運命で結ばれた同士だった?『男はつらいよ』寅さんとリリーの恋
金曜日の夜、映画でも見て過ごしませんか?
デジタル配信で見られるおすすめ映画をご紹介する。「金曜映画ナビ」。
先週に引き続き、山田洋次監督、渥美清主演の名作シリーズ『男はつらいよ』にスポットを当ててご紹介します!
「男はつらいよ」は実に48作品も制作されています。日本の007と言っても過言ではないほど愛されているシリーズなのです!
そんな「男はつらいよ」の中でも私が大好きで、みなさんにも気に入って頂けるのでは?と思う切り口、それが「リリー」。今回はその切り口で進めていきたいと思います。
寅さんにとって“本命マドンナ”だった?歌手のリリー
『男はつらいよ』の主人公、“フーテンの寅”こと寅さんはいつも恋をしています。映画全48作を通して、毎回美しい女優が“マドンナ”として登場し、惚れっぽい寅さんは夢中になるのですが、結局は振られてしまいます。
ただし、登場したマドンナたちは必ずしもみなが寅さんを袖にしたわけではなく、中には寅さんとカップルになれたかもしれない相手も数人いました。その中でも、彼女こそ本命に違いないといわれてきたのが、浅丘ルリ子演じる旅回りの歌手・リリーです。
今回は、『男はつらいよ』恋愛編。リリーが登場する全4作をご紹介したいと思います。
第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』
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寅さんとリリーの最初の物語。北海道へやってきた寅さんは歌手のリリーと出会い、心を通わせます。その後、葛飾柴又で二人は再会。寅さんとその家族の温かいもてなしに孤独な身の上のリリーは心安らぐひとときを過ごしますが――
【寅さんとリリーのおすすめ場面は…】
北海道の網走で出会った寅さんとリリー。二人は船着き場を歩きながらしばし言葉を交わし、お互いに根無し草の旅人であることを知ります。
普通の人たちとは違う、それも決していい方に違うとはいえない生活の中で孤独と寂しさを抱えている二人。多くを語らずとも、寅さんとリリーはお互い仲間だと感じとっています。二人が並んで座っている姿はあまりにもしっくりきていて、出会ったばかりなのに強く惹かれあっているのがよく伝わってくるのです。
第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』
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家出したサラリーマン・兵藤(船越英二)と旅をする寅さんは、北海道の小樽でリリーと再会。3人で旅をしますが、やがて、喧嘩をして別れてしまいます。しかし、柴又で再度出会った二人は仲直り。仲むつまじい二人の姿に、一緒になってくれたらと妹のさくらは期待しますが――
【寅さんとリリーのおすすめ場面は…】
物語の中盤、寅さんとリリーは、柴又の家で些細な理由で大喧嘩。寅さんは団子屋を飛び出してしまいます。しかし、その後、リリーが気になる寅さんは、さくらに後押しされて、仕事に行った彼女を駅まで迎えに行くことに。
雨が降る中、リリーが柴又駅の改札を抜けて出てくると、そこには傘をさした寅さんが待っているのです。大喜びで寅さんに駆け寄るリリー。そして、二人は相合い傘で歩きます。
リリーと寅さんの関係は他のマドンナと少し違うところがあり、それが彼女が本命といわれた理由の一つでもあると思うのですが、寅さんはリリーに対して容赦ないところがあります。
通常は好きになった女性の前ではなんとかかっこつけようとする寅さんですが、リリーに対しては遠慮がなく、ときにはひどい言葉を投げつけて彼女を傷つけることもあります。ただ、それは、寅さんがリリーに心を開いていた何よりの証拠。リリーと一緒のときの寅さんは気楽な“フーテンの寅”のままでいることができたのです。
全4作を通して、この二人は派手な喧嘩を繰り返すのですが、ただ、その後は仲直りをして寄りそいます。この作品でも、傘をさして待つという不器用な態度で愛情を示す寅さんの姿にリリーの表情が輝き、そして、相合い傘で帰る二人の姿は、『男はつらいよ』全シリーズを通しての特に素敵な名場面。「忘れな草」で恋に落ちた二人が、共演第2作目でまさにベストカップルになったシーンです。
第25作『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』
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柴又へ戻ってきた寅さんのもとに、一通の手紙が。それはリリーからのものでした。彼女が病にかかり沖縄で入院していると知って、寅さんは遠路はるばるリリーを訪ねます。
寅さんと再会したことで、リリーは元気になり退院。二人は沖縄で家を借りて一緒に暮らし始めます。南国でまるで夫婦のような幸せな日々を過ごす寅さんとリリー。しかし、次第にすれ違い、やがて些細なことで喧嘩をして――
【寅さんとリリーのおすすめ場面は…】
病院に通って看病してくれる寅さんのおかげで、笑顔と華やぎを取り戻していくリリー。ある日、寅さんが病室にいくと、彼女は口紅をつけている最中でした。「なんだい、おめかしして」と聞く寅さんに「二枚目が訪ねてくるんだもん」というリリー。「誰が、いつ来るの」と動揺する寅さんに、「もう来てるよ。あたしの目の前」と寅さんをリリーは指さすのです。
大好きな男性が来るんだからきれいにしなきゃ…というリリーの乙女心、そして、寅さんに会えて本当に嬉しいんだという彼女の心情がよく伝わってきます。そして、「二枚目」と言われた寅さんのなんとも嬉しそうな顔。もう、愛し合っているとしかいいようのない寅さんとリリーの幸せなシーンで、筆者は二人がこのまま幸せになってくれたらいいのに…と思わず願わずにいられませんでした。
第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』
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『男はつらいよ』シリーズ終盤は、さくらの息子の満男が寅さんと並んで作品の軸になり、この最終作も、寅さんとリリーの恋と当時に、満男と彼が想いを寄せる泉(後藤久美子)のロマンスが描かれています。
泉が結婚すると聞いてショックを受ける満男。やりきれない気持ちのままに、泉の結婚式をぶちこわし、その後、奄美大島へ渡りますが、なんとそこでリリーと暮らす寅さんと再会します。そして、満男と泉、寅さんとリリー、二組の男と女が迎えるそれぞれの結末とは――
【寅さんとリリーのおすすめ場面は…】
「生まれる前から運命の赤い糸で結ばれている」と寅さんが劇中で語ったように、仲がいいときは本当に幸せなカップルであるリリーと寅さん。しかし、一度こじれたが最後、派手な喧嘩をして離れてしまう。それをずっと繰り返してきた二人です。
この映画のラスト近くでも、また二人は些細なことで争います。そして、仲直りをせず奄美大島へ戻ろうとするリリー。しかし、そこへ寅さんが現れ、リリーと一緒にタクシーに乗り込みます。「どこまで送っていただけるんですか?」と問うリリーに「男が女を送るっていう場合は、その女の家の玄関まで送るっていうことよ」寅さんは答えます。喧嘩をして仲直り。結局、最後の最後までそれを続けた二人でした。
寅さんとリリーは、ともに一つの場所に定着することができない旅人です。それぞれが行く二つの道がときおり一つに重なるときがあり、二人は心を通わせ、幸せなときを過ごしました。しかし、旅人である二人がいつまでも同じ道を進むことはなく、やがてまた別々の道を行く。シリーズを通して、ふれあいと別れを繰り返してきた二人でした。繰り返される喧嘩、ご覧になられたらこれについても是非みなさんと語ってみたいなと思います。相合い傘のメロン…とか。
『寅次郎紅の花』が上映された翌年、寅さん役の渥美清さんが68歳で他界。この作品をもって『男はつらいよ』シリーズは、その長い歴史を閉じたため、寅さんとリリーが最終的にどうなったのかは、語られずじまいになっています。二人は結婚したのか、それとも、それぞれ旅をしてくっついては離れては…を繰り返したのか。ただし、この二人ならば、どちらの結末もありな気はします。
いずれにしても、きっと二人は運命で結ばれた相手同士なのですから。
(文:田下愛)
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