続・朝ドライフ

SPECIAL

2023年08月04日

「らんまん」分家も単なる悪役に終わらなかった<第90回>

「らんまん」分家も単なる悪役に終わらなかった<第90回>


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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。

「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。

ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第90回を紐解いていく。

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園子が……

東京と高知、どちらも悲しい出来事が……。

愛らしかった園子が突然の病でこの世を去り、長屋は火が消えたよう。
寿恵子(浜辺美波)は涙に暮れていて、万太郎(神木隆之介)はモクモクと花(ヒメスミレ)の絵を描き続け、それを燃やして園子を追悼します。

心配してやって来たまつ(牧瀬里穂)は筍を持ってきて、握り飯を作って、長屋のみんなで一緒に食べます。

落語の師匠・九兵衛(住田隆)は、人気演目「寿限無」を、長屋の子どもたちにせがまれて演じます。「寿限無」は子供が元気で長生きすることを願った話で、園子が元気なときは楽しく聞こえ、いなくなったときは寂しく聞こえ……。

子供の元気を祈る気持ちは普遍です。

一方、峰屋では、税金が重く、土地屋敷を売るまでに追い込まれています。
そんなとき、頼るのはーー
分家。
でも彼ら分家は、これまでさんざん本家にないがしろにされていましたから、さて、どうなる?

分家の跡を継いだ伸治(坂口涼太郎)は「無理じゃ」と。
あー、やっぱり。でもちょっといつもと調子が違います。

紀平(清水伸)は「もろともに途絶えるよりもそれぞれ生き延びるほうがいいだろう」と土地と屋敷を売ったお金で新たな人生を送るように提案。

豊治(菅原大吉)は「殿様の酒蔵 峰屋のままで幕を引いた。ばあさまもご先祖もさぞ喜んじゅうじゃろう」と綾(佐久間由衣)を労います。

出てくれば憎らしい口をきいてきた分家の者たちも、タキ(松坂慶子)が強権過ぎたから、反発していただけであって、手負いの者をこれ以上追い込むことはしないようです。ここで分家の人たちが、弱った綾たちの傷に塩を塗るような振る舞いをしたら、辛すぎて見ていられませんから、ホッした視聴者も多かったことでしょう。

伸治なんて、涙涙で「達者でのう」と竹雄(志尊淳)と綾を抱きしめます。

これまでずっと弱い立場だった者たちが、同じく弱い者には心を寄せ合ったのだと感じます。そうするしかないし、それだけしかできない。

伸治が「無理」と言ったのは、いまの本家を引き継いだら自分の家も共倒れすると判断したからで、紀平の「もろともに途絶えるよりもそれぞれ生き延びるほうがいいだろう」も、なんだかんだで「家」を守ろうとしている。こういうときに分家があるわけで。戦国時代に武将がたくさん子供を作るのも、何かあったら養子を迎えるのも、そういうことです。

豊治の「殿様の酒蔵 峰屋のままで幕を引いた。ばあさまもご先祖もさぞ喜んじゅうじゃろう」は、このまま綾が新しい酒を作って、時代と共に変化していくよりも、本家にこだわってきたタキの酒蔵のまま消えていくほうがいいと、せめて、前向きに捉える。

タキによってこれまで厳密に差をつけられてきた分家は、分家としてほそぼそと生きていくのだという覚悟も感じます。

本家が潰れて分家が残る、なかなか皮肉です。単純に、いい人悪い人、人情話ではなく、どうにもならないことがあるという、分家と竹雄と綾の辛さが後を引きました。

でもこれで、きっと綾と竹雄は完全に家の呪縛から離れて、新天地で生きていけるのではないでしょうか。若いし。土地と家を売ったお金があるし。

深刻で悲しい話でしたが、前髪が伸びた志尊淳さんがますます美しくて、見入ってしまいました。

悲しくてもご飯を食べたくなるのと同じで、悲しくても、花も人も、美しいものは心を癒やします。


(文:木俣冬)

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