オッタヴィア・ピッコロさん、もしかしたら、あなたは……!?

7分間

(C)Goldenart Production S.r.l. – Manny Films – Ventura Film – 2016

第29回東京国際映画祭が開催されています。

今年も世界中のさまざまな秀作が上映されて盛況のようではありますが、それをよそに私は妙に慌ただしく(ただ単に、締め切りを守れていないツケが回ってきているだけ?)、10月27日現在、未だに上映会場に足を運べない状況です……。

まあ、この土日あたりで何とか数本くらいは見られるかと、今さらながらに国際映画祭の上映スケジュールを眺めていたら、ゲゲっとなってしまいました!

……あのオッタヴィオ・ピッコロが、コンペティション作品『7分間』上映に伴い、来日してるではないか!
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(C)Goldenart Production S.r.l. – Manny Films – Ventura Film – 2016

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.170》

オッタヴィア・ピッコロといっても、今の若い映画ファンの多くにはピンと来ないかもしれません。

ただ、私のような50代以上の映画ファンにとっては決して忘れられない銀幕の麗しきヒロインなのです。

その容貌は、『放課後』(73)の栗田ひろみと『エクソシスト2』(77)の頃のリンダ・ブレアを足して2で割ったような可愛らしさ!
(といっても、若い世代には余計通じないか……。森下愛子に似てるっていう人もいますが)

何よりも、『わが青春のフロレンス』(70)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞している名優なのです!

あのルキノ・ヴィスコンティ監督の一大名作『山猫』(63)にも、バート・ランカスター扮する主人公侯爵の三女役で出演しているのです!

そして日本では、何といっても映画史上に残るとされるアラン・ドロンとスタンリー・ベイカーの15分におよぶ決闘シーンが大いに話題になった快作活劇『アラン・ドロンのゾロ』(74)のヒロインを務めているのです!

などなどと、興奮ばかりしていても仕方ないので、ざっと彼女のキャリアを振り返ってみましょう。

1970年代前半を彩った
数々の名作

オッタヴィア・ピッコロは1949年10月9日、イタリアのボルツァーノ生まれ。62年のTV映画“Le Notti Bianche”で女優デビューし、翌63年には早くもルキノ・ヴィスコンティ監督の『山猫』(日本公開64年1月18日)に出演。ここでの三女カテリーナは父親によくなついている感じが愛らしくも巧みに醸し出されています。

この後、60年代後半はTV映画を主に活動していきますが、そんなオッタヴィアの名前を一躍世界的に轟かさせたのが、70年のマウロ・ボロニーニ監督作品『わが青春のフロレンス』(日本公開71年4月17日)でした。

彼女は66年の“Madamigella di Maupin”で既にボロニーニ作品に出演しており、おそらくはそのときの成果を認められてのヒロイン抜擢だったのでしょう。

19世紀末から20世紀初頭、ベル・エポック期のフロレンス地方を舞台に、労働者たちによる革命闘争に身を投じていく若者メテロを支える妻エルシリアを好演し、第23回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞。

続いて彼女は同じくボロニーニ監督の『愛すれど哀しく』(71/日本公開72年1月15日)に主演します。こちらは20世紀初頭のミラノを舞台に、男に騙されて娼婦にされた薄幸の女工の悲恋を描いたもので、エロティックな文芸ラブ・ストーリー路線に秀でたボロニーニ作品ならではの味わい。

愛すれど哀しく [DVD]

また同年、ピエール・グラニエ=ドフェール監督の『帰らざる夜明け』(日本公開72年9月30日)で、アラン・ドロンとシモーヌ・シニョレという二大スターと肩を並べる熱演を披露。フランスの美しい田園風景を背景に、片田舎に流れてきた脱獄囚を愛する未亡人と若きシングルマザーの情念を描いたものでした。

さらに71年はレナート・カステラーニ監督のテレビ・ミニ・シリーズ『レオナルド・ダ・ビンチの生涯』に出演。ダ・ビンチ(演じるは、65年の『黄金の七人』の教授役や、88年の日本映画『海へ〜See You〜』では高倉健とも共演している名優フィリップ・ルロワ)の生涯を追った伝記ドラマの中に、時折スーツ姿の進行役が登場しては解説していくユニークなスタイルの作品で、日本でもNHKで同年7月26日から全5話(合計337分)で放送されました。オッタヴィアは第1話に登場します。
(ちなみに、現在『ダ・ヴィンチ ミステリアスな生涯』のDVDタイトルでリリースされているものは、NHK放映版とは編集が異なる英語発声272分ヴァージョンです)

74年のエロも含むB級大好き職人アルド・ラド監督の『家庭教師』(日本公開74年12月7日)は、貧しい大学生と富豪の娘の悲恋を描いたもので、イタリア映画お得意の青春か性春か? といった要素や、時折妙にバタ臭いギャグが入ったりもして、さらには邦題に偽りあり! とツッコみたくもなる珍作ですが、「それの何が悪い!」と開き直りたくなる(だって可愛いし、ヌードは綺麗だし!)、オッタヴィア・ファンのリトマス試験紙ともいえる作品です。

そしてアラン・ドロンと再共演(『山猫』まで加えると3本目ですが)を果たしたドゥチオ・テッサリ監督作品『アラン・ドロンのゾロ』(74)が日本でお披露目された75年(7月15日公開)は、オッタヴィア・ピッコロの人気絶頂期であったような気もしています。とにもかくにも可憐なことよ! グイド&マウリツィオ・デ・アンジェリの軽快かつ爽快な音楽も話題になりましたが、その中で“愛のテーマ”ともいえるアコースティック・ギターの優しきメキシカンな調べも、印象的なまでにヒロイン=オッタヴィアに捧げられていました。

しかし、この後、オッタヴィア・ピッコロの出演作品はぷつっと途絶え、87年のエットーレ・スコラ監督による群集劇『ラ・ファミリア』(日本公開90年5月5日)まで日本での劇場公開映画はなく、さらには以降もスタンダールの名作をボロニーニ監督がテレビ・ミニ・シリーズ化した『パルムの僧院』(77)や、フランコ・アムリ監督によるイタリア版『ビッグ』ともいうべき、少年の体だけがいきなり大人になってしまう『ファンタスティック・ロマンス』(88・未/オッタヴィアは母親役)がビデオ・リリースされたくらいで、日本ではその後の消息を聞かなくなっていきました。

もう引退しちゃったのかな……。

正直、その存在も忘れかけていた2016年、東京国際映画祭コンペティション部門でオッタヴィア・ピッコロ主演『7分間』が上映されたのです!

いつのまにか少女は
イタリア映画界を代表する名女優へ!

『7分間』は実話を基にした同名舞台劇を原作に、実録マフィアものなどに定評のあるベテラン、ミケーレ・プラチド監督が映画化したもの。

その内容は、フランス資本に買収されたイタリアの繊維工場を舞台に、11人の組合従業員が300人の同僚たちの代表として、資本側のある提案(そのキーワードが“7分間”なのです!)を受け入れるかどうかを議論していくもので、そもそもはシドニー・ルメット監督の名作『十二人の怒れる男』(こちらも元々舞台劇の映画化です)をリスペクトした内容にもなっています。

(グアリーニ・レティツアさんのシネマズ記事も是非!
イタリア映画『7分間』と『五日物語―3つの王国と3人の女―』を徹底解説

オッタヴィア・ピッコロは舞台版でもヒロイン、ビアンカを演じていたとのことで……そう、彼女はずっと女優として映画やドラマ、舞台と旺盛に活動を続けていたのです! 現に海外のデータベースなどをググってみると、数多くの作品に出演していることがわかります。
(現在に至るまで、海外のさまざまな映画が多数見られる日本ではありますが、実はまだまだ未公開のものがいっぱいあることを、改めて痛感!)

実は私、この映画を情けないことにまだ見ていません。何せ彼女が来日することなど全然知らず、この映画についても特にチェックしていなかったのです。

しかし、メリル・ストリープ(ちなみに『マダム・フローレンス 夢見る二人』は快作です!)や審査委員長ジャン=ジャック・ベネックスの来日くらいは把握していましたが、まさかオッタヴィア・ピッコロまで日本に来るなどとは夢にも思っておらず(さらにいうと『ニキータ』のアンヌ・パリローも来日していた!)、もっと大々的にプレゼンしてよ映画祭事務局! と愚痴のひとつもいいたくなってきます。
(もっとも「お前がちゃんと情報収集していないのがいけないんだ!」と言われたら、何も言い返せませんけど。はい、確かにこちらの怠慢です……)

ただ、20世紀後半のイタリア映画界を逞しく生き抜き、それこそヴィスコンティやボロニーニなどの名匠たちを知る貴重な存在として、もっとリスペクトしてもいいのではないかという気もしてなりません。それこそ1時間くらいのトークショーがあってもいいのでは?
(まあ、そういうことを言い出すと、アンヌ・パリローもそうだし、じゃああの俳優は? あの監督は? みたいに収集つかなくなってしまうのでしょうけど)

さて、コンペ上映で『7分間』を見ることができた友人の映画ライター壬生智裕さんの話を聞くと、映画は素晴らしい社会派人間ドラマとして、実にスリリングで見応えのある傑作だったとのこと。

そして終映後はオッタヴィア・ピッコロと共演のアンブラ・アンジョリーニが登壇し、Q&Aが行われました。
(嗚呼、観客がうらやましい!)

その中で、ひとりの観客が彼女に質問しました。

「オッタヴイアさん、もしかしてあなたは……『アラン・ドロンのゾロ』に出演していた、あのオッタヴィオ・ピッコロさんですか?」

彼女は笑って返したそうです。

「そうよ! もう42年前のことだわ(笑)」

およそ半世紀前、麗しくも可愛らしいヒロインだったオッタヴィア・ピッコロは、今ではイタリア映画界を代表する名女優としてのオーラを場内に発散し続けていたようです。

「ビアンカは映画の中でみんなが決断を迫られる中で、ずっと“NO”を言い続ける女性ですが、実は本当にそれでいいのかと迷い続けています。それこそ42年前だったら周りに流されて“YES”と言っていたかもしれない。でも彼女は闘うことを学び続けてきたおかげで、今は“NO”とはっきり言えるようになったのです」

既に映画祭での上映は終わってしまった『7分間』、どうにか日本での劇場公開を強く望みたいところ。そして、その際はぜひオッタヴィア・ピッコロさんには再来日していただき、今度こそお目にかかりたいものです!

(文:増當竜也)

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    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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