『疾風スプリンター』とクールで熱い自転車映画たち

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

スポーツ映画というのは、常に被写体が動き続ける画面的な躍動に加え、必ずと言っていいほど熱いドラマが内在している。持ち前の才能を発揮する者と、努力を積み重ねていく者。葛藤があり、栄光と挫折が待ち受けていたり、強大な敵や、ライバルとの対峙。そこには最もシンプルで洗練された映画の姿があるのだ。
1月7日から封切られた『疾風スプリンター』は、自転車レースに命を懸ける男たちのドラマが描かれる。典型的なスポーツ映画の公式に当てはまる、突き抜けてエキサイティングな娯楽映画だ。

〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.14:『疾風スプリンター』とクールで熱い自転車映画たち>



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 香港の新鋭、と言っても90年代から現地では活躍していた作家だ。ダンテ・ラム。日本に紹介されたのは今世紀に入ってからで、その頃はアクション映画と、ラブストーリーのどちらもこなすイメージだったが、近年は『密・告・者』など、良質なアクション映画に傾倒している。

そんな彼が、この『疾風スプリンター』では、アクションと青春ドラマ、ラブストーリーのすべてをやってのける。台湾のプロチームに所属した二人の実力のあるレーサーが、互いに切磋琢磨しながらトップレーサーへと上り詰めていくのだ。同じ女性に恋心を抱き、それぞれがレーサーとしての壁にぶつかり、再起を図る。

ドラマ部分のオールドファッションな感動もさることながら、やはりこの映画の見所は幾度も登場するレース場面の緊張感だろう。ただ走っている映像を見せるだけでなく、細かい戦略がきちんと観客に伝わってくる点も優れているが、実際にエディ・ポンやショーン・ドウらキャスト陣はトレーニングを重ね、傷だらけになりながら撮影に臨んだだけあって、画面からは役者魂を超越した、気迫が溢れ続ける。

自転車レースを題材にした作品は、これまでにも数多存在し、最近ではスティーブン・フリアーズがランス・アームストロングを描いた『疑惑のチャンピオン』が記憶に新しい。もっとも『疾風スプリンター』のように、レースシーンにすべての興奮のピークを持ってくるという点では、ピーター・イェーツの『ヤング・ゼネレーション』を思い出してしまうのだ。

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『ブリット』や『ドレッサー』と並ぶ、ピーター・イェーツの代表作である本作は、インディアナ州の地方都市に暮らす4人の若者が中心に描かれる。彼らはその町で生まれた先住民の〝カッターズ〟と呼ばれ、同年代で大学に来るために他所からこの町に来た連中と対立し合っていた。

外の世界に憧れ、イタリアにかぶれている主人公のデイヴは、大学に通うキャサリンに恋をするが、自分の身分を偽って彼女に近付く。ある時参加した自転車レースで、イタリア人チームに妨害を受けてリタイアしてしまったデイヴは、イタリアかぶれを止めて、キャサリンに本当のことを打ち明けるのだ。

いわば、コッポラの『アウトサイダー』など、70年代から80年代にかけての青春映画ではおなじみの、対立した若者たちグループの諍いが中心にあるわけだが、あらゆる面で大学生たちに勝てないカッターズが、彼らに勝負を挑むのがクライマックスに訪れる自転車レースなのだ。

この自転車レースのシーンが実に緻密で手に汗握る。チームで交代しながら競技場内を200周するルールの中で、ひたすら走る自転車の引きのショットと、主人公の足元のショットを繰り返していく。多くのチームが走者の交代を行う緩急のつけ方に、終盤には最後の一周をワンカットで見せ切る。大勢がごった返している中で、誰も転倒しないし、主人公は軽傷を負うだけ。正真正銘、正々堂々とレースの結果だけで勝負を決める潔さが実にクールなのだ。

他にも自転車レースの映画といえば、シルヴァン・ショメの『ベルヴィル・ランデブー』(ほとんどツール・ド・フランスが物語に関係していないのがシュールだが)、高坂希太郎の『茄子アンダルシアの夏』といったアニメーション作品から、ドキュメンタリーまで幅広い。
もちろん、レース映画ではなくともデヴィッド・コープの『プレミアム・ラッシュ』や、馬場康夫の『メッセンジャー』など、何故だか自転車の映画というのは常に爽快感に溢れているのだから魅力的である。

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(文:久保田和馬)

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