映画コラム
「ドラゴン・ブレイド」公開直前レビュー、近年のジャッキー・チェン映画では密度がダントツ!!
「ドラゴン・ブレイド」公開直前レビュー、近年のジャッキー・チェン映画では密度がダントツ!!
現在、御年61歳本格アクション卒業宣言以後も精力的に活躍し続ける、ジャッキー・チェンの最新作「ドラゴン・ブレイド」。本国では驚異的な大ヒットを記録してジャッキー健在を大きくアピールし、米フォーブスが発表した世界で最も稼いだ俳優の二位輝いた。
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高まり続ける、世界の映画においての中国の重要性の象徴ともいえる映画
一時の勢いは無くなったものの、世界のあらゆる分野で大きな存在感を示す中国を改めて感じさせる超大作となった。
一説によると「アバター」(09、ジェームズ・キャメロン監督)の中国での成功以降、ハリウッドの目が一気に中国に向かったということだが、それを示すかのように、この後から中国でのハリウッド大作の撮影、中国人俳優のハリウッド進出が一気に進んだ。「トランスフォーマー/ロストエイジ」(14、マイケル・ベイ監督)「X-MEN:フュター&パスト」(14、ブラアイン・シンガー監督)では撮影も役者も中国に縁の深い作品となった。
昨年公開の「ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション」(05、クリストファ・マッカリー監督)では大々的に中国の映画製作会社が参画して、企業名も大きく明記された。昨年、華々しくシリーズが再開した「スターウォーズ」シリーズのシリーズ最新作で初のスピンオフ映画(過去のものはアメリカのTVムービー)となる「ローグ・ワン」(16年、ギャレン・エドワーズ監督)にはドニー・イェンとチアン・ウェンがキャスティングされている。
若干、話が寄れてしまったが、とにかく、中国という国の存在は映画においても無視できないものになっていて、それに伴って作品を取り巻く様々な環境が格段にレベルアップしている。それの一つの象徴といえるのがこの「ドラゴン・ブレイド」だろう。
映画の作りとしては「THE MYTH/神話」(05年、スタンリー・トン監督)「ラスト・ソルジャー」(10年、ディン・シェン監督)続くアクション史劇・武侠作品となっている。
これは中国映画での武侠映画ブームとジャッキー自身の加齢によるアクションの制限が、重なった流れで始まったものだが、今作はひとつの頂点・完成形といっていいでしょう。
ジャンル映画において信頼度高いハリウッド俳優が登場!
今回、なんといっても注目ポイントはその豪華すぎる共演者達だろう。
韓国からアイドルグループSUPERJUNIORのチェ・シウォンが出演しているのは最近のジャッキー映画の流れだが、ジャッキー演じるフォ・アンと決闘の経て民族を超えた友情を築くローマの将軍ルシウスにジョン・キューザック。ラスボスとして登場するローマの執政官にはエイドリアン・プロディが登板。バリバリのハリウッドスターである。エイドリアン・プロディに至っては史上最年少でアカデミー最優秀主演男優賞を取った、超大物。
ジャッキー映画の古くからのファンの間では外国人俳優を起用する場合は人件費のかからない無名の俳優を起用することが多く、それは監督・プロデューサーとしても作品に関わることの多いジャッキーならではチョイスではあるものの、お馴染みの風景であった。(中華圏で作られた映画での話で、ハリウッド作品は例外)
そんなジャッキー映画にキャリアも知名度抜群のこの二人が登場とは驚きである。世界各国での公開も念頭に置かれている作品だが、基本的に中華圏向けの中国映画でである。
とはいえ、実はジョン・キューザック、エイドリアン・プロディともにそのフィルモグラフィを見ると実はジャンル映画が多い。映画ファンにおいてはある意味信頼度抜群の二人だったりもする。ジョン・キューザックはすでに米中合作の「シャンハイ」(11年、ミカエル・ハフストローム監督)にも出演済み。
近年のジャッキー映画では密度がダントツ!!
映画は、勿論突っ込みどころ満載で、この辺りはジャンル映画の宿命というところでもある。
まず、そもそもシルクロードによって洋の東西が密に絡み合い、交流が盛んであったとはいえ、いきなりハリウッド組演じるローマ人とジャッキー演じるフン族出身のシルクロード警備隊長が多少ぎこちなくはあるものの普通に会話している。そのぎこちなさも、言語に問題があるというよりは最初にやりあったこともあったのでなんとなくよそよそしいという感じである。
それどこか、見せ場の砦再研とクライマックスの決戦では36もの民族が何の問題もなく会話をしている。日本語吹き替え版で見てしまえばなんということはないことだが、改めて気が付いてしまうと苦笑してしまう。
ちなみに日本語吹き替え版のジャッキーはお馴染みの石丸博也さんが担当、今や絶滅危惧種の数少ないフィックス声優が堪能できる。)キャラクターの役どころも敵側に振れた方と思うと、次の場面では肩を組んで杯を酌み交わしていたりしている。
理想主義的すぎる平和についてのジャッキーの持論大展開の演説シーンなど、正直説教臭く鼻につくところもあるが、それを上回る硬軟織り交ぜたエピソードのたたみかけでそこまで前面に出てくるように感じない。
またジャッキー映画では珍しいほどのバイオレンス描写があって、同席した女性観客が少し顔を背けそうになるほど容赦がないところもある。これが物語にシリアスさ、重さを出している。そして、何よりこれが最後までみっしりと詰まっているところが素晴らしい。
見せ場はたっぷりと堪能できるものの、最後は脱力的に終わってしまうこともあるじゃキー映画の中では最後まで見せきってくれる。この辺りは「三国志」(08年)「項羽と劉邦」(11)と濃い密度が最後まで続く作品を取り続けるダニエル・リー監督の手腕によるところが大きいだろう。
ジャッキーも製作・アクション指導としてスタッフとしても現場を仕切っていたようだが、最近は委ねられる若手監督の発掘も意識しているようで、今回もバランスの取れた映画の作られ方をしている。
体を張る本格アクション路線から身を引きつつ、その分ドラマ性を高めて映画を作り続けるというがゼロ年代後半からのジャッキーのテーマだったが、今回はいよいよ高いレベルでバランスが取られ、アクションからドラマ、ドラマからアクションの流れによどみがなく高い完成度が感じられた。「グラディエイター」(00年、リドリー・スコット監督)のアダプテーションではあるものの、馬400頭、スタッフ総勢700人という本作ならではのスペクタクル映像が連続するのは本作のオリジナルだろう。
まぁ、二人のヒロインが明らかにジャッキーの相手役にしては若すぎるのだが、それはまぁ中華圏映画におけるスターの特権として見逃すとしよう。
この4月で62歳になるジャッキーは今後も大忙しのようで、アメリカでは大ヒットスタートの「カンフーパンダ3」。「ラッシュアワー」「ベストキッド」の続編も待機中とのこと、まだまだ落ち着く気はなさそうだ。
2月12日(金曜日)TOHOシネマズ六本木他全国ロードショー。
(文:村松健太郎)
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