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「ハヤブサ消防団」第8話:ハヤブサに「聖母」帰還?川口春奈が体現する“洗脳”の恐怖

2023年7月13日にスタートした「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)は、池井戸潤の同名小説を原作とした異色の新機軸ミステリー。都会から長閑な集落に移住してきたミステリー作家の三馬太郎(中村倫也)が地元消防団に加入したのを機に、謎の連続放火騒動に巻き込まれていく姿を描く。ヒロインの彩を川口春奈が演じるほか、共演に満島真之介、古川雄大、山本耕史らが名を連ねる。

本記事では、第8話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

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「ハヤブサ消防団」第8話レビュー

「アビゲイルは私に特別なものを与えてくれました。私は、私を救ってくれたアビゲイルのために生きていこうと決めたんです」

アビゲイルに洗脳され、罪のない人々の家に火を放ったと見られる徳田(岡部たかし)。ハッキリとした真実を語ることなく彼は帰らぬ人となり、太郎(中村倫也)は消防団のメンバーたちと意気消沈のままハヤブサに戻る。そんな彼を待ち受けていたのは、恋人である彩(川口春奈)の“裏切り”だった。

突然多くの人で賑わうハヤブサの異変に気づき、すぐに彩のマンションへと向かう太郎。すると現れたのは、アビゲイル騎士団の後継団体「聖母アビゲイル教団」の弁護士である杉本(浜田信也)と、ルミナスソーラーの真鍋(古川雄大)だった。気まずそうに目をそらす彩の姿に太郎は愕然とする。ハヤブサに逃げてきたと言っていた彩は、まだアビゲイルと繋がっていたのだ。

裏切りといっても、当の本人である彩にそのつもりは一切なかった。徳田と同じで、彼女はただアビゲイルに与えられた使命を全うしたに過ぎない。数年前、教祖と幹部3名が信者12名を拷問の末に殺害するという凄惨な事件を起こした後、新しいアビゲイルを作ると決意した杉本。そんな彼に彩が与えられた使命は、聖地となるハヤブサに移住し、素性を隠して暮らすというものだった。

ハヤブサの大半を怪しまれることなくアビゲイルの領地とするため、熱心な信者の一人である真鍋がソーラーパネルの会社を設立。たまたまハヤブサに住んでいた仲間の徳田と手を組み、有力な地主たちの家を放火した。さらには彼らに目撃者である浩喜(一ノ瀬ワタル)の殺害まで命令する一方、彩に対しては「何もしなくていい。あなたがハヤブサにいることに意味がある」と言う杉本。

彼が汚いことは全て別の信者に負わせ、彩を特別扱いするのはなぜなのか。また、なぜハヤブサが新生アビゲイルの聖地として選ばれたのか。その2つの理由が、「聖母の帰還」という第8話のタイトルに隠されていた。

結論から言えば、ハヤブサは聖母誕生の地。そして、その聖母は太郎が自宅倉庫で見つけた写真に映る山原展子(小林涼子)だった。幼い頃に母親を亡くした展子はハヤブサで生まれ、その自然と一体になることで「この世は始まりも終わりもない循環する円環構造である」と知る。そこから、全ての同志が互いを慈しみ、終わりなき孤独から救済される安寧な“円の世界”を築き上げたのだった。

都会の競争社会に敗れた徳田と彩もまたその教えに救われ、円環構造の中に取り込まれた。ただ2人が圧倒的に違ったのは、徳田はあくまでも信者の一人であり、彩は教祖から特別なものを見出された存在だったこと。彼女の何がそう思わせたのかは分からないが、教祖は彩を“聖母の生まれ変わり”と直感したのである。

権力に握りつぶされた彩にとって、自分は特別な存在であると思わせてくれるその場所は甘美な魅力を持っていたに違いない。どうして人は明らかに怪しい宗教にハマってしまうのか。いつも不思議で仕方がなかった。でも人間に「誰かに自分を価値のある存在として認めてもらいたい」という承認欲求がある限り、誰でもそこに足を踏み入れる可能性はあるのだろう。

円の調和を乱すものにはシャクナゲを贈ることで警告を、改めぬものには鉄槌を食らわすーー。自分たちの言いなりになる人しか仲間として認めないアビゲイルは、かなり排他的だ。しかし、全く理解できないわけではない。なぜなら円の世界が崩壊すれば、自分たちは再び社会に放り出されるのだから。誰もが自分を価値のある存在として認め、愛してくれるとも限らない社会に。

だからこそ、調和を保つためなら意味のある犠牲として裏切り者には裁きを下すし、善と信じて疑わない自分たちの世界に家族や友人、恋人など大切な人間を引き込もうとする。此の期に及んで「仲間になれば、三馬さんと私の毎日は続きます」と太郎を勧誘する彩の無邪気な言葉。そして、それを拒絶する太郎に見せる失望の表情が怖かった。

彼女は他の人と同様に、自然な流れで太郎と恋に落ちた。愛しているから太郎の才能をもっと活かせる場所に連れていきたい。太郎も自分を愛してくれているなら、きっと全てを受け入れてくれる。そう信じて疑わなかったのだろうということが、彼女の一挙一動から伝わってきた。前回の岡部たかしもだが、川口春奈も洗脳された人間の特徴をあまりによく捉えている。

さらに今回、明らかになったのはアビゲイルがハヤブサにおける2人の有力者をすでに取り込んでいたこと。一人は町長の村岡(金田明夫)であり、信者を愛人として送り込むことで彼を思う通りに動かしていた。

そして、もう一人はなんと住職の江西(麿赤兒)。太郎の調査で彼は展子の兄であることが分かる。複数人の住民が随明寺から離檀し、アビゲイルに改宗したとみられるが、住職でなおかつ人望も厚い江西なら彼らをそそのかすのは容易であっただろう。改めてアビゲイルという宗教団体がこれだけ順調に信者を増やし、またハヤブサを自分たちの活動場所として乗っ取っていく流れを自然な形で描く本作の作り込み具合に驚かされる。

最終回を前に怒涛の展開が続き、これまでの牧歌的な太郎と消防団員たちのやりとりが失われたのは寂しい。いまや太郎の前で空気を読まず彩の目的を考察したり、桜屋敷に突然現れた映子(村岡希美)をお化けと勘違いして怖がる中山田(山本耕史)のブレない姿勢だけが救いだ。

それにしても、映子はなぜ太郎の元を訪ねてきたのか。杉本に対してあまり好意的とは思えない視線を向けていたのも気になるところ。アビゲイルからハヤブサを守るための鍵はもしかしたら彼女が握っているのかもしれない。どのような形になるかは分からないが、ラストにはアビゲイルの脅威から逃れ、平穏を取り戻したハヤブサで太郎ら消防団員たちの笑い声が聴きたいものである。

(文:苫とり子)

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