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2015年11月11日

松竹ヌーヴェルヴァーグの幕開け、大島渚監督の名作『青春残酷物語』がブルーレイ化!

松竹ヌーヴェルヴァーグの幕開け、大島渚監督の名作『青春残酷物語』がブルーレイ化!

■「キネマニア共和国」

2013年1月15日、世界に名だたる名匠・大島渚監督が惜しくもこの世を去って3年近くの月日が経ちますが、その人気は衰えることなく、特集上映や再評価なども留まるところを知りません。

そんな中、このたび彼の代表作の1本がブルーレイ化されました……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~ vol.56》

松竹ヌーヴェルヴァーグの幕開けとなった記念碑的名作『青春残酷物語』です!

社会に反逆する若き男女の
シニカルかつ無軌道な愛と青春


青春残酷物語 大島渚監督



『青春残酷物語』は、中年男にホテルに連れ込まされそうになった真琴(桑野みゆき)が、人妻と不倫の関係にある大学生・清(川津祐介)に助けられ、それを機につきあうようになったふたりが、やがて美人局で金を稼ぐようになるも、まもなくして真琴が妊娠し……といった若い男女のシニカルかつ無軌道な関係性の中から、既存の体制に対する反抗の念などが描出されていきます。

本作が公開された1960年は、国会で日米安全保障条約が強行採決された年であり、若者たちの反政府運動が激化していった年でもありますが、本作はそういった社会の機運とも巧みにマッチし、大きな話題を振りまくことになりました。
(本作の劇中にも、安保闘争の記録映像やデモ・シーンなどが収録。新聞やポスターなどの美術など、時代を彷彿させるものも多数映されています)

1954年に松竹に入社し、59年に『愛と希望の街』で監督デビューしたばかりの大島渚監督は、続く本作や、大阪のドヤ街を舞台にした『太陽の墓場』(60)をヒットさせ、同時期の新進若手監督・篠田正浩や吉田喜重らとともに、当時フランスで勃興していた映画運動に倣って生み出された“松竹ヌーヴェルヴァーグ”という名称を代表する旗手として台頭していきます。

太陽の墓場 大島渚監督



一方、それまでの松竹は明朗健全、庶民の涙と笑いをもって観客の心を癒し励ます“大船調”を身上としてきていましたが、そういったイメージが本作によって大きく揺るがされていくことで、激しく動揺していきます。

そして同年10月に安保闘争を題材にした大島監督の『日本の夜と霧』(60)が公開4日で上映打ち切りとなり、これに抗議した大島監督は翌61年に松竹を退社。以後、映画制作プロダクション“創造社”を設立して、独立映画活動を始めていくのでした。

日本の夜と霧 大島渚


2014年カンヌ国際映画祭で上映された
デジタル修復版を基にブルーレイ化!


とかく政治思想的な面ばかりが採り上げられがちな本作ではありますが、良家の子女的でなく、清く貧しく美しくでもない、若者の普遍的要素ともいえるギラギラした熱情や乾いた好奇心などが徹底してクールに描かれているあたり、青春映画そのものとしてのシャープなダイナミズムももっと語られるべきでしょう。

後に『砂の器』(74)『八つ墓村』(77)など野村芳太郎監督(彼は大島監督の師でもあり、松竹ヌーヴェルヴァーグに対しても寛大でした)の松竹超大作を撮ることになる名キャメラマン川又昂による映像の切り取り方が実に素晴らしく、特に開巻まもない木場で若いふたりが戯れるシーンは出色。細かくは書けませんが、クライマックスからラストの即物的映像美も、いつまでも悪夢的余韻を漂わせてくれます。

ニヒリズムの中に虚無的な個性を忍ばせる川津祐介の存在感、桑野みゆきの背伸びしつつも凛とした風情、ともに印象的で、また渡辺文雄や佐藤慶など後の大島映画の常連俳優たちが、ここで早くも個性を際立たせてくれているのも頼もしい限りでした。

なお、本作は2014年度のカンヌ国際映画祭クラシック部門で上映され、その際に制作されたデジタル修復版をマスターにブルーレイ化されました。

これまでにない高画質で若い男女の鮮烈な青春像が、再び平和安全法制が国会で強行採決されてしまった今年、2015年に蘇ったのも何かの因縁かもしれません。

大島映画の社会を見据える目線は、やはり永遠のもののようです。



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(文:増當竜也)

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