映画コラム

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2023年04月22日

吉岡秀隆版『犬神家の一族』と共に楽しみたい“3人”の金田一耕助

吉岡秀隆版『犬神家の一族』と共に楽しみたい“3人”の金田一耕助


4月22日(土)と29日(土)の2回に渡り、NHK BSプレミアムにおいて「犬神家の一族」が放送される。

あの横溝正史の名作『犬神家の一族』である。本編を観たことがない方でも、白いゴムマスクの「スケキヨ」や、湖から足が2本突き出たビジュアルは、見たことがあるだろう。何度も映像化されている作品だが、特に1976年の市川崑監督版は、控えめに言って「神の映画」だ。「世界でもっとも完璧な映画」のひとつだ(筆者の中で)。

今回、その「神」に挑む勇者の名は、吉岡秀隆。金田一耕助を演じるのは、これで3度目である。金田一耕助というキャラクターは、過去数多の名優が、様々なアプローチで演じてきた。

“吉岡金田一”だけでなく、世には観ておかねばならない“3タイプの金田一耕助”がいる。解説していこう。

『犬神家の一族』('76)~王道正統派金田一~


キング・オブ・金田一耕助である。入門編であり、最高傑作だ。演じるのは石坂浩二である。

金田一耕助といえば、ボサボサ頭にお釜帽を被り、ヨレヨレの袴に下駄履きの一見パッとしない男……という姿をイメージするだろう。

意外にも、この“THE・金田一”な金田一耕助を初めて登場させたのが、今作である。それまでは片岡千恵蔵が演じるスーツ姿の金田一や、高倉健が演じるオープンカーに乗った金田一だったのだ。

ありがとう角川春樹(製作総指揮)、ありがとう市川崑(監督)、ありがとう石坂浩二(主演)。原作通りの本来の金田一耕助を具現化してくれて。

この作品、146分あるのだが、まったくダレることなく観ることができる。ちょうどダレそうな頃に、いいタイミングで人が殺されるからだ(不謹慎)。まず、開始10分ほどでいきなり依頼人が毒殺される。その後もインパクトある殺しが続く。菊人形の首と生首(地井武男の)が取り換えられている。それを観た金田一耕助が、周囲が驚くほどに怯える。職業柄、猟奇殺人は見慣れているであろう彼でさえ、これだけビビるのだ。いかにショッキングな殺しなのかということが、よくわかるシーンだ。

“勝利の高笑い”を挙げた人物が、次のカットでいきなり湖に逆さまに突き刺さっている有名なシーンでは、そのあまりのテンポの良さに何度観ても笑ってしまう(不謹慎)。

役者陣も素晴らしい。“絶世の美女”を演じる島田陽子は本当に絶世の美女だし「よし!わかった!」と言っては毎回自信満々に推理をハズす警部役の加藤武は、毛利小五郎を思い出す(ビジュアルも似ている)。

筆者的には、金田一耕助が泊まる旅館の女中さんを演じる坂口良子を推す。とてもかわいい。最初は薄汚れた金田一に悪印象を持っていたが、すぐに妹のように懐きだす。すこぶるかわいい。トボケた金田一にちょっかいをかける様が、大変かわいい。このふたりのスピンオフが観たい。

なお今作の大ヒットを受け、この「市川崑&石坂浩二」の金田一耕助シリーズは、計6本制作された。若山富三郎が渋くも悲しい『悪魔の手毬唄』('77)や、若き日の浅野ゆう子がかわいそうな『獄門島』(’77)辺りが、特にオススメだ。

そして毎回加藤武演じる等々力警部が「よし!わかった!」と言っては推理をハズす。

『八つ墓村』('77)~農村風金田一~


「王道金田一の最高傑作」を紹介して半ば使命を果たした感もあるが、せっかくなので「変則金田一」の名作も紹介しよう。

まずは『八つ墓村』である。前年の『犬神家の一族』でせっかく初めて原作通りの金田一が登場したのに、野村芳太郎監督は、またもや「映画オリジナル金田一」に戻してしまった。

今作の金田一耕助は、麦わら帽子に首から手ぬぐいを下げた農家のおじさんスタイルで、いつもニコニコして穏やかに喋る“リアル・カールおじさん”といった風情である。

演じるのは渥美清。「寅さん以外の渥美清を見られる」という点でも、貴重な映画である。

物語は、1938年に岡山県津山市で実際に起こった「津山30人殺し」という事件をモデルにしている。村八分にされた青年が、一晩で村人30人を虐殺するという恐ろしい事件だ。筆者は、実際にこの津山市出身の年配の方と飲む機会があり、興味本位で「津山30人殺しって知ってますか?」と聞いてみた。穏やかに飲んでいたその方は突然狼狽し「わしゃ、そんな事件しらん!しらん、しらん、しらんぞお!!」と、全力で話を終わらせた。80年以上経った今でも、その話はタブーだったのかもしれない。

ちなみに、この事件そのものを映画化した『丑三つの村』('83)という作品も、ひそかにオススメだ。非常に殺伐とした映画だが、若き日の田中美佐子がすこぶるかわいい。

この『八つ墓村』は吉岡秀隆版でも、すでにドラマ化されている。真木よう子演じる魔性の女が、すごい。すご過ぎる。映画版でこの役を演じているのが、小川真由美。こちらも負けず劣らずすごい。こちらは“魔”そのものになる。ネタバレになるので詳しくは書かないが、ぜひ両作とも観て“ふたりの魔性の女”を、見比べてほしい。

『本陣殺人事件』('75)~男前金田一~

最後に取り上げる本作で金田一耕助を演じているのは、中尾彬である。

“ネジネジしたなにかを首に巻いた芸能界のご意見番的な人”というのが、今現在の中尾彬のパブリック・イメージだと思われる。そのイメージのままで本作を観ると、結構なショックを受けるはずだ。若き日の中尾彬は、大変男前である。真面目に推理をしている横顔は凛々しく、かと思えば、とても爽やかに笑う。絶対にモテるであろうことが、男の目から見てもわかる。

服装もオシャレだ。当時流行のツギハギジーンズにネックレス。まだ細身だった体に、真っ白なTシャツがよく似合う。たまにさり気なくグラサンなんかもかけてしまう。そして難事件を解決し、颯爽と去っていく……。

……これは、金田一耕助ではない……!

そう言わずに観てほしい。密室殺人ミステリーとしても、極上の作品だから。

そして再び『犬神家の一族』

実は吉岡秀隆が、もっとも原作の金田一耕助に近いのではないかと思う。

筆者がいちばん好きな金田一は断然石坂浩二なのだが、実は金田一としては二枚目すぎる。例えば『犬神家の一族』の原作では「どこにどうといって取り柄のない、いたって風采のあがらぬどもり男」という表現をされている。えらい言われようだ。

吉岡秀隆の一見しょぼーんとした雰囲気(の演技)こそが、本来の金田一耕助なのだと思う。この「風采のあがらぬ」小男が難事件を解決するという意外性が、カタルシスを感じさせるのだ。

『犬神家の一族』と言えば佐清(スケキヨ)である。今回スケキヨを演じるのは金子大地だ。昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』での源頼家役が、まだ忘れられない。演出を務めるのも、『鎌倉殿の13人』のチーフ演出だった吉田照幸だ。これは本気で期待してしまう。

あの、「神の映画」である市川崑&石坂浩二版『犬神家の一族』を、吉田照幸&吉岡秀隆版『犬神家の一族』は、超えられるのか。

(文:ハシマトシヒロ)

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