小説と映画の素敵な共犯関係。読んでから見るか?見てから読むか?小説家 岩井俊二。

リップヴァンウィンクルの花嫁

(C)RVWフィルムパートナーズ

新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」が公開された岩井俊二。監督作品としては前作「ヴァンパイア」(12年)は日米カナダ合作だったので、日本で製作されたということでいえば、「花とアリス」(04年)以来の劇映画となる。

岩井俊二の名前が一般に大きく広まったのは「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」となるだろう。オムニバスドラマシリーズの一編だったこの作品は、テレビドラマ作品としては異例の日本映画監督協会新人賞を受賞。最終的に劇場公開にまで至った。

これと前後して「LoveLetter」(95年)「スワロウテイル」(96年)と連続して長編映画を発表。いわゆる“岩井ワールド”の熱狂的な支持を集めた。

岩井俊二には様々な顔がある。映画監督、プロデューサー、脚本、音楽、撮影、編集と映画周りのあらゆる部分にクレジットされる。庵野秀明「式日-SHIKI-JITSU-」(00年)ではカントクという役名で出演者として名を連ね、「スワロウテイル」の主題歌YEN TOWN BANDの「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」では作詞を担当している。

それ以外にもTVドラマ、ドキュメンタリー、CM、PVのディレクターとしても活躍している。そして、もう一つの顔が小説家としての顔だ。

岩井俊二はこれまでに8冊の小説を発表している(内一冊の「花とアリス殺人事件」は乙一の著作で、岩井本人のクレジットは原作)。その中には原作を担当した石井竜也監督作品「ACRI」(96年)から大きく発展した大作小説「ウォーレスの人魚」(小説発表は97年)もある。

処女小説「ラブレター」から「リリイ・シュシュのすべて」までは映画の内容をおおむねカバーしつつ、小説オリジナルのストーリー展開・キャラクターがさらに映画を補完するような形で登場する。例えば、「ラブレター」ではキーパーソンとなる中山美穂を好きになる中山美穂に好かれる(変な言い方だが本編をご覧いただければわかるかと・・・)青年藤井樹の描写深く描かれている。また豊悦演じる秋葉のエピソードも増えている。それは映画に先行して昨年に発売された小説版「リップヴァンウィンクルの花嫁」にも言えることだ。

唯一の非映像化作品「番犬は庭を守る」

映画「ヴァンパイア」の小説発売の半年ほど前、一冊の小説が発表された。「番犬は庭を守る」と題されたこの作品は、仙台出身の岩井俊二が“3・11”を受けて発表したもので、テーマはずばり“原発とSEX”。

もともと映像化を想定して執筆が進んだものの、やはり内容的なことが大きな障壁となったのであろうか、映像化はなされなかった。ちなみに岩井俊二は12年に「friends after 3.11 劇場版」というドキュメンタリーを監督している。

「番犬…」は原発事故が多発したことで、生殖能力を失った人類の姿を描いている。意外な偶然ではあるが、今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて特別上映されたキム・ギドク監督の「STOP」が同じテーマを扱っている。原発事故・放射能汚染に直面したとき、実は多くの人が連想したであろう事柄ではあるものの、このテーマは何とも目の向け方、言葉の仕方に詰まることも確かで、それを架空の土地・民族を設定しながらも、生々しく描いた大胆な小説となっている。

小説「リップヴァンウィンクルの花嫁」と映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」

さて、最新作である。両方を見ると(読むと)小説と映画は物語「リップヴァンウィンクルの花嫁」を紡ぐ両輪であることが改めてよくわかる。

黒木華演じる七海のエピソードが増えているところもあればバッサリと切られているところもあって、映像になるからこそ引き立つ部分と文字でじっくりとおった方良い部分が別々にあることが分かる。その一方で、謎めいた背景を持つ男綾野剛演じる安室は小説でも映画でも背景が深く掘り下げられないままを保たれている。ちなみに綾野剛の安室は岩井作品でいうと「ラブレター」の豊悦以来のコメディリリーフの立ち位置も担っていて、懐かしいキャラクターでもあった。

小説は300ページに及ぶなかなかの大作で、映画も3時間の上映時間があるが、どちらも長さを全く感じさせないものになっている。“幸せ”の在り方・とらえ方、物事の嘘と真実の両面、人の生と死と、社会との接し方となかなか重めなテーマを内包しているものの、重くなりすぎず、どこか軽やかな雰囲気が残されたままで、読み終わった時、見終わった時に小説を読んだ、映画を見た、物語に触れたと実感できた。

小説としては生まれ故郷仙台を震災に襲われ、タブー視されるテーマを扱った「番犬は庭を守る」を経ても変わらない岩井俊二を感じられた。映画はあの映像美を支えた名パートナー撮影監督の篠田昇を亡くした後であっても、“岩井俊二だ!!”とハッとさせてくれるもの多くあってうれしく感じた。良い意味で変わらぬ岩井俊二がそこにいて、それでいて、様々なことを乗り越えて成熟したオトナの岩井俊二が見ることができた。

かつて、角川映画が“読んでから見るか?見てから読むか?”という名コピーを生んだが、岩井俊二は本当の意味でこれが実践できる数少ない存在だろう。今や原作がある映画は洋の東西を問わず無数にあるが、映画の撮り手と原作の書き手が同じということが、しかもこれだけ複数回、20年以上続いていることは非常にまれである。それだけでも“小説家”岩井俊二の存在は貴重だ。

(文:村松健太郎)

    ライタープロフィール

    村松健太郎

    村松健太郎

    村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年目に入った映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方で各種記事を執筆。

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