鰐淵晴子、天才美少女から妖艶なる美女、そして演技派女優へ

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.40

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。
日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

鰐淵 晴子さん

先日開催された角川映画祭で『悪魔が来りて笛を吹く』(78)を久々に再見した際、事件のカギを握るヒロインを務める鰐淵晴子の妖艶な美しさに、改めて圧倒されました。日本人とオーストリア人のハーフという出自からくる日本人離れした西洋的な雰囲気が、横溝正史原作のおどろおどろしい猟奇ミステリ劇と不思議に合致し、ついには作品そのものの象徴として実に見事に映えているのです。

もともとは天才少女ヴァイオリニストとして絶賛され、初主演映画『ノンちゃん雲に乗る』(55)で瞳の大きな愛らしい美少女として日本中の少年たちを魅了した彼女ですが、いつしかゴージャスかつミステリアスな美女となり、やがては演技派女優として台頭していくのでした。

天才少女ヴァイオリニストから
『ノンちゃん雲に乗る』での大人気

鰐淵晴子は1945年4月29日、東京都の生まれ。父はヴァイオリニスト鰐淵賢舟で母はハプスブルグ家の末裔のひとりであるオーストリア人。3歳半ばから父・賢舟の指導のもとでのレッスンを受けるようになり、6歳で父と共に日比谷公会堂でヴァイオリンを初演奏し、8歳で全国を演奏旅行し、天才少女ヴァイオリニストと謳われるようになります。

52年、劇中でヴァイオリンを弾かせてくれることを条件に、大映『母子鶴』で若尾文子の幼年期を演じて映画初出演。そして55年、新東宝のファンタジー映画『ノンちゃん雲に乗る』で映画初主演して大いに話題を集め、この後映画会社各社が彼女を獲得すべく画策を開始しますが、父が映画界入りを強硬に反対し、しばらくは音楽の世界に専念。

59年、佐分利信監督の『乙女の祈り』に主演して、ようやく松竹と専属契約を結びます。同年『わかれ』では実年齢より6歳も年上の20歳の女性を演じましたが、165センチという当時の日本人女性には大柄な体躯と堂々たる存在感で、まったく違和感はありませんでした。

それどころかファニー・フェイスが流行っていた当時の映画界の中、オーソドックスな美貌の彼女は「原節子の再来」とまで謳われ、60年には『伊豆の踊子』『明日はいっぱいの果実』『あんみつ姫の武者修行』と主演作を連打。

さらには英語とドイツ語が堪能なことから、56年冬季オリンピックのアルペン三冠王となったオーストリアのトニー・ザイラーを主演にしたスキー映画『銀嶺の王者』(60)のヒロインにも抜擢され、同年のTBSテレビ『世界一周空の旅』ではホステスとしてヨーロッパやアジアなど世界各国を回りました。

この後も『猟銃』(61)や『晴子の応援団長』(62)、『ローマに咲いた恋』(63)など松竹看板スターのひとりとして多数の作品に出演しますが、日本映画界全体の斜陽に伴い、彼女もデビュー当時ほどには作品に恵まれないようになり、65年に松竹を退社してフリーとなり、以後は東映『花札渡世』(67)や大映『眠狂四郎無頼控・魔性の肌』(67)に出演しました。

華麗で優雅な美を保ちつつ
演技派女優への飛躍

68年に結婚するも翌年離婚し、アメリカに渡ったところ、そこでカメラマンのテッド若松と出会い、帰国後の72年に再婚(86年、離婚)。この時期から従来の美貌に妖艶さが加わるようになり、『反逆の報酬』(73)『脱走遊戯』(76)を経て、77年の大林宣彦監督の商業映画デビュー作『HOUSE』ではヒロインの父親の婚約者をゴージャスな雰囲気で演じ、作品の優雅さを大いに高めてくれています。

また76年に彼女が出した同名ヒットソングをモチーフにした牧口雄二監督の『らしゃめん』(77)では、久々に主演。ここでは外国人の現地妻、いわゆる洋妾“らしゃめん”を演じていますが、彼女の出演シーンはすべてタッドが撮影を担当したとのことです。

78年の横溝正史原作のミステリ映画『悪魔が来りて笛を吹く』も不思議な作品で、最初にも記しましたが、ここで彼女はヒロイン役を務めながらもほとんど内面など深く描かれることはなく、しかし、ただそこにいるだけで作品世界の猟奇的妖艶さや華麗さ、そしてはかなさなどを象徴する存在として見事に映えていました。

80年代は舞台出演にも積極的になっていき、一方で『二十世紀少年読本』(89)『ZIPANG』(90)など林海象監督作品の常連としても活躍するようになっていく鰐淵晴子ですが、95年にはそれまでの実績が認められ、『平成無責任一家・東京デラックス』『遥かな時代の階段を』『眠れる美女』の3作品でそれぞれ個性的な役柄を巧みに演じ分けて毎日映画コンクール女優助演賞を受賞しました。

その後も『不機嫌な果実』(97)『天国の本屋~恋火』(04)『着信アリ』(05)と順調にキャリアを重ねていきますが、『初恋』(06)以降の映画出演が途絶えているのは惜しまれるところです。

なお、一女の鰐淵理沙は現在、国際的声楽家・歌手・タレントとして活躍中。やはり音楽一家としての血は確実に受け継がれているようです。

(文:増當竜也)

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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