映画コラム

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2023年03月10日

『オットーという男』トム・ハンクスが極端なツンデレを演じると“最強にかわいい”という結論

『オットーという男』トム・ハンクスが極端なツンデレを演じると“最強にかわいい”という結論



若き日のオットーを演じるのに最適な人物、それは……

中盤から、物語は過去の回想へと移る。そこでは「オットーにとって妻がどれほどに大切な存在であったのか」「妻が亡くなるまでに何があったのか」をミステリー的に解き明かしていくような面白さがある。さらには、ひとりの男の喜びも悲しみもひっくるめた人生のハイライトを見ていくような贅沢な“体験”があった。それを見届けてこそ、なぜ彼が自殺を決意したのか、その重さをより実感できるだろう。


そして、この回想で若き日のオットーを演じる人物に注目してほしい。その名前はトルーマン・ハンクス。トム・ハンクスの実の息子なのである。

トルーマンと会ったマーク・フォースター監督は「80年代後半の頃のトムが目の前に座っている気がした」と確信。オファーがあった当初、トルーマンは俳優ではなかったが、撮影監督を目指す立場だった。子どもの頃からカメラ慣れをしていたこともあってか、本読みをしてみると、とても自然で、マーク監督は「しっくりきた」という。

しかも、トルーマンには相談相手に最適な父親がいた。トム・ハンクスは新人俳優で息子でもある彼に立ち方や歩き方について教え、指をさす仕草などのキャラクターの癖も、一貫性を持たせられるように伝えたのだそうだ。

この親子のキャスティングの甲斐あって、パッと見の姿形だけでなく、その言動や一挙一動までも似ているため、「年齢が違う同じキャラクター」という説得力が半端ではないことになっていた。若き日のオットーは人付き合いのあまりうまくなさそうな、純朴な青年という印象であり、トルーマンが俳優として良い意味で成熟していなかったことも、その印象にマッチしていたと言えるのかもしれない。

ちなみに、オットーが若い頃の70〜80年代のシーンは、現代のパートに比べて「くすんだ」色合いの画作りがされているそうだ。美術や撮影そのものも美しいので、その辺りに注目してみても楽しめるだろう。

極めて強い普遍性を持ったリメイクに

この『オットーという男』の原作はベストセラー小説『幸せなひとりぼっち』。実は2015年に同タイトルのスウェーデン映画が作られており、そのリメイクでもある。その映画『幸せなひとりぼっち』はスウェーデンで国民の5人に1人が観たほどの大ヒットを遂げ、第89回アカデミー賞では外国語映画賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされるなど世界的な評価も得ていた。

実際に『オットーという男』の後に『幸せなひとりぼっち』を観てみると、かなり忠実にリメイクされていることがわかる一方で、冒頭のスーパーでのやり取りが(原作小説とも)違っていたり、LGBTQ+のキャラクターへのアプローチが少しだけ変わっていたりと、細かなアレンジがあることもわかった。観比べてみても面白いだろう。


そして気付かされたのは、本作で描かれた物語が、とても強い普遍性を持っているということだ。大切な人がいない、今の現実を嘆いてしまう。それでも、周りの人々と交流したり、何かの行動を起こして、大切なことがあると知る。それは、世界中のどこにでも、誰にでもある、長い人生の過程にある学びなのではないだろうか。主人公であるオットーがそのことに気づく過程が、とても感動的だった。

そうした尊く普遍的なメッセージが、今回のリメイクにより、さらに多くの人に届けられるというのは、何よりも喜ばしい。しかも、それが押し付けがましくないし、過剰にウェットな演出で盛り上げたりもしていない。前述したような重い心情が描かれていたとしても、あくまでツンデレが極端すぎてかわいいおじさんと、周りの人々とのクスクスと笑えるやり取りを主軸にした、ほっこりとしたコメディドラマになっていることが、本作の何よりの美点だろう。


そして、終盤ではとある伏線が回収された、痛快無比な展開も待ち構えている。ここはオリジナルの『幸せなひとりぼっち』からのアレンジもあって、よりエンターテインメントとしての強度が一段あがったような、多幸感でいっぱいになるようなクライマックスだった。普遍的な学びがあるだけでなく、笑えて泣けて面白い。そんな作品をぜひ期待してほしい。

(文:ヒナタカ)

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