AV界の帝王・代々木忠の精神を受け継ぐ女たちの『愛∞コンタクト』

愛∞コンタクト

(C)2015 OSD syndicate

代々木忠といえば、男性なら知らぬ者なしといってもいい、AV界の帝王ともいえる大巨匠ですが、そんな彼の世界観を基にした、1本のオムニバス映画が誕生しました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.172》

『愛∞コンタクト』、監督は全て女性です!

現代を生きる3人の女性を描いた
3つのエピソード

『愛∞コンタクト』は、代々木忠が撮影現場で出逢ったさまざまな男女を通して、人はいかにして心から目合い(まぐわい)、繋がっていくのかをつづったエッセイ『つながる セックスが愛に変わるために』を原作にしたものです。

原作および代々木の世界観に強く惹かれた女優・中原翔子が早川ナオミ名義で映画初プロデュース。

3つのエピソードを84年生まれの渡辺あい、88年生まれの深井朝子、ふたりの若手女性監督に演出させています。

第1話『感電』(渡辺あい監督)は、母親の言いつけ通りに生きてきた女子大生(長谷川るみ)の抑圧された意識が、電気となって体内からあふれ出していきます……。

第2話『おはよう、マコちゃん』(深井朝子監督)は、ダメ男にぞっこんのOL(広澤草)が、彼の心を繋ぎとめようとするあまり、風俗業界に足を踏み入れていきます……。

第3話『LOVE REVOLUTIONS』(渡辺あい監督)は、自分大好き! な女優(加藤夏希)が主演映画の撮影現場で監督の指示に逆らい、葛藤していきます……。

また各エピソードの合間には幕間映像『interlude~つながる~』(江原シュウ&中原翔子主演)が淺雄望監督の演出で描かれていきます……。

正直、最初に第1話を見たとき、事前の予想を裏切り、いわゆるあからさまなエロティック描写が皆無なことに驚き、電気を放出するヒロインのダーク・ファンタジズムには戸惑いすら覚えたのですが、2話、3話と、これまたエロ描写のないエピソード(第2話なんて風俗のお話なのに!)を見ていくに従い、本作が一体何を訴えたかったのかが明らかに見えてきて、すべて見終えると第1話から見直したくなる衝動に襲われました。

そう、本作はAV帝王・代々木忠の描くAVそのものを題材にしているのではなく、彼の世界観に魅せられた女性たちがそれぞれのスタンスで現代を生きる女性たちの姿を、若干カリカチュアライズさせながら描いたものなのです。

人と上手く“つながる”ことのできない
現代の女性たちのために

この3つのエピソードに登場する女性たちはみな、代々木忠がAVの撮影現場で出逢った女優たちのキャリアをモデルにしているといいます。

母親の前で良い子を演じ続けていた女。男に尽くすことばかり考えるあまり風俗嬢になった女。自信過剰の奥底にある不安ゆえか「愛してる」という台詞を言えない女……。

そんな現代社会の中でなかなか上手く“つながる”ことのできない彼女たちを、同じ女性として共感しつつ、ほどよい距離感を保ちながら慈しみ、描出した作品が、この『愛∞コンタクト』なのです。

この独特の雰囲気は男性監督には醸し出せないだろうというか、おそらくはどこかにあからさまなエロ・シーンなどを構築してしまうことと思われます。

また、その意味では「原作・代々木忠」というキーワードが男性観客に誤解を生じさせてしまう危険性も伴う作品でもあります。

ただ、よくよく代々木作品を振り返ってみると、いわゆる人気の美人AV女優を登場させるのではなく、プロも素人も問わず赤裸々なシーンを披露しながら、人が生きていく上で絶対に欠かせない要素としてSEXに真っ向から対峙し続け、そこから愛がいかに紡がれていくのかを、時に人間的感動すらもたらしながら描出していくものばかりであり、だからこそ代々木作品は徹底してハードな描写が多いにもかかわらず、女性信者が多いという現象をもたらしているのです。

即ち本作は、女性が女性の立場で、いかにして愛とコンタクトを取り続けていくかを∞(=無限大)に問いかけながら、いかに相手と“つながる”かを示唆していくものであり、そのためのエロ、そのためのSEXであるとも訴えています。

男性諸氏からするとなかなかに手ごわい作品であり、女性諸嬢からすると最初入り込むのに抵抗があるかもしれませんが、ともに体の力を抜いて心に隙間を設けられたら、ふっと入り込めて、人と人との“つながり”の難しさと大切さを体感することができるでしょう。

この秋の日本映画躍進の中、一見地味ながらも(いや、だからこそ)強くお勧めしたい作品です。

(文:増當竜也)

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    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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