映画「マエストロ!」ティーチイン試写会・小林聖太郎監督公開質問|全文書き起こし(1/2)
当日は本作の監督である『小林聖太郎監督』にお越しいただき、シネマズのコラムニストでもある八雲ふみねさんの司会で、会場に集った映画ファンの方からの質問にお答えいただきました。
西田敏行さんや松坂桃李さん、そしてmiwaさんのお話など、様々な質問にユーモアを交えながら回答して頂き、会場は大盛り上がりとなりました。
その時の模様を全文書き起こしでお届けいたします。
映画「マエストロ!」ティーチイン試写会公開質問全編書き起こし
[八雲ふみね(以下・八雲)]
それでは会場から寄せられた質問を読み上げさせていただきます。まず最初の質問です。「撮影現場の中で、小林監督はまさに『マエストロ』の立ち位置で、個性派揃いの年上の俳優さんを1つにまとめるなど大変だったと思いますが、苦労話などがあったらお教え下さい」
[小林監督(以下・監督」]
ある面では『指揮者』に似ていたかもしれません。ただ『コンサートマスター』的な役割もありましたし、指揮者と立ち位置が完全に一緒かというと、そういう訳ではないと思います。撮影前に、楽器の合同練習を3回くらいやったんですが、とにかく人数が多くて…(笑)
楽団員の設定である俳優陣だけで17人もいましたし、プロのオーケストラの方が33人、練習場のシーンに毎回いるんです。この状況じゃ、常に役者さんが気を遣うだろうなと思いましたね。
というのも、例えば3人くらいの、家での食事のシーンだったりすると、俳優さんがちょっと疑問に思ったことがあっても「ここのところの感情がわからない」とか気軽に聞き出せると思うんです。でも、これだけ大人数の前でカメラ回すと、「いや…ちょっと違うかも」と思っても、なかなか撮影を止めて言いにくいじゃないですか。だから「混乱するかも…なんて余計なことを考えず、どんな細かなことでもどんどん言って下さいね」と俳優さん達に話していたのですが、これが本当に混乱しましてですね(笑)。
「しまった!もうちょっと抑えて言えば良かった」とすぐに後悔しました。
「明日の撮影のこのセリフなんですが」などと俳優さんが聞きに来られても「いや、明日のことは明日聞くから、順番に順番に〜!」みたいな状態で、幼稚園の引率の先生になった気分でした。質の面でも濃さの面でも、本当に色んな方がいらっしゃいましたから、大変と言えば大変でしたね。でも今、当時のことを思うとすごく懐かしいです。1年弱くらい前ですか、ちょうど3月とか4月頃に撮影していたので。
[八雲]
オーケストラの方々が演奏している姿を何らかの形で見ることがあっても、その裏側を見る機会はほとんどないように思います。そういった楽団の舞台裏が、それぞれの楽器とキャラクターを伴った描写がされていてとても面白いと感じました。実際の撮影でも、まさに俳優さん個々のパーソナリティが色濃く表れた現場だったと思われますが、いかがでしょうか?
[監督]
そうですね。何というか・・・濃い方ばかりだったので(笑)
[八雲]
本当に、俳優さんの個性が光る作品だったと思います。お答えいただきありがとうございました。では、続いての質問に参りましょう。「演奏している時の表情についでですが、気持ちが入らないと出来ない表情のように感じました。どんな気持ちで表情を作るようアドバイスなさったのでしょうか?」
[監督]
もちろん場面ごとに違ってくるので一概には言えませんが、下手すると、練習に練習を重ねて「やった!うまいこと弾けた!」で終わる可能性もあるんです。つまり、プロじゃない人が、プロのふりをする大会というか「あ〜良かった!プロに見えた」みたいな感じと言ったらいいでしょうか。でも、それじゃダメなんです。場面毎に、どのような気持ちでいるのか考えてないとヤバいですよね、と俳優さん達とも話をしました。全てを細かく言葉にした訳ではありませんが、それぞれが気をつけて芝居してくれたのではと、僕は思っています。
[八雲]
それはやはり、ちゃんと俳優さんが楽器をマスターしていたからこそ、監督も俳優さん達も納得の表情が作品に反映されたのでしょうね。
それではもう1つ今のお話と繋がるような質問をご紹介します。「俳優さん達が1年ほどかけて楽器の練習をして撮影に臨んだと伺いました。俳優さん達のモチベーションを保つために心がけたことはありますか?」
[監督]
松坂君が11ヶ月、約1年ですかね、ヴァイオリンの練習をしていました。モチベーションについては、完全に本人任せというか、役者なんだから練習して当然というか、冷たくつき離したようなところもありました。とにかく先生とみっちりやってもらって、逐一状況を聞くくらいでしたかね。でも、もしもの時のために、色々なセーフティネットは用意しておこうと。
例えば、弦楽器の左手ってすごく難しいので、万一に備えて、こっそりと吹き替えの準備はしておきました。でも、極力使いたくはなかったので、本人には言わずに「コンサートマスターがいちばん上手に弾けないと台無しですよね」と、色んなところからプレッシャーをかけて。
[八雲]
役者さんのタイプによっても、向き合い方やケアの仕方は変えましたか?
[監督]
音楽でもスポーツでも、練習が必要なものって、たくさん練習したからといって、費やした時間に比例して腕が上がるわけではないですよね。ビュッと伸びる時期があったり、停滞する期間があったり、階段〜踊り場〜階段みたいな曲線を描いて成長していくじゃないですか。どの時期に、どこでどんな段を昇るかってその人によって違いますから、それを頭に置いて見るようにしていました。
[八雲]
作品を作り上げるのに、俳優さんもスタッフの皆さんも、準備を重ねて重ねて、本当に大変な思いをされたのが伝わるエピソードでした。
続きまして、個々の俳優さんに関しての質問を読ませていただきます。「西田敏行さんが演じた指揮者について質問です。練習のシーンでは面白く、コンサートのシーンでは格好良かったのですが、指揮者というのは、そういうものなのでしょうか?それとも映画ということで、多少は誇張して描かれているのでしょうか?」
[監督]
デフォルメはしてますね。普通はトンカチを指揮棒代わりになんてしませんし。
あと、オーボエのリードを折るなんてシーンは、一番やってはいけない行為らしいです。オーケストラ界から追放されるくらいの大罪という…。でも指揮者って、門外漢にとっては正直何をしている人なのか良く分からないところもありますよね。今回、取材をさせてもらって色んなことが解りましたが、それまでは指揮者=謎の存在でした。
また、テレビやホールでオーケストラを観る時も、指揮者の指揮って演奏とあんまり合ってないように見えたりしませんか?何かこう、手を動かしてるけどリズムとズレてるとか、手を振り下ろした瞬間に演奏が始まるのかと思ったら、微妙なタイミングで音が鳴り始まったりとか。
あれは、色んなパターンがあるらしいのですが、楽団の中にはものすごいベテランやプロがいたりするんですよね。若い指揮者なんかより、何十回・何百回も多くその曲を舞台で演奏していて、もしかしたらカラヤンやバーンスタインといった指揮者とも演っている人もいたりします。
ですから「この音楽は、こうやるのがベストだ!」という哲学をみんなが持っていますから、指揮者さんとは「じゃ、この音楽を君はどういう風にやりたいの?」「僕はこんな感じでやりたい」的なやりとりを練習やリハーサルで詰めていくらしいです。そういった本番までの様子を、誇張気味に表現しました。
[八雲]
ありがとうございます。「佐渡裕さんが指揮指導・演技監修されたとの事ですが、その際に面白かったエピソードはありましたか?」という質問も来ております。
[監督]
西田さん演じる『天道』という指揮者が、いわゆる『○○メソッド』などに則るような人にはしたくなかったんです。かといって、明らかに嘘っぽい変な踊りを踊ってるだけの人間にもしたくなかった。僕は、映画として、知っててつく『大嘘』はついていいと思ってるんです。例えばトンカチを指揮棒にしちゃうとか。でも『間違い』はしたくなかった。あくまで狙いのある嘘をつきたかったんです。
撮影が始まる数ヶ月前に、佐渡さんと西田さんと僕の3人で顔合わせしまして。佐渡さんは映画が初めてでしたし、今まで指揮を教えることはあっても「こういう風に手を振りましょう」みたいな演技として『指揮の型』を教える事はなかったそうです。僕も西田さんも何も解らないし、その時期はもう、みんなで手探り状態でした。
例えば『運命』の冒頭はどのように指揮棒を振るかを考えた時ですが、原作では『1、2、3』と、ガンマンの決闘のように、たぶんゆっくりと声を出して、急に振り返るのですが、それだと演奏者は間延びした音を出さざるを得ない。で、最低限、『手を上げて下ろす』という明確なアクションがあれば音を合わせられるという話になり、そこからトンカチで叩くような指揮演技のアイデアが出てきました。
他にも、佐渡さんのアイデアで、直角定規をやじろべえみたいに揺らして『未完成交響曲』を表現しようとか。その指揮は結局使わなかったんですけど、色んな方が色んな提案をしてくれて、その中から使えそうなものを僕が選んでいきました。
[八雲]
西田さんのマエストロとしての動きは野性味に溢れていて、思わず見入ってしまいましたが、習得のスピードは早かったのでしょうか?
[監督]
1回目の顔合わせの時、急遽、佐渡さんに『運命』の基本的な指揮の流れを実演してもらってビデオに撮ることになったんですけど、パソコンで既存の音源を再生したんですね。そういう音源って、スタートボタン押してから3秒くらい間があるじゃないですか。あれが難しかった。佐渡さんと僕の息が合わなくて、佐渡さんがバッと腕を振り下ろしても音が鳴らない…みたいな(笑)何回も何回もやって、苦労したのを思い出しました。
[八雲]
「今回の西田さんのお芝居はアドリブが多かったのでは?」と質問されるお客様が多いのですが、実際その点はいかがでしょうか?
[監督]
アドリブはほとんどないですね。1カ所くらいかもしれません。文句のセリフで「チェロ!チェロチェロすんな!」ってところぐらいでしょうか。
というのも、西田さん扮する天道のセリフは大阪弁で、アドリブを思いついちゃうと、その場でほんの数分で西田さんが大阪弁のアクセント覚えなきゃならないので、自分の首を自分で締めることになりかねない(笑)基本、台本どおりでしたね。
テストの間に言いやすいように語尾を変えたり、語順を替えて言う程度のことはもちろんありましたが、ゼロからアドリブというのはなかったと思います。
(後編へ→ 映画「マエストロ!」ティーチイン試写会・小林聖太郎監督公開質問|全文書き起こし(2/2))
映画「マエストロ!」公式サイト
(文・シネマズ編集部/大場ミミコ)
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