庶民的イメージを貫きつつ、その実芳醇なキャリアを誇る倍賞千恵子

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.25

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。
日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

倍賞千恵子さん

『男はつらいよ』シリーズの妹さくら役に代表される飾り気のない庶民的イメージを大事にしつつ、その上で大女優として讃えられて久しい倍賞千恵子。

しかしながら、そのキャリアはさくらだけではなく、実はなかなか幅広い芸風を持ち併せていることにも気づいていただければと思います。

無個性という名の個性を持つ
類まれな女優

倍賞千恵子は1941年6月29日、東京市豊島区西巣鴨の生まれ。父は都電の運転手で、5人姉弟の次女で、三女は女優の倍賞美津子。

戦時中は茨城県に疎開し、戦後は北区滝野川に住み、小学校4年生のときにみすず合唱団に所属し、『かごめかごめ』などの童謡をレコードに吹き込んでいます。

57年春の中学卒業後、親が勝手に松竹音楽舞踊学校に願書を提出していたところ、それが合格となり、同行を首席で卒業した60年、松竹歌劇団(SKD)に13期生として入団しました。

SKDではパレードの初代バトンガールとなったり、新人賞を受賞するなど華やかなスタートを切りますが、中村登監督にその才能を見出されてスカウトされ、翌61年1月にSKDを辞めて松竹と専属契約を結びました。

映画デビュー作は中村監督の『斑女』(61)の家で娘役で、3作目の五所平之助監督『雲がちぎれる時』で準主演のバスガールを演じますが、このとき五所監督から、かつて田中絹代は『伊豆の踊子』(33)撮影中、出番のない日も衣装を着けて終日ロケ隊に付いていたことを語ったら、彼女もそれを聞いた翌日からずっとバスガールの恰好をして早朝出発のロケバスに乗り込んでいたとのことで、結果として公開されるや、主演の佐田啓二や有馬稲子より彼女のほうが注目され、絶賛されることになりました。

この時期、松竹では彼女を下町娘のイメージで売り出しつつ、62年には『瀬戸の恋歌』で歌手デビューも果たし、この年の製作者協会新人賞およびレコード大賞新人賞を受賞します。また、2枚目のレコード『下町の太陽』が大ヒットしたことで、それをモチーフにした青春映画『下町の太陽』(63)に主演。このときの監督が山田洋次で、これが運命的な出会いとなって続く異色サスペンス映画『霧の旗』(66)での主演以後、山田作品の常連となっていきます。

一方で、『下町の太陽』で共演した勝呂誉とは“サニーカップル”と称されて『二人で胸を張れ』(63)『女嫌い』(64)で共演し、また歌手の橋幸夫とも『若い奴』(63)『花の舞妓はん』(64)『涙にさよならを』(65)など多数共演し、人気を獲得していきます。

さらには、中村登監督『二十一歳の父』(64)『暖春』(65)、五所監督『かあちゃんと11人の子どもたち』(66)、大庭秀雄『横堀川』(66)『稲妻』(67)、加藤泰監督『みな殺しの霊歌』(68)などさまざまな名匠の作品に精力的に出演。

そして69年に始まる『男はつらいよ』シリーズ全48作で寅さんの妹さくらを演じ、倍賞千恵子の下町的イメージは見事に定着しますが、本人はその域にとどまらず、九州から北海道へ移り住む家族の旅を描いた山田作品『家族』(70)の妻役で、その年のキネマ旬報女優賞、毎日映画コンクール女優主演賞、そして映画部門では山田五十鈴、高峰秀子、三船敏郎に次いで4人目となる芸術選奨文部大臣賞を受賞しました。

山田洋次監督は倍賞千恵子のことを「無個性という個性のある女優」と評したことがありますが、強烈な自己主張をするのではなく、まるで空気のように違和感なくその場にいつつ、しかし気がつくと周囲の注目を集めているといった、卓抜した演技力もさながら、自身の資質も大いに必要とされる“個性”を銀幕で、そして山田映画で放ち続けていくのでした。

70~80年代の女優としての活躍と
現在の歌手としての活動

その後も『故郷』(72)『同胞(はらから)』(75)と山田映画のヒロインを務め続ける倍賞千恵子は、77年『幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ』で高倉健と共演し、『遥かなる山の呼び声』(80)でも息のあったところを魅せ、特に後者は毎日映画コンクール女優主演賞などを受賞。

そして81年、初の東宝作品となった降旗康男監督の『駅/STATION』で高倉健と三度共演し、大人同士の短くも濃厚なしのび恋を切々と演じ、キネマ旬報主演女優賞や毎日映画コンクール女優主演賞などを受賞することになりました。

86年には佐藤純彌監督『植村直己物語』で冒険家・植村の妻を好演し鷹と思うと、神代辰巳監督『離婚しない女』で妹・倍賞美津子と共演して話題を集め、山田作品『キネマの天地』にゲスト出演し、神山征二郎監督の異色ミステリ『旅路・村でいちばんの首吊りの木』に主演するなど、大活躍の年となりました。

渥美清の死去で『男はつらいよ』シリーズが最終作『紅の花』(95)で終了してから映画出演がぐんと減りますが、21世紀に入って宮崎駿監督の『ハウルの動く城』(04)で声優初主演&主題歌を務めて東京アニメアワード声優賞を受賞し、『隠し剣鬼の爪』(04)を機に『母べえ』(08)『小さいおうち』(14)と、再び山田作品に出演するようになっていきます。特に『小さいおうち』は黒木華扮する女中の晩年の姿として登場する重要な役どころで、彼女失くしては成立し得ない作品にもなっていました。

2005年紫綬褒章、2013年旭日小綬章を受章。

現在は夫の作曲家・小六禮次郎ともども音楽活動やそれに伴う平和的活動に力を入れていますが、今なお庶民的イメージを大事にしたまま芳醇なオーラを発し続けている彼女と銀幕で再会したいものです。

※「東京スポーツ」「中京スポーツ」「大阪スポーツ」は毎週月曜、「九州スポーツ」は毎週火曜発行紙面で、「生誕100年 写真家・早田雄二が撮った銀幕の名女優」を好評連載中。

(文:増當竜也

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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