「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」を、正しく理解するために。

ハリウッドがひれ伏した銀行マン ポスター (C)Don Camp

プリセールスという方法がなければ、
東和は「キングコング」を扱えなかっただろう

爺 前回の「トランボ」に続いて、「けっこう面白いじゃん、ドキュメンタリー映画」第2弾として扱うのが、「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」で、これは既に公開中だね。

女の後輩 「ハリウッドがひれ伏した」って、ハリウッドってそんなに簡単にひれ伏しちゃうんですか?

爺 大金を持っている人を見れば、簡単にひれ伏すぞ(笑)。今だったら中国の大企業とか。

女の後輩 要するにこの映画って、80年代の映画に出資した銀行家のドキュメンタリーなんでしょう?

爺 ちょっと違う。銀行は映画に「出資」なんかしない。ここの場合は「融資」。つまり、お金は貸すけれど、絶対に返せよ、と。出資の場合は、儲かったらお金が何倍にもなって戻ってくるけれど、ダメだったらそれまでという。

女の後輩 映画って、作るのにお金がかかるんですねえ、やっぱり。

爺 そらそーだ。だから理解のある銀行家は皆が求めている。この映画はフランズ・アフマンという、70年代から90年代にかけて、数々の作品に融資した銀行家の活躍を、実の娘が辿ったものなんじゃよ。

女の後輩 どんな作品に関わったんですか?

爺 古くは「キングコング」。これは1976年バージョンで、イタリアのプロデューサー ディノ・デ・ラウレンティスがアメリカに進出して3本目の作品で超大作。

女の後輩 前の2本はどんなのを作ったんですか? そのディノって人は?

爺 「セルピコ」「コンドル」あたりかな。それで「キングコング」の製作にかかるんだけど、そもそも「コンドル」の製作費を調達するために、ディノ・デ・ラウレンティスはアフマンと一緒に、プリセールスというやり方を開発するんだよ。

70年代、日本のインディ系配給会社はアメリカ映画を目指した

女の後輩 外国映画って、完成したものを買ってくるんじゃないんですか?

爺 確かにそういう買付が主流だったんだよ、この時期。でもそうも言ってられなくなってきた。というのは、「コンドル」も「キングコング」もインディペンデント系配給会社の東宝東和が配給したんだけど、従来こうしてインディ系の配給会社の主力商品はアメリカ映画ではなくヨーロッパ映画だったんだ。アラン・ドロンとかカトリーヌ・ドヌーヴ主演の恋愛映画とかサスペンス映画。

女の後輩 アラン・ドロンって、お父さんから聞いたことあります。とっても格好いいスターだったって。

爺 まだ生きてるがな(笑)。面食いの君が見たら、往年のアラン・ドロンのファンになること確実じゃよ。ともかく、ヨーロッパ映画を買い付けて、日本で公開してきた東和だけど、70年代に入ってアラン・ドロンの主演作もドヌーヴの映画もヒットしなくなってきちゃう。それに代わる商品が必要になって、アメリカ映画の新作を買おうとする。

女の後輩 でも、ハリウッド映画はメジャー系の配給会社があるから、彼らが扱うんじゃないんですか?

爺 その通り。でも東和はディノ・デ・ラウレンティスとイタリア時代から関係があった。それでラウレンティスが、これから製作にかかる新作映画の日本での配給権を買わないかと持ちかける。これを「プリセールス」と言って、ラウレンティスとアフマンが最初に始めたやり方なんだ。

女の後輩 でも、まだ完成していない作品にお金を出すわけですよね。完成しなかったり、出来上がったら当初の予定と違ったものになっていた、なんてことはないんですか?

爺 そのあたりは契約でしっかりと決めてあって、映画の完成を保証する保険があったりする。「コンドル」もオリジナル・タイトルは「3 days of Condor」だが、最初は「5 days of Condor」だった。2日分短縮されたわけだ(笑)。とにかくラウレンティスはプリセールスで製作費を世界中の配給会社から集めて、アメリカ国内の配給はメジャーのパラマウントに委託して、日本は東和が配給する。で、「コンドル」に続いてラウレンティスが放った大作「キングコング」の場合、製作費2500万ドル、東和がプリセールスで払った金額が100万ドル。さらに宣伝費として3億6000万円を費やし、東和は大勝負にでる。このあたりのことは「映画宣伝ミラクルワールド」という本に、詳しく載っているぞ。

女の後輩 その後アメリカ映画の大作を、そのプリセールスで買い付けるようになってくるわけですね。

「エマニエル夫人」を大ヒットさせたヘラルドは、
その利益を「地獄の黙示録」に出資する

爺 これは同じくインディペンデント系配給会社である日本ヘラルド映画や富士映画も同じ。プロデューサーや製作会社から、直接作品を調達していたんだ。

女の後輩 ヘラルドという会社は聞いたことあります。「エマニエル夫人」を大ヒットさせた会社ですよね。

爺 この間、TV番組でもやっていたけれど、その「エマニエル夫人」の配給権を、当時のヘラルドは100万円で買い付けたらしいんだよ。しかもこれはフラット。つまりプロデューサーに100万円を支払い、映画を公開して儲かった場合は、すべてヘラルドの儲けになる。

女の後輩 それは美味しいですね。

爺 映画が当たればね。「エマニエル夫人」の場合、プロデューサーが初めて映画を作る人たったから、方法を知らなかったのさ。で、「エマニエル夫人」は日本で配給収入15.6億円と大ヒット。その他TV放映権や諸々の権利を行使して、ヘラルドは大もうけ。なんと暮れと夏のポーナスが、それぞれ給料の10ヶ月分でたというのだから。

女の後輩 ボーナス2回で20ヶ月分!!!! ゆ、夢のようですう!!!

爺 それでも手元に現金が20億円残ったので、ヘラルドの古川社長はこのお金でフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」に投入する。この場合は製作出資と引き替えに、全アジア地区の配給権を獲得したわけだから、これもプリセールスと言えるだろうね。

女の後輩 凄いんですねえ。70年代から80年にかけてのインディペンデント系配給会社って。

爺 かなり冒険的なことをやっているんじゃが、それもこれもアフマンのような銀行家が映画製作に理解を示して、資金調達をしたからこそ、日本の配給会社もビジネスが出来たわけさ。

アフマンを語るバーホーヴェン監督の目に涙が・・

女の後輩 そのアフマンのプリセールスで資金調達した作品に「氷の微笑」「トータル・リコール」「ダンス・ウィズ・ウルブズ」「暴走機関車」「ターミネーター2」とかがあるんですね。大ヒット作ぞろいじゃないですか!?

爺 80年代に入って、キャノン、カロルコ、キャッスルロックといったインディペンデント系製作会社がアメリカに出てくるんだが、彼らのビジネスのバックボーンになったのは、映画館での興行もさることながら、ビデオだっんだよ。ビデオソフトとしてリリースすることで、予めリクープの目算が立つ。だからそれぞれの作品ではなくて、キャノンやカロルコといった会社への融資と見るべきだろうな。

女の後輩 そういうやり方をしたお陰で、たくさんの作品を作ることが出来て、それを世界中で公開出来たんですね。

爺 うん。映画の中に色んな人が出てきて、アフマンへの感謝を述べるんじゃが、やっばり一番感謝しているのは監督だよね。作りたいという熱意があっても、資金がなければダメなわけだから。ケビン・コスナーの「ダンス・ウィズ・ウルブズ」なんて、すべてのメジャー系スタジオに断られた案件だったし。

女の後輩 こういう銀行家の人って、もう現れないんでしょうかね?

爺 どうかなあ。今、アメリカ映画はメジャーが圧倒的な力を持っていて、キャノンもカロルコもなくなってしまった。まさしく中国のお金持ちに資金提供してもらおうと一生懸命じゃないかな。そんなタイミングでこの映画が公開されるというのはとても皮肉だし、単に80年代を懐かしむ以上の意味合いはあると思うぞ。

女の後輩 それにしても、さすがはご老体。配給会社の裏までご存じとは。

爺 ご老体って言うな!!

(企画・文:斉藤守彦)

    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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