カンヌが驚愕した日本映画の美しさ

いよいよ今週11日(現地時間)から始まる第69回カンヌ国際映画祭。毎年のように豪華すぎるほどのコンペティションが繰り広げられ、同じ三大映画祭に挙げられるベルリンとヴェネツィアをも凌駕する、圧倒的なブランド力を持っているのである。

カンヌ映画祭
© FDC / Olivier Vigerie

もちろんのこと、世界的な名作家が顔を揃えたところで、日本のメディアが大きく取り上げるのは日本から出品された作品ばかりである。今年は「ある視点」部門に是枝裕和の『海よりもまだ深く』と深田晃司の『淵に立つ』、そしてスタジオジブリが制作の『レッドタートル ある島の物語』がエントリーしており、そちらに注目が集まっていることだろう。

ただやはり、映画祭の花形であるコンペに日本の作品がいないというのは、寂しくもある。ヴェネツィアでは黒澤明の『羅生門』が日本映画として初めて三大映画祭の最高賞に輝き、ベルリンでは『千と千尋の神隠し』がアニメーション映画ながら最高賞である金熊賞を獲得したという歴史がフィーチャーされるが、実は三大映画祭の中で、日本の作品が最も多く最高賞を獲得しているのが、このカンヌなのである。

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日本映画が初めてカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いたのは、1954年の第7回。受賞作は衣笠貞之助の『地獄門』である。

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菊池寛の戯曲を基に、源平合戦を描き出した本作は、物語自体は多くの日本人が知っているポピュラーなものであろう。遠藤盛遠を演じる長谷川一夫のスターパワーもあってか、配給収入は1億5000万円の大ヒット。当時の映画人気を考えるとどの程度のものか比較は難しいとは思うが、翌年公開される『ゴジラ』が1億6000万円の配給収入だったといえば、どれほどヒットしたのかわかるだろう。しかし、どういうわけか、半世紀以上経た現代で、この映画を観ている人があまり多くない印象を受ける。レンタルDVDが出ていないからという単純な理由ではなく、そもそもこの映画があまり認知されていないのではないだろうか。それはあまりにも由々しき問題である。

「白黒映画は観ない/観れない」という若者が多いとよく聞くが、おそらくそれ以上に、この時代の日本映画に共通している独特の色合いは、現代の何の変哲もないカラーに慣れてしまった観客にはハードルが高いのかもしれない。しかし、この『地獄門』に対して、ハードルを据えてしまうのはあまりにも無粋である。のちのカラー映画の主軸となる、イーストマンカラーフィルムを日本で初めて導入した作品であり、何故そのフィルムを選択したかといえば、完膚なきまでに平安時代の〝色〟を追求したためである。言ってしまえば、この作品こそ、映画と色の関係を初めて明確にした作品なのである。

もちろん、たとえ1000年前だとしても、そこに生きている人間たちが見ている空間の色は現代とさほど変わりはしない。だからと言って、時代感を出すための衣装を着せただけの、現代的な映像ではかなり興醒めしてしまう。近年でも数多くの「映像美」を売りにする映画が溢れかえっているが、それらの多くはカメラの性能の進化であったり、あえてその進化と逆行する表現であったりと多様で、果たして何が真に美しいものなのか、不明瞭である。いわば、映っているものが美しいのではなく、映し方が美しいだけなのではないかと思わせる作品が多い。

しかし、この『地獄門』は、洋画家の和田三造が色彩設計と美術を務め、当時の所謂〝雅〟な色合いの世界を、映像において忠実に再現させることに成功した。そして日本映画としては初めて、アカデミー賞で名誉賞(のちに外国語作品賞となる)以外の部門、最優秀美術賞に輝いたのである。そして、その美術の色を引き立たせるためのフィルムの選択、照明と、雰囲気を仕上げる劇伴も相まった演出の巧さ。それが、カンヌを驚愕させたのである。映っているものも、映し方も完璧で、日本人ですら誰も観たことのない、およそ1000年前の風景を、誰もが理想として思い描く姿に創り出したのである。

5年前に待望のデジタル・リマスター版が作られ、ブルーレイ化もされ、上映の機会も増えた。これはもう実際に観て、その美しさに圧倒されるほかないのである。

そして『地獄門』でパルムドールを獲得した5年後、再び衣笠貞之助がカンヌで歓迎されたのは、泉鏡花原作の『白鷺』である。

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この衣笠貞之助という作家、『狂った一頁』や『十字路』など、アバンギャルド映画の旗手としてのイメージが強いが、その後松竹から東宝、大映と渡り歩き、晩年に大映で作り出した文芸映画の秀逸さは計り知れないものがある。

第12回のカンヌ国際映画祭、『黒いオルフェ』がパルムドールを獲得した年に特別表彰を受けた本作は、明治末期の待合茶屋で芸者として働く女と、画家の男の悲恋を描いている。幾度も映画化とドラマ化を繰り返し、これが2度目の映画化となったわけだが、当時の、とくに文芸作ではこのようにリメイクされることは、今よりも日常茶飯事であった。ヒロインの山本富士子ももちろんのこと、個人的には出番が少ないとはいえ、野添ひとみに心を奪われてしまう作品である。

こちらもまた、映画の舞台となる時代の美術にこだわり抜いた作品であるが、今度はアグファカラーのフィルムを採用して、イーストマンカラーよりも全体的に落ち着いた印象を画面に与えている。もっぱら、富裕家庭で育った衣笠の、品の良さが演出に反映されているのであろうか。

(文:久保田和馬

    ライタープロフィール

    久保田和馬

    久保田和馬

    久保田 和馬 1989年生まれ。映画評論家/映画ライター/映像作家。フランス映画とアジア圏の映画をこよなく愛する。大学時代からの自主制作の延長で映像制作を行い、2013年から文筆業を開始。「図書新聞」へ映画評の寄稿、「リアルサウンド映画部」への寄稿など。

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