俳優・映画人コラム

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2016年04月21日

「踊る大捜査線」などヒットメーカー本広克行を変えた演劇というフィールド

「踊る大捜査線」などヒットメーカー本広克行を変えた演劇というフィールド

先週の「いつも映画で見る顔たち“リアル亀岡拓次”」記事にでも触れたとおり、出演者では舞台と映像のボーダーはもはやないといっていいが、近年、ヒットメーカー監督が演劇の演出に進出している。もともとない話ではなかったし、逆に人気の舞台演出家がメガホンをとることもある。蜷川幸雄、三谷幸喜、唐十郎、前田司郎、赤堀雅秋などがぱっと上がるところだろうか。

近年もまた舞台へ進出する大物監督が続いている。

行定勲監督「タンゴ・冬の終わりに」、三池崇史実監督「地球投五郎宇宙荒事」、冨樫森監督「解体されゆくアントニン・レーモンド建築旧体育館の話」、堤幸彦監督「熱いぞ!猫ヶ谷!」「真田十勇士」、福田雄一監督「エドウィン・ドルードの謎」、大根仁監督「ヘドウィッグ・アンド・アングリーインチ」、宮藤官九郎監督「大江戸リビングデッド」などが近年の例としてぱっと上がる。そんな中でも積極的に舞台に進出している監督の一人が本広克行監督だ。

本広監督といえばなんといっても「踊る大捜査線」シリーズである。

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最近の邦画ヒットの公式=ドラマ発信でテレビ局と大手映画会社が組んで“劇場版”と銘打って公開されるものの象徴とも言える15年にわたるメガヒットシリーズだ。その制作体制だけで毛嫌いする人も多いことも確かだが、本筋シリーズにスピンオフを含めて計6作(うち5作品が本広監督作品)が公開され、興行収入で約500億円弱の興行収入を稼ぎ出したこの成果は他に類を見ない。

さらに「SP」シリーズの総監督も務め、こちらも野望篇・革命篇で約70億の大ヒットを記録している。

大ヒット企画のはざまで


そんな本広監督もヒット作を作り続ける日々の中で映画製作について思い悩む日々があったのだそうだ。そんな中劇団青年団を主宰する平田オリザの現代口語演劇理論を知り、演劇の世界に一気に演劇の世界にのめりこんだ。

“踊る”と“SP”にヒット企画の間に演劇作品に起因する作品を発表するようになる。2000年の「スペーストラベラーズ」は劇団ジョビジョバの「ジョビジョバ大ピンチ」が原作となっている。05年の「サマータイムマシン・ブルース」09年の「曲がれ!スプーン」はともに劇団ヨーロッパ企画の作品を原作にしている。そして転機を与えた平田オリザ原作の「幕が上がる」はアイドルグループももいろクローバーZ全員出演ということで、大きな話題を呼んだ。

また2大ヒットシリーズも影響が強くなり、メインキャストを支える面々は演劇畑の役者が一気に増えた。その流れで「踊る大捜査線2」の関連イベントとして、人気わき役キャラクタースリーアミーゴスによる「舞台も踊る大捜査線 ザッツ!!スリーアミーゴス」を舞台初演出作品として発表している。

出演者に聞く


幸いにも、本広監督作品に出演した演劇畑の俳優さんと知己を得ることができた。劇団モダンスイマーズの看板俳優古山憲太郎さんだ。

“踊る”では「交渉人 真下正義」と前日談スピンオフドラマの「逃亡者 木島丈一郎」に登場する寡黙な交渉課のメンバーで、“SP”ではドラマシリーズ終盤に登場し劇場版では主演の岡田准一と激闘を繰り広げる、謎のスナイパー役で登場している。ちなみに両作品には演劇畑出身者が大挙出演している。そんな古山さんに、新作舞台公演直前(4月22日から東京芸術劇場にて)にもかかわらず、二大ヒット企画への出演の経緯や本広監督の演劇愛について、体験談をいただけた。

以下、古山さんの体験談の一部である。


監督とは元々面識はなかったのですが、ある小劇場に出演した時にご覧になってくださっていて、後日、“踊る”シリーズのスピンオフ映画『交渉人真下正義』にキャスティングしてくださったとこから(本広監督とのご縁が)始まりました。

有名監督にもかかわらず作品のためなら有名無名にかかわらず自ら舞台に足を運んで自分で俳優を見つける。役に合えば無名の舞台俳優でもキャスティングしてくれる本当に舞台俳優にチャンスをくれるありがたいまるで漁師のような、寿司屋の大将のような、自分で足を運び、自分で味を確かめるカッケー監督です。当時、『フル(古山さんの愛称)、なんか面白い舞台ある?』と何度も聞かれました。面白いものは必ず自分の目で確かめる、アンテナの張り方。尊敬します。

僕は自分の劇団であるモダンスイマーズをひたすら押していましたが、(本広監督は)相当はまると探究していくタイプで、僕も監督が演出された舞台『Fablica』に2回出演させていただきました。

映画監督ならではの舞台空間の使い方、例えば、フィルムを巻き戻すように、逆回転で芝居をさせたり、お客さんには解らないマニアックな映画ネタを盛り込んだりとか(僕も『天国と地獄』の山崎努のモノ真似とかさせられて…)とにかく(本広監督は)本当に映画が好きでそれを職業にしているかっこいいオタク!だと思いました。

芝居に関しては基本的に俳優を信頼してくださって、こちらの意見を取り入れてくれたり、巨匠でありながら柔軟で優しく、でもかなり細かいところまで見てくれます。いつも何か試されているような稽古場でした。 何かを引き出すというより何かが出てくるまで試して試して、ひたすら待つ。こちらもセリフだけを言っているのではなくもっと深くシーンや役を理解し体現することを求められていました。

監督には娯楽作品のイメージがあったのですが舞台では淡々とした、染みる作品に仕上がっていました。酒を飲んだ席だったか(監督はそんな酒を飲みませんが)スタートレックとガンダムが特に好きで延々と熱く話していました。(※パトレイバーも大ファンでその熱が発展して「PSYCHO-PASS」シリーズに発展している。)

映画監督だからこそ生の舞台にはまったのだと感じました。演劇に愛があるというより、映画監督だからこそ舞台の素晴らしさを知ったのではないかと僕(古山さん)は勝手に思います。監督は、生である以上絶対に嘘がつけない『空気』をかなり大事にしていた。
また舞台やるときは是非参加させてください!と思っています。

2015年を経て


昨年の2015年の本広監督は総監督としてヒットアニメシリーズの完結編「劇場版PSYCHO-PASSサイコパス」と監督作品として「幕が上がる」を発表する一方で、舞台版「幕が上がる」を含む3本の舞台の演出をした。古山さんの言葉にも合った演劇愛とアニメ愛を大きく実らせた一年となった。

大ヒット企画を連発する時期から、演劇やアニメといった自分の嗜好をよりこく打ち出した時期を経て、今後本広克行監督が次にどういった手を打ってくるのか非常に楽しみであったが、今年の最初の作品は萩尾望都の名&カルトコミック「ポーの一族」を原案にした「ストレンジャー~バケモノが事件を暴く~」をスペシャルドラマとして投入してきた。主演はかつてメインディレクターを務めたテレビドラマ「蘇る金狼」(99年)の香取慎吾ときっちり固めてきたが、共演者を見ればTEAM―NACSの音尾琢磨、つかこうへいの実子で宝塚歌劇団の元トップ娘役愛原実花、無名塾出身の益岡徹、夢の遊眠社出身の段田安則がわきを固め、また「幕が上がる」のももクロから玉井詩織が出演している。

ヒット企画、演劇、アニメ、そして香川(さぬき映画祭のディレクターを第1回から務めている)。ふり幅が広がる本広監督、映画新作は今のところアナウンスがないが、次はどういう一手をうってくるか、以前とは違った視点で楽しみに待っている。

今回協力していただいた古山憲太郎主演&所属劇団モンダスイマーズ最新公演は4月22日から!!

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(文:村松健太郎

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