お正月映画なのに元日を迎えられなかった、映画たち。

「ポーラー・エクスプレス」は正月映画じゃなくて、「クリスマス映画」だと言い訳しおって。

後輩 もう11月も半ばですよ。早いですねえ。

爺 なんだかんだで、あっという間に正月になるんだよ。年をとると、早いぞお。で、日本の正月といえば、正月映画だ。

後輩 いや別に、お正月にわざわざ映画を見に行くことないじゃないですか?

爺 昔から、日本人は正月に映画を見るものと決まっておるんじゃ!!!

後輩 はいはい、分かりましたよ。でも、以前元日に映画館に行ったら、ガラガラでした。

爺 実は穴場なんじゃよ、元日の映画館は。1日はサービスデーでもあるし、正月映画の目玉作品が、けっこう空いた環境で見られるチャンスだ。

後輩 じゃあ正月映画って、いつお客さんが入るんですか?

爺 そうだなあ。やっぱり1月の2日か3日だろうなあ。所謂三が日というものの、実質的に稼働するのは2日間。元日は皆、家庭で過ごすことが多いから、映画館には来ないだろう。

後輩 もちろん正月映画と言えば、各社イチ押しの勝負作、目玉作品を公開するわけですが・・・。

爺 とは言うものの、実は正月映画の中には想定した以上に観客が来なくて、正月映画であるにも関わらず、正月前に打ち切られた作品もある。

後輩 それ、正月映画じゃないですよね。

爺 まあ公開前はヒットすると思っているからなあ。でもフタを開けたら・・・(笑)。

後輩 代表的な作品だと、どんな作品がありますか?

爺 ぱっと思い浮かんだタイトルを言うと、ロバート・ゼメキス監督の「ポーラー・エクスプレス」だな。

ポーラー・エクスプレス (字幕版)

後輩 ゼメキス監督といえば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」3部作の巨匠じゃないですか?

爺 巨匠にだってコケた映画はあるわい。この「ポーラー・エクスプレス」だって、2004年11月27日から全国ロードショーされたんだが、この時期から公開するということは、早めにスタートした正月映画と思いきや、大晦日で終了してしまった。

後輩 なんでまた?

爺 お客が入らなかったからに決まっとるだろーが。ただしこの映画の場合は、クリスリスに起こる出来事を描いた作品だから、季節感としてはクリスマスのほうがしっくり来る。とは言っても配給会社も興行会社も、正月を突っ切って1月まで上映しようと考えていたんだが。

後輩 そういう場合、どうなるんですか?別の作品で補填するんですか?

爺 不入りの作品と同じ配給会社の作品に、すぐ出せる作品があればそれを公開するが、宣伝不足で出すわけだから、それだって大きく当たるとは思えない。「ポーラー・エクスプレス」の場合、適当な作品がなかったので、別のチェーンで1月15日から公開する予定だった、別の配給会社の「カンフーハッスル」を1月1日から繰り上げ公開した。チャウ・シンチーの映画が元日初日とは、すげえなあ。

後輩 元日初日ですかあ? それは映画館のスタッフも大変ですねえ。例年、大晦日は最終回をカットして早く営業を終え、元日は初回を中止してゆっくり出勤するのがパターンなのに。

爺 仕方がないさ。当たると思った映画がコケたんだから。当時配給会社のヤツに「正月映画なのに、正月前に打ち切るのか?」とイヤミを言ったら、「この映画はクリスマス・ムービーだから、クリスマスがすめば終わって良いのだ」と、言い訳された記憶がある。

アン・アーチャーの「ニューヨークの恋人」は、そもそも「フェーム」の地方併映用に公開された。

爺 でもまあ、シネコンが出来てからは入りが悪い映画でもすぐに切ったりせずに、小さなスクリーンに移したり、上映回数を減らしてケアすることが多いけど、そうじゃない映画館は大変だ。

後輩 昔はそういうことって、よくあったんですか?

爺 頻繁にではないけれど、時々あったよ。正月に上映されない正月映画。例えば1980年12月13日から公開された「ニューヨークの恋人」というアメリカ映画。タイトル通りのラブロマンスなんだが、この映画が2週間で打ち切りになってしまった。

後輩 えーと・・(と、スマホで検索する)あった。「ニューヨークの恋人」って、メグ・ライアン主演のヤツですか?

爺 ちがわい。アン・アーチャー主演だわい。

後輩 ・・・・知らない。えーと・・(と、またスマホで検索)。

爺 「危険な情事」にも出ていた女優さんだよ!

後輩 あ、あの危ない人?

爺 そっちじゃない!! とにかく「ニューヨークの恋人」は、都内はテアトル銀座と新宿武蔵野館のチェーンで公開されたものの、さっぱりお客が入らずに2週間で打ち切られ、正月を迎えることは出来なかった。

後輩 なんでそういう、ヒットしそうにない映画を配給会社はわざわざ正月に出すんですか?

爺 この場合は、同じCIC配給の「フェーム」が正月公開され、その2本立てのセットになる作品が「ニューヨークの恋人」だったのさ。いわば抱き合わせだな。当時は名古屋・福岡・札幌と地方での上映は2本立てだったから。

後輩 今、検索したら、この作品DVDになっていませんよ!!今どき!!

爺 アメリカではなっているかもしれんが、そりゃ日本じゃ2週間で打ち切られた映画だから、DVDにしても売れないとメーカーも判断したんじゃろ。

後輩 でも、短い期間で打ち切られたものの、評価が高くて後で名画座で人気が出たり。

爺 「ある日どこかで」みたいにか?いやあ、そういうこともなかったようだぞ。

後輩 ・・・不遇な作品ですねえ・・・。

「恋のジーンズ大作戦」は、いつの間にかサブタイトルが下克上した例。

爺 もう1本思い出したのは、「ある愛の詩」のライアン・オニールが主演した「恋のジーンズ大作戦/巨人の女に手を出すな」というコメディ映画。これが1981年12月19日から、丸の内松竹(旧)系で公開された。ところがこれまた不入りで、なんと1週間で終了してしまった。

後輩 やっぱり何かの同時上映のために公開されたんですか?

爺 うん。この場合は「マッドマックス2」だな。その相方を務めたわけだから、東京よりも地方のファンのほうが見ているかもしれないな。

後輩 で、1週間で打ち切られた後は、どの作品で穴を埋めたんですか?

爺 東劇系で上映していた「マッドマックス2」を拡大上映したんだよ。配給会社が同じだったから。

後輩 そもそも「恋のジーンズ大作戦」って邦題からして投げやりな感じが・・。

爺 それが本来のタイトルで、「巨人の女に手を出すな」というのはサブタイトルではなく、当初はコピーだったんだよ、宣伝用の。ところが「恋のジーンズ大作戦」では内容が分かりづらいと判断したのか、いつの間にか「巨人の女に手を出すな」というサブタイトルが、広告でも大きく謳われるようになった。

後輩 本当に投げやりですねえ・・・でも、巨人と謳うぐらいですから、映画にも巨人が出てくるんでしょ?

爺 出てくるさ。リチャード・キールという巨体の俳優がいてな。この人が数年前、「007/私を愛したスパイ」でジョーズという悪役を演じて、にわか人気者になったんじゃよ。

後輩 そのリチャード・キールが出演しているというだけで、「巨人の女に手を出すな」というサブタイがついてしまう・・。

爺 だったらリチャード・キールが出た映画、すべてに「巨人」とつけられるな(笑)。そもそもでかい人なんだから。

後輩 (またまたスマホで検索しながら)ご隠居!てーへんだ!!この映画も日本ではDVDが出ていません!!

爺 まあ、それはそーだろう。

後輩 アマゾンで検索したら、中古のパンフレットが1円で売られています!!

爺 そういう映画も世の中にはあるってことだよ。たまにはそういう不遇な作品のことを、せめてわしらだけでも思い出してあげようじゃないか。

後輩 いや、今日は勉強になりました。でも、こんな作品を取り上げても、そもそもどんな方法でも見られないわけだから、さっぱり役に立たないと思うんですが。

爺 アホか。このコラムのタイトルをよーく見たまえ。「役に立たない映画の話」と書いてあろーが!!

後輩 本当に、役に立たない話ですねえ、今回は・・・(絶句)。

(企画・文:斉藤守彦)

    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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