『相棒』和泉聖治監督の原点!『オン・ザ・ロード』奇跡のリバイバル!

[オン・ザ・ロード]ポスター ©ヒューマックスシネマ

テレビ刑事ドラマのイメージを大胆に塗り替え、10年以上の長寿番組と化し、劇場用映画3本も製作された(4作目も製作予定)『相棒』シリーズ。
そのメイン監督として多くのファンに知られて久しい和泉聖治監督ですが、彼の原点ともいえる映画がリバイバル公開されます……

キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.136

その名も『オン・ザ・ロード』。和泉監督の一般映画デビュー作です!

和泉聖治監督のキャリアと
『オン・ザ・ロード」ストーリー

和泉聖治監督は1946年9月25日、京都府の生まれ。父親は彫刻家・俳優・映画監督の木俣堯喬、実母は歌手の葉山瑛子、義母は映画監督の珠瑠美で、家の裏は東映太秦撮影所で、子どもの頃はよく撮影所に忍び込んでいたそうです。

若い頃はかなりのやんちゃだったそうですが、やがてジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』に魅入られ、意を決して上京し、父に師事しながら演出を学び、1972年にピンク映画『赤い空洞』で監督デビューを果たしました。

以後、70年代はおよそ50本に及ぶピンク映画を量産し続けていった和泉監督の念願かなっての一般映画デビュー作が、『オン・ザ・ロード』でした。

『オン・ザ・ロード』のストーリーは……白バイ警官の富島哲郎(渡辺裕之)が、ある日飲酒運転車の取り締まり中に誤ってスクーターに乗っていたファッションモデルの比嘉礼子(藤島くみ)にけがを負わせてしまいます。
見舞いに行きたいと申し出る富島を上司(室田日出男)は、彼女のけがは軽傷で「謝罪に行かれると、警察の責任を認めたことになる」と、許可してくれません。
数か月後、礼子の怪我が歩行障害が残るほどひどく、ファッションモデルを引退せざるを得なくなったことを知ってしまいます。

礼子は姉のさち子(秋川リサ)の運転する赤いスポーツカーで東京から鹿児島まで赴き、そこから故郷・沖縄に帰ることにしました。

それを知った富島は、彼女に謝りたいがために、白バイを走らせて後を追いかけていきます。

しかし、職務を放棄した富島を警察が許すはずもなく各地で大追跡が展開されていくのでした……。

IMG_20160603_134026 ©ヒューマックスシネマ

『相棒』に通じる体制批判と
青春ロームービーとしての醍醐味

白バイ警官の疾走を描いた『オン・ザ・ロード』には、体面ばかりを気にする警察機構の批判といった『相棒』にも通じる要素が巧みに散りばめられています。当初『相棒』のオンエアが開始されたころ、私はそれまでアナーキーな映画ばかり作り続けてきた和泉監督がなぜ刑事ドラマなんか撮るのか疑問に思っていたのですが、いざ見てみるとそれが警察組織をはじめとするさまざまな体制や社会に対する批判のメッセージをもって作られていることに気づき、この監督が『オン・ザ・ロード』以来、実は何も変わってないことに安堵したものでした。

また『オン・ザ・ロード』は、和泉監督が愛してやまないアメリカン・ニューシネマの象徴ともいえる『イージーライダー』のごとく、バイクで旅する若者の青春ロードムービーとしても見事に屹立しています。

日本そのものは狭い島国でも、実は縦に長いという特色を生かした、東京から鹿児島までの疾走がもたらす映画的カタルシスの数々は、それまでの日本映画になかった、まさにジャパニーズ・ニューシネマでもありました。

ヒロインの故郷が沖縄というのも、その意味ではどこか意味深で、沖縄が日本に返還されたのが72年ですから、さち子と礼子の姉妹は、その後およそ10年の間に夢を抱いて本土に渡ってきたのでしょうが、結局彼女らにもたらしたのは何だったのか、礼子の挫折は事故としても、劇中で一瞬触れられる姉さち子のキャリアには、何やら考えさせられるものがあります。
(その後和泉監督は86年の『南へ走れ、海の道を!』で沖縄を舞台にした本格ヴァイオレンス・アクション映画を撮っています)

そんな中、ただただ自分が怪我を負わせた女性に謝りたい一心でバイクを走らす富島の純粋さは、それが報われるかどうかといった打算的なことを度外視した映画的輝きに満ち溢れていて、またこれを本作が映画デビューとなった渡辺裕之が好演しています。

礼子役の藤島くみはモデル出身で演技は固いですが、それがはちきれるラストの彼女は必見。またさち子役の秋川リサも、本作に出演した80年代初頭から女優として本格的に始動していくことになりました。

また本作で忘れてはならないのが今は亡き名優・山田辰夫で、当時『狂い咲きサンダーロード』(80)で一躍注目を浴びていた彼は、本作で富島の疾走を知って彼に憧れるバイク好きなアンちゃんに扮し、劇中、とてつもないことをやらかしてくれます! このシーンは本作のクライマックスともいえる白眉たるものなので、未見の方はそれ以上の知識は入れずに接してもらいたいものですが、とにかく興奮で心も体も震えます。一言でいえば「スターだな」!

余談ですが、本作は1982年4月17日より全国松竹系の劇場で大林宣彦監督の『転校生』と二本立て公開されたのですが、その初日の打ち上げパーティの席で山田辰夫は大林監督と出会い、それからはるか時を経て大林監督のリメイク版『転校生 さよならあなた』(07)に出演することになりました。

IMG_20160603_133846 (1) ©ヒューマックスシネマ

日本一小さな映画館
シネマノヴェチェントの快挙

話を戻して、富島の疾走は果たして礼子のかたくなな心を溶かしてくれるのか否かがドラマの焦点になっていきますが、対に迎えるラスト、沖縄へ渡る客船を着けた鹿児島港にて繰り広げられるヒトコマのことを記すのは野暮としても、そのとき、あたかも映画の神様が舞い降りたとしかいいようのない“ある奇跡”が画面に映し出されます。これが何であるかも、ぜひ劇場の銀幕で確かめていただきたいところです。

本作ははるか昔にビデオ化こそされましたが、その後DVD化はされていないまま現在に至っていますので、長らく幻とされていた作品でもありますが、今回そのリバイバルに尽力したのが、今年1月に本サイト「ちょっくら映画館に行ってきました」でもご紹介させていただいた横浜市西区中央にある映画館シネマノヴェチェントです。

外観

客席28席という日本で一番小さな映画館ながら、フィルム上映にこだわれるだけこだわり、これまでにも数々のユニークな特集を敢行しては多彩なゲストを招いてのイベントも行い、日本全国から映画ファンが詰めかけるシネマノヴェチェントでは、今回のリバイバルのために有志を募って35ミリのニュープリントを焼いてもらい、上映を実現。ポスターワークなどもビジュアルデザイナー中平一史氏が手掛けたポスターなどビジュアル・ワークも当時の映画的空気感を再現させた優れもので、70年代映画ファンならニンマリすること請け合いです。

6月4日の初日には、和泉聖治監督と渡辺裕之を迎えてのトークショーおよびサイン会、そして懇親会も開催されます(そう、この映画館、上映設備のほかに、中がトラットリアバー&レストランにもなっているのです!)

(詳細はホームページまで)
http://cinema1900.wix.com/home

この『オン・ザ・ロード』、私的なことをつぶやかせていただけると、鹿児島出身の自分が上京して初めて劇場で見た日本映画であり、そのラスト、故郷・鹿児島の港で映し出された“映画の奇跡”に驚愕するとともに、日本映画の素晴らしさと可能性を改めて痛感させられ、今に至るまで日本映画にこだわり続けるきっかけにもなった記念碑的な作品です。

ぜひとも多くの映画ファンに、それこそ『相棒』で和泉監督の存在を知ったファンの方々にも、日本全国から集っていただきたい伝説的な名作です。

『オン・ザ・ロード』は、決して見て損はしません。

100パーセント保証します。

(文:増當竜也

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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