『君の名は。』と62年前公開の『君の名は』3部作の相違

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(C)2016「君の名は。」製作委員会

現在、新海誠監督のアニメーション映画『君の名は。』が大ヒット中。革命的なまでに面白くも感動的なこの作品、新海映画ファンのひとりとして実に嬉しい限りですが……

キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.158

実は松竹にも『君の名は』という名の実写映画があることを、みなさん、特に若い世代の方々はご存知でしょうか?

銭湯の女湯をカラにした伝説のラジオドラマの映画化『君の名は』3部作!

松竹映画『君の名は』は1953年から54年にかけて作られた3部作の映画ですが、その前に原作となる菊田一夫・脚本のラジオドラマが52年4月10日から毎週木曜夜8時から放送されました(最終回は54年4月8日)。

1945年5月、東京大空襲の夜、焼夷弾が降り注ぐ中、たまたま出会って共に戦火の中を逃げ惑った氏家真知子と後宮春樹は、命からがら数寄屋橋までたどり着き、お互いに生きていたら半年後、それがだめならまた半年後に、この橋で会おうと約束します。

しかし、その後はお互い皮肉な運命のめぐりあわせによって会うことはかなわず、ようやく1年半後に再会できたとき、真知子は嫁ぐ前日で……。

ドラマはこの後もさらに続き、なかなか結ばれることのない真知子と春樹の苛酷な愛の運命が描かれていきます。

まもなく会えると期待させておきながら、なにがしかのアクシデントによって再会を果たせない、いわゆるすれ違いの連続で魅せるメロドラマの古典とされる本作、毎週木曜の放送時間になると、日本中の銭湯の女湯がカラになってしまうという(つまり当時の女性たちはみな、ラジオの前に集結しては耳をそばだて、真知子と春樹の悲恋に涙していた!)、おそるべき伝説まで残しております。

そして翌53年より、松竹メロドラマの名匠・大庭秀雄監督のメガホンで『君の名は』が映画化。

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キャストは真知子に岸惠子、春樹に佐田啓二。当時は新進若手俳優だった両者ですが、この苦難の連続ともいえる悲恋ドラマをあくまでも美しくも麗しく、そして気品高く演じきった結果、押しも押されぬ大スターとして戦後昭和の映画界を駆け抜けていくことになりました。

第1部(9月15日公開)は配給収入(映画興行収入から興行会社の取り分を引いた額)2億5047万円、第2部(12月1日公開)は前作を上回る配収3億2万円の大ヒットとなり、その年の日本映画興行ベスト1&2位を独占しました。
(なおこの時期の大人の封切映画入場料金は100円強。全国平均すると50~60円台の時代です)

翌54年の第3部(4月27日公開)も、配収3億3015万円で同年度の邦画興行第1位を計上。

3部作合わせての観客動員数は、およそ3000万人と言われています。

劇中、岸惠子がストールを肩からぐるりと一周させて耳や頭をくるませる、その巻き方は「真知子巻き」と呼ばれて、当時の女性たちの間で大流行したのも、ラジオドラマではなしえない、映画ならではの現象ではあるでしょう。

なお、この後も『君の名は』は62年から63年にかけて津川雅彦&北林早苗主演で、66年から67年にかけて伊藤孝雄&萩玲子主演で、76年には古谷一行&酒井和歌子主演で、そして91年から92年にかけて鈴木京香&倉田てつを主演のNHK連続テレビ小説として、テレビドラマ化されています。

戦争と3・11、ともに未曽有の惨禍を背景に作られた
“すれ違い”のドラマたち

このように、戦後間もない時代に大ヒットした『君の名は』のインパクトは相当なものがあったようで、そのせいか現在大ヒット中の『君の名は。』を、昭和実写版のアニメ・リメイクだと勘違いしている年配の方々も、意外に多くいらっしゃるようです。
(というか、『君の名は』をリアルタイムで見ていたうちの母親から先日、電話があって、「『君の名は』のアニメができたって聞いたけど、面白いのかい?」と聞かれて、あ、絶対勘違いしていると思ったら、案の定でした⁉)

では、実写メロドラマ『君の名は』3部作と、アニメーション映画『君の名は。』の相違点は? 

タイトルの後ろに『。』があるか、ないか、だけではありません! 

まずはどちらも、若い男女のすれ違いの恋を描いて大ヒットしているという点が共通しています。なかなか会えない2人ということでは、『君の名は。』の方はネタバレになるので記しませんが、実にファンタジックなすれ違いのシークエンスが用意されています。
(そうこう考えていくと、『君の名は。』のヒロイン三葉ちゃんが『君の名は』のように真知子巻きをしているシーンがあってもよかったかもしれませんね⁉)

もう一つ重要なのが、『君の名は』は先の戦争を、『君の名は。』は3・11東日本大震災を、それぞれ通過した世代が取り組んだドラマになっていることです。

どちらも国を大きく揺るがした未曽有の事態ではありますが、その惨禍から目をそらすことなく、どのように人は生きていくべきかを、前者はメロドラマとして、後者はファンタジーとして示唆していることを見過ごしてはいけないでしょう。

ここでふと思ったのが、松竹で『君の名は』第3部が上映された54年のGW、東宝は黒澤明監督の『七人の侍』を4月26日より公開していますが、その『七人の侍』が4Kリマスター版となって10月8日から「午前十時の映画祭」にて全国順次上映される予定となっています。

また54年の11月3日にはゴジラ映画シリーズの第1作『ゴジラ』が公開されました。そして現在、その第1作をリスペクトした『シン・ゴジラ』が大ヒット中です。

2016年の映画界は、1954年という日本映画が黄金期にさしかかろうとしていた時期の再来なのか?

こうなってくると、松竹も『君の名は』をリメイクしてみるというのも意外に面白いかもしれませんね……って、いまどきメロドラマがヒットするのかって? でも、神木隆之介くんと上白石萌音ちゃんを主演にキャスティングしたら、結構いけるかもしれませんよ!
(またそのときは岸惠子さんと、故・佐田啓二さんの実子・中井貴一さんの特別出演も必須でしょう!)

最後に、『君の名は』ラジオドラマの冒頭には毎回、昭和&平成のベテラン声優&ナレーターとして名を馳せた来宮良子さんの声で、このようなナレーションが語られていました。

「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ」

忘れたいのに忘れられない恋の哀しみを綴った『君の名は』の名文句、対する『君の名は。』は忘れたくないのにどうしても忘れてしまう哀しみを謳いあげていることから、どこか対象的にも感じられますが、いかがなものでしょうか?

(文:増當竜也)

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    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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