60~70年代思春期少年の心を捉えて離さなかった清純派青春スター酒井和歌子

写真家『早田雄二』が撮影した銀幕のスターたちvol.33

現在、昭和を代表する名カメラマン早田雄二氏(16~95)が撮り続けてきた銀幕スターたちの写真の数々が、本サイトに『特集 写真家・早田雄二』として掲載されています。
日々、国内外のスターなどを撮影し、特に女優陣から絶大な信頼を得ていた早田氏の素晴らしきフォト・ワールドとリンクしながら、ここでは彼が撮り続けたスターたちの経歴や魅力などを振り返ってみたいと思います。

酒井和歌子
1960年代後半から70年代前半にかけて、東宝では気鋭の若手監督たちによる独自の青春映画路線が花開いていきましたが、その中で、快活なイメージで主役街道を上り詰めていった内藤洋子に比べると、酒井和歌子はどこか地味で控えめな印象だったようにも思えます。しかし、逆にそれゆえに多くの男性が「俺が守ってあげたい!」と奮起させるような、そんな魅力のオーラを実は兼ね備えていたようにも思えてなりません。

完全主義者の監督を戸惑わせるほどの
清純オーラの持ち主

酒井和歌子は1949年4月15日、東京都板橋区の生まれ。小学校4年生のときに劇団若草に入団し、日活映画『あいつと私』(61)『目をつぶって走れ』(62)などに端役で出演し、同時に少女雑誌『女学生の友』のモデルなども務めました。

64年、中学3年のときにスカウトされて東宝に入社し、『今日もわれ大空にあり』(64)で主演・三橋達也の娘役で出演し、以後『落語野郎・大脱線』(66)『落語野郎・大馬鹿時代』(66)『これが青春だ!』(66)と助演します。

この時期、東宝は星由里子や浜美枝など従来の青春スターが大人の女優へと脱皮していく中、内藤洋子と酒井和歌子を新たな青春スターとして積極的に売り出していきます。

もっとも最初の頃は『赤ひげ』(65)『あこがれ』(66)『お嫁においで』(66)など内藤洋子が主演クラスの作品を華やかに連打していく一方、酒井のほうは『レッツゴー若大将』『落語野郎・大爆笑』『クレージーだよ天下無敵』『続・何処へ…』『青春太郎』『でっかい太陽』(すべて67年)など、プログラムピクチュア路線の助演が続き、内藤主演『伊豆の踊子』(67)で共演するも、主役の陰に隠れた印象ではありましたが、逆にそういった地味な努力が認められて、67年度の製作者協会新人賞を受賞します。

酒井和歌子の転機は翌68年、『あこがれ』『伊豆の踊子』で内藤洋子の魅力を開花させた恩地日出夫監督の『めぐりあい』に始まります。ここで彼女は黒沢年男扮する自動車工場に勤める青年と純粋な愛を育んでいくヒロインを好演。

続いて巨匠・小林正樹監督が戦中派の忸怩たる想いを吐露した『日本の青春』(68)に助演しますが、このとき完全主義者の小林監督は酒井の清純なオーラに魅せられたか、現場でもひたすらてれまくって彼女に何も演技指導を施すことができず、同じく彼女の相手役を務めた黒沢年男から「小林監督は完全主義者じゃなかったのですか?」と突っ込まれるほどだったそうです。

この後、森谷司郎監督の『兄貴の恋人』(68)で貧しさゆえに加山雄三扮するサラリーマンの求愛を拒もうとするも、その活発な妹(内藤洋子)に諭され、その愛を受けいれる内向的な娘役。
同じ森谷監督の『二人の恋人』(69)では加山雄三扮する兄の亡くなった恋人と、それにうり二つの女性で、やがて品行方正な兄よりも不良っぽい弟(高橋長英)に惹かれていくヒロインの二役を、出目昌伸監督の『俺たちの荒野』(69)でもふたりの若者(黒沢年男&東山敬司)に愛されるヒロインを熱演し、大きくステップアップしていきました。

69年には『フレッシュマン若大将』以降、星由里子の後を受けて二代目ヒロイン節子役に就任し、70年には山本廸夫監督によるサスペンス映画『悪魔が呼んでいる』で初主演、71年には再び小林正樹監督『いのちぼうにふろう』に助演します。

その後、山本薩夫監督の超大作『華麗なる一族』(74)に大財閥の令嬢役で麗しく助演。そして豊田四郎監督の遺作であり市川崑が共同監督を務めた『妻と女の間』(76)では愛に溺れる人妻を演じるなど、この時期には青春スターから大人の女優へ脱皮をはかっています。

76年に東宝を離れてフリーとなり、78年の中島貞夫監督によるサスペンス・アクション大作『犬笛』では、愛娘を誘拐されて発狂する妻を熱演していました。

時代を経ても薄れゆくことのない
清純派スターのイメージ

もっとも70年代に入ってからの酒井和歌子はテレビドラマでの活躍のほうが目立ち、そもそも控えめで庶民的ながらも上品かつ清純な個性の持ち主でもあった彼女は、当時のお茶の間の、特に若い男性ファンの心をつかんではなさないものがありました。

特に学園青春ドラマの決定版ともいえる『飛び出せ!青春』(72~73)で彼女が演じたヒロイン本倉明子先生は、多くの10代思春期少年の心を捉えて離さないものがあり、高校に入学したらあんな素敵な先生がいてくれるものと、皆があらぬ妄想にふけったものです。

80年代に入ると、武田鉄矢が主演する人情&アクション刑事シリーズの第2弾『刑事物語2 りんごの詩』(83)のヒロインに酒井和歌子が抜擢されますが、これは武田鉄矢もまた10代の頃から彼女の大ファンで、自分が映画俳優となった以上はいつか共演することを宿願としていたからなのでした。

また84年には山下耕作監督による東映ヤクザ映画大作『修羅の群れ』で松方弘樹扮する主人公の妻を演じて異彩を放ちましたが、この後はしばらくテレビと舞台が活動の中心になっていきます。

ところが、21世紀に入って、『アイ・ラブ・ピース』(03)『県庁の星』(06)『アイ・アム I am.』(10)『旅の贈りもの~明日へ~』(12)と、パラパラとではありますが映画出演が徐々に増えてきています。

ここに至り、彼女がまた映画に対する興味を取り戻してくれているのだとすれば、こんなに嬉しいことはありません。武田鉄矢ではありませんが、彼女に想いを抱き続けるウブな男性陣は今も数多いのです。

(文:増當竜也

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

    ピックアップ

    関連記事

    新着記事

    言語を選択

    私と映画Vol.7 メニコン 田中英成社長
    金曜映画ナビ
    八雲ふみねの What a Fantastics!~映画にまつわるアレコレ~
    能條愛未の「乃木坂週刊映画」
    スペシャル 写真家『早田雄二』が撮影した銀幕の女神たち
    antenna

    人気記事ランキング

    シネマズ公式ライター

    • 大谷和美
    • 片平圭亮
    • 村松健太郎
    • 木村うい
    • とみだ嬢

    シネマズ公式チャンネル

    教えて goo

    情報提供元:教えて goo