夏休み映画興行・隠れたヒット作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」3部作

バック・トゥ・ザ・フューチャー (字幕版)

当たった映画あり、そうでない映画も・・・。

怒濤の夏休み映画興行も、最大のヤマ場であるお盆シーズンを迎えた。ここに至るまで、当たった作品あり、そうでない作品あり。悲喜こもごもの映画業界だが、この夏休み映画興行の傾向として、かつてのヒット作の続編やシリーズ作品が多いことから、それらを扱う配給会社としては「前作が当たったのだから、今回も大ヒットは当然」てな姿勢で、たくさんのスクリーン数での上映を希望してくる。で、以前このコラムで取り上げたように、「これではいくらスクリーンがあっても足りない!!」というような事態になってくるわけだが、映画が想定通りの興行成績を上げてくれれば問題はない。中には期待を大幅に下回る作品もあり、それでも配給会社との契約上、座席数の多いスクリーンで上映しなければならない。結果、ガラーンとしたスクリーンの中で、ろくに埋まってない座席の隙間を立体音響が響き、より寂しさに拍車をかけるといった現象が見られるわけである。

そうかと思えば、この夏意外な健闘を見せた作品がある。それも日米同時公開の新作ではなく、製作後20年以上経った旧作だ。「午前十時の映画祭7」で上映された「バック・トゥ・ザ・フューチャー」1~3の3部作が、各地で大入りとなったのだ。まあ大入りとは言っても、先に挙げたように大きなスクリーンは新作が奪い合うわけだから、その隙間をぬう形で「バック・トゥ・ザ・フューチャー」3部作を上映したシネコンの多くは、座席数中小規模であったようだが。それでも第1作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は7月23日と翌24日の2日間で全国55館計9939名が鑑賞し、これは同映画祭の土日新記録にあたる。中でも2日間で1746名が鑑賞し、全国トップの成績となった立川シネマシティでは、土日共に全回ほぼ満席だというから凄い。ではいかにしてこのシネコンは、旧作上映で新作を上回るほどの成績を上げたのか。遠山武志シネマシティ(株)企画室室長に話を聞いて、目から鱗が落ちる思いがした。

『数字』は一時のこと、『感動』は一生のこと

「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作は「午前十時の映画祭7」でもチラシの時点から別格扱いでした。これまでの『午前十時』でも、ここまで推された作品はなかったと思います。言わずと知れた大傑作シリーズですし、昨年は劇中で訪れる未来の年ということで話題になることも多かったですから、誰であっても大抵の新作よりも集客力があると考えるのではないでしょうか」。

確かにその通り。知名度のあるタイトル故、放っておいてもそこそこお客さんは来るだろう。だがしかし立川シネマシティは、この3部作を夏休みまっただ中に、全11スクリーン中最大キャパ(382席)を持つaスタジオ(このシネコンでは「スクリーン」ではなく「スタジオ」と上映場所を呼称する)に編成した。通常の番組編成ならば、こうはならない。大ヒットを目論む配給各社の目玉作品は、どこも最大キャパでの希望し、興行サイドはそうしたオファーの中から、最もヒットすると判断した作品を最大キャパのスクリーンに編成する。それがシネコンにおける番組編成のセオリーだ。大ヒット作を座席数の多いスクリーンで上映し、1円でも多く稼ぎたい。にも関わらず、立川シネマシティはそのセオリーに反する行為を今回行った。それはなぜだろう。

「『午前十時』作品は一般1,100円・学生以下500円という入場料ですので、平均客単価がかなり下がります。たくさんお客様が入っても、稼げません。しかし、シネマシティは“映画ファンのための映画館”を目指しています。仮に動員数や興行収入という『数字』で見れば劣っていても、お客様が受け取る感動の量が非常に高いのは明らかです。ならばそれを選ぶべきです。『数字』は一時のこと、『感動』は一生のこと。カッコつけて言えば、こういうことです」。

極上爆音上映という付加価値

映画館もビジネスである以上、収入を上げてそこから利益を計上しなくては存続出来なくなってしまう。どうしても「当たるシャシン」を自社陣営に取り込むことばかりに目の色を変えがちだが、まずその前に顧客満足=カスタマーズ・サディスファクションを目指さなくてはならない。これは大切なことだ。お客様あっての商売、観客がいてこその興行。彼らを満足させることで、「数字はあとからついてくる」という遠山室長の発言には、これまでの実績に裏付けられた確信さえ感じられる。

「最終的には話題性による宣伝、お客様のロイヤリティのアップによる囲い込みによって、『数字』もついてくると考えます。今回の上映も社内では“バカじゃないかしら”とは思っても、冒険だと考えている人間はいません。それは積み重ねによって、映画ファンのことを信じることができているからです」。

また「バック・トゥ・ザ・フューチャー」3部作を上映するにあたって立川シネマシティでは、このシネコン独自の付加価値をつけた。「極上爆音上映」という音響再生がそれで、昨年この方式で上映した「マッドマックス/怒りのデス・ロード」「ガールズ&パンツァー 劇場版」が連日満席となる大ヒットを記録し、前者は昨年9月で一旦上映を終了したものの、スピーカーの新規導入のタイミングで今年4月から再度上映を開始。現在でも1日1回、aスタジオで続映されている。また後者の場合は昨年11月から現在も上映されており、岩浪音響監督が自ら音響を調整した「センシャラウンドファイナル エクストラ6.1ch」の場合は、初日から熱心なファンが多数詰めかけ、連日満席を記録。ついには「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の興収を破っただけでなく、未だ土日はaスタジオがほぼ満席になるという。

「極上爆音上映」とはそもそも「単に騒々しいだけでなく、映画の中に込められた音声情報を、限界まで再生する」方式だ。しかし「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように製作年度が古い作品の場合、新作同様の立体音響を創出するのは難しいのではないだろうか。

「30年前の作品ですのでレンジは狭いですが、今回の上映は5.1chにリマスターしたもので、とても良い音になっていました。ここを強調したということは特にないですね。エンジン音や落雷の迫力を出すために低音は強めになっていますが。金管楽器の艶やかな鳴りには感動しますよ。ある意味、エンドロールが一番テンションが上がります(笑)。あのテーマ曲は人心をむやみに鼓舞しますから」。

今年4月よりaスタジオに導入した、meyer sound 社ラインアレイスピーカー「LEOPARD」は、驚くなかれ6000万円というお値段。これほどの設備投資を行い、それに相応しい音響をプロの音響家に依頼して調整。7月23日にフタを開けた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、初日、2日目共にほぼ満席。翌週からの「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」、翌々週からの「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3」も同様に、最大キャパのスタジオaを観客たちが埋め尽くした。IMAXも4DX、MX4Dといった流行の体感起動装置もないシネコンで、製作後20年以上経過した旧作が、新作、それも夏休み映画と互角に戦ってみせたのである。

初めてこの映画を映画館で見た、20代の観客たち。

遠山企画室長によると、このBTTF3部作の主要客層は「男女比は男性が65%という感じでした。年齢層は30代~40代がボリューム層で、公開時に小中高生だった方たちですね」とのこと。「公開当時映画館で観ていたか、テレビやビデオで観た世代。
20代のお客様も多かったですよ。この世代は劇場で初めて観て感激したのではないでしょうか」。

映画そのものの面白さに加えて、極上爆音上映の採用、最大キャパであるaスタジオでの上映と、作品の力と映画館サイドの努力が相まって、立川シネマシティでの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」3部作は大成功に終わった。そのプロセスからうかがえるのは、サービス業としての映画館が、いかなる姿勢で興行に臨むべきかということだ。「儲け」を追求するばかりではいけない。その前に観客たちに「喜び」を、「感動」を与えてこそ、相互の信頼関係を築くことが出来る。まさに「『数字』は一時のこと、『感動』は一生のこと」なのである。

(文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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