ほら、渡部くんは6年間むこうにいたでしょ（橋口呂太役で出演のドラマシリーズ「科捜研の女」は東映京都撮影所で撮影）。「なんで連絡しなかったんだろう！？」って、帰ってきてから気づいてさぁ。美味しいご飯屋さんの話とか、聞いておけばよかったな。

――今作『ひみつのなっちゃん。』は、滝藤さん演じるバージン、渡部さん演じるモリリン、そして前野朋哉さん演じるズブ子、3人のドラァグクイーンが“美しい生き方”に気づく物語です。撮影の合間も、こんなふうに話が止まらなかったのでしょうか？

渡部秀（以下、渡部）：そうですね。前野さんも一緒に、3人で話すことが多かったかもしれないですね。

滝藤：僕が演じたバージンさんは監督とのセッションで、24時間女性でいることを選択したんです。普段から女性でいたから、こんな風には話せてなかったかもしれないなあ。撮影以外でも一回もオフらなかったし。渡部くんと前野くんは本当に仲良かったよね。いつも一緒だった。

渡部：そうですね、けっこう話してたかもしれません。どんなことを話してたかって訊かれると、ここで言える話は少ないんですが……（笑）。

滝藤：あの、ドライブシーンでのアドリブもすごかったもんね！


――バージン、モリリン、ズブ子が、お世話になったドラァグクイーン・なっちゃん（カンニング竹山）のお葬式に向かうため、車で岐阜・郡上八幡に向かうシーンですね。

渡部：前野さんと一緒になって、どんどん調子が上がってきちゃって。監督も、車内にカメラだけ置いて40分間、僕たち3人に「どうぞ自由に！」って感じだったんです。

滝藤：毎回見事に収まりの良い、語呂合わせみたいな下ネタなの。すごかったね。よくあんなに考えたよね（笑）。

渡部：本編であんまり使われてなかったってことは、監督的には違ったのかな？　と思うんですけど（笑）。

滝藤：確かにカットされてたけど、あの雰囲気はふたりのアドリブから生まれたと思う。 

言葉ひとつの扱いも、慎重に

――今回のように、自分とは遠い役柄を演じるときに、演じやすさ、または演じにくさを感じることはありますか？

渡部：ちょっと演じ方を間違えてしまうと、下手したら「馬鹿にされている」と捉えられかねないですよね。シリアスとコメディの温度差も含め、塩梅が難しいなと感じます。正直言って、現場に入ってみないとわからないなと思うところもありました。怖かったですが、やれることはやるしかないな、と。

滝藤：自分ひとりで考えてると、どんどんわからなくなっていくよね。相手がいて、セリフを交わしていくと、成立していくことが多いんだけど。こういった取材を受けていても、答え方を考えてしまう。今回のような映画は、あらためて難しい題材だなと思いますよ。

渡部：単語ひとつとっても、難しいですよね。監督ともたくさん話し合いました。たとえば「LGBTQ＋」という言葉を使うのか、「ドラァグクイーン」で統一するのか。

滝藤：分かる！　言葉の使い方ひとつで、受け取られ方も違ってくるもんね。監修に入っていただいた、ドラァグクイーンのエスムラルダさん本人は「ゲイはゲイという表現でいいんですよ」て、仰ってましたけど。


――初主演作でドラァグクイーンを演じるというのは、なかなかないことですよね。

滝藤：やるからには無責任では、いたくなかった。覚悟が必要だったというか、軽い気持ちで引き受けてはいけないな、と思いましたね。
ちょっと油断すると男になっちゃうんですよ。車から出る瞬間とか、ふとしたときにね。ある意味、女性より女性らしくいないと、女性に見えない。オードリ・ヘップバーンやマリリン・モンローの映画とかを見て、イメージを膨らませました。

――冒頭のダンスも、素晴らしかったです。

滝藤：あれ、ひどくなかった！？　僕ね、試写であのシーンを見て「だからバージンは踊りをやめたんだな」って思ったの。彼女は踊りを続けるか悩んでいる設定なんだけど、自分で見て「なるほどな〜」って思った。全くキレがない。
その反面、渡部くんと前野くんはすごかったよ！　キラッキラ輝いててね。キレが良くて、踊りを楽しんでるのが伝わってきた。ふたりが踊ってるのをバージンが眺めてるシーンがあるんだけど、もう、嫉妬しまくりでしたからね（笑）。

渡部：とんでもない。僕は滝藤さんの踊り、素晴らしいと思いながら見させてもらいました。

お互いに刺激の多かった撮影現場

――滝藤さんと渡部さんは、共演シーンが多いですよね。撮影の合間などに話し合う場面などもあったのでしょうか？

滝藤：ちょうど、渡部くんとはメイクテストが一緒だったんですよ。本読みもふたりで一緒にやっていたので、現場でもちょいちょい話し合うことが多かったかもしれないね。

渡部：滝藤さんが初めての本読みを組んでくださって、それが顔合わせになりました。台本を最初から最後まで合わせましたよね。監修のエスムラルダさんからもお話を伺ったり、郡上八幡の写真を見せてもらったり。滝藤さんに率先して貴重な機会を作っていただいて、感謝しています。

滝藤：よかった〜！　「こいつめんどくせえな」と思われてたらどうしようかと思ったよ！

渡部：そんなわけないじゃないですか！　年下の僕から言うのは、おこがましいと思ったので……。

滝藤：僕ね、渡部くんの芝居にハッとさせられたんですよ。川辺で焚き火を囲みながら、渡部くん演じるモリリンが心情を打ち明けるシーンがあるでしょ。ドキッとさせられたの。オレももう一度あらためて気合い入れ直さないと！　って。

渡部：滝藤さんにそう言ってもらえると、嬉しいです。

息ぴったりのふたりが思う「美しい生き方」

――おふたりは、洋服や植物好きなど、共通の趣味も多いとか。

滝藤：そう！　着ている服のブランドが一緒なんですよ。最初に会ったときも、靴の話をしたよね。渡部くんが履いてきた靴と、一緒のものを僕も持っていて。また、良〜い感じに履きこんでるんですよ。僕のはピカピカだから、恥ずかしくてね。

渡部：僕はずっと、滝藤さんもお好きなブランドだと知っていたんです。僕も大好きでずっと通っていたブランドだったので、少しでもお近づきになれたらいいと思って、履いていきました。過去の取材でも何度か言ってるんですが、僕、滝藤さんのライフスタイルに憧れてるんです。滝藤さんの本（「服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218」／主婦と生活社刊）が出版されたときの記念サイン会に、並ぼうとしてたくらい。

滝藤：え、ほんとに！？　めっちゃ嬉しいな〜。なんなら、ふたりで出たかったよ。

渡部：一緒に映画を撮っている間は、隠しておこうと思ったんです。お恥ずかしい。

――この映画は、「自分本来の美しさを探す」がテーマです。滝藤さん、渡部さんにとって、美しい生き方とは何でしょうか？

滝藤：美しい生き方は分かりませんが、僕は生き方はシンプルですよ。仕事と家庭と趣味。自分に必要なものって、自然に厳選されていくものなんだなあ、と思います。

渡部：僕はちょっと、美しい生き方がわかるほど、経験を重ねてきていないので……。ただやっぱり、自分らしく生きることなのかな、と思います。この映画に通ずるところでもありますが。美しさって何なんでしょうね。まだ到底、見つけられそうにないです。

（ヘアメイク＝山本晴奈<滝藤>、安海督曜<渡部>／スタイリスト＝君嶋麻耶<渡部>／撮影＝渡会春加／取材・文＝北村有）

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