オダギリジョー主演『Present for You』臺佳彦監督スペシャル対談・後編

八雲ふみね



はじめての方もそうでない方もこんにちは。

八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ Vol.8

今回は、臺佳彦さんとのスペシャル対談<後編>。

映画『Present for You』の撮影秘話について、アレコレ伺いました。

Present for You






Present for You


実写パートとパペットによるストップモーションアニメの映像とが混在する『Present for You』の世界。
最初の2年は、ストップモーションスタジオの立ち上げ作業。
その後1年かけて、3D技術のテストと習熟。
それから約1か月の実写撮影を行い、模型セットと人形の制作期間が約2年。
ストップモーション撮影に約2年半。
そして編集、コンポジット、サウンドなどの仕上げ作業に約100日。
それぞれの作業が追いかけっこするかのように同時進行しながら、5年の歳月をかけて完成しました。

日々、緻密な作業を繰り返す


Present for You


八雲ふみね(以下、八雲):映画の中で描かれている新橋の街もノスタルジックでいいですよね。
これは現在の街を再現したんですか?それとも、臺さんが好きだった時代を再現しようとしたんですか?

臺佳彦監督(以下:臺)両方混ざってますね。
新橋の街の写真を何百枚と撮ってきて、それをもとに作っていきました。
ガードがあって烏森神社があって…みたいな街のベースはきちんと残しつつ、いろんな時代を反映させながら、誰もが覚えがある街を作っていく。
そうすることで、新橋の街がもっともっと楽しいものに見えてくるといいなと思って…。

八雲:光の加減や映像の色味も、独特で味わい深かったです。

臺:それは、この映画で初めて生まれたものではなくて。
ヨーロッパでエドゥアルド・セラ(※)と一緒に「ドラゴン・クエスト」のCMをやってた時に、「僕が好きな色」っていうのを一緒に作っていったんです。
今回は、その色味に近いですね。
ただこの映画は3Dだから、3Dを生かす空間表現や光の使い方を意識しました。
例えば、部屋のセットも四角じゃなくて奥行きを表現するために敢えて台形に。
天井の蛍光灯もわざとワイヤーで吊るすことで、カメラの動きによって飛び出したり引っ込んだりして見えるように。
部屋の中にはわざと柱を立てて、そこにルームライトを二つ付けて明るくしてやる。
そうすると、柱の前と後ろで空間をはっきりと分けて認識出来るから、奥行きもより明確になるんですね。

※撮影監督。代表作に『髪結いの亭主』(パトリス・ルコント監督、1991年日本公開)、『真珠の耳飾りの少女』(ピーター・ウェーバー監督、2004年日本公開)、『ハリーポッターと死の秘宝PART1』(デイビッド・イェーツ監督、2010年公開)、『ハリーポッターと死の秘宝PART2』(デイビッド・イェーツ監督、2011年公開)など。

Present for You



八雲:なるほど。こうしてじっくり見ると、ひとつひとつのディテールが細かいですね。

臺:この部屋の中だけで、500個の作り物があるんです。
それをいろんな角度から撮影してみて「何ミリのレンズを使う場合は、この角度で撮ると不思議な雰囲気の映像になる」といった感じで、3Dならではの撮り方を見つけていきました。

八雲:じゃあ、最初から撮り方を決めていたわけではないんですね。

臺:うん、何度もテストを繰り返して。
最初は3Dで制作する予定はなかったんだけど、3Dの技術が自分たちがやりたいことに追いついてきたから。もちろん、それ以前から日本にも3Dチームはありましたよ。でも僕らが撮りたいものをちゃんと撮れるところまでは技術が到達してなかった。しかもアウトソーシングじゃなくて、自分たちでコントロール出来る環境でやりたかったからね。3Dについてのシミュレーションや機材の検証は、1年ぐらいやりましたよ。

Present for You



Present for You


八雲:パペットについては?

臺:人間と人形の肌の質感を近づけるにはどうすればいいかとか、数ヶ月ほどテストしましたね。
極端な話、人形っぽく役者さんにメイクしてもらえばいいんだろうけど、それでは却って不自然に見えてしまうから。
だから人形の肌の色を決めるのと同時に、それぞれの役者さんにどれくらいまで色を付けたら人形との差がなくなるか…という発想で。

八雲:確かに肌に着目すると、どちらが人間でどちらがパペットか、分からなくなるぐらいリアルです。
俳優さんのお芝居についてはどうですか?みなさん、自分がどのカットまでが実写で、どのカットからパペットか…なんて、分からないわけですよね。

臺:そうですね。でもそれだと俳優さんが困るから、3日ほどかけて「ここは実写」「ここはクレイアニメ」「ここは実写とパペットが混在」と、
シナリオ上で分割しました。
特に法則性はなく、僕のイメージの中で並べていって。
それと本編の撮影とは別に、パペットを人間らしく動かすためのガイドを作りました。
俳優さんたちと僕がカメラの前で動いてもらったものをガイド映像として、それをコマ送りしながら、アニメーターが作業すると。
そのおかげで、人間の動きも通常のアニメーションよりも人間らしく見えるし、人間からパペットに切り替わった時にもより自然に見えることに成功したんだと思います。

Present for You



臺:人形は当初はクレイで作ってたけど、耐久性を考えて途中でシリコンで作り直しました。
関節も曲がるし、指も動くんですよ。
あと顔の表情に合わせたパーツも口や瞼など、それぞれで30パターンぐらい作りましたね。
先に音声の編集をして、その母音に合わせてパペットの口のパーツをピンセットで交換していくんです。
瞬きもするから瞼や黒目もシャッターを切る度に変化させて。
ちゃんとリップシンクロしてるので、パペットが喋ってるように見えるんですよ。

Present for You



Present for You






やりたいことを追求して、答えをみつける


Present for You



八雲:こうしてお話を伺っていると、すべてにおいて、最初から答えを持ってプロジェクトを進めていったわけではないんですね。

臺:そうですね。最初から世界観や完成系のディテールを含めたイメージは持っていますが、やりたいことに近づくために、ここを検証しなきゃとか、あれもテストしなきゃとか。試行錯誤しながら答えを見つけていく日々でした。やりながら気付くことも沢山あった。
だって、誰もやったことがないわけだから。僕が最初だもん。

八雲:なんでこんなに大変なことをやろうと思ったんですか?

臺:クレイアニメーションは、日本でももっと誰かがやらなきゃいけないと、ずっと以前から思ってはいたんですよ。
イギリスのブリストルでクレイアニメをやった時に、気長に我慢強く作ってるスタッフたちの姿を見て、
日本にもクレイアニメーションを使った作品がもっとあってもいいんじゃないかって。
しかも人形が動いているように見えるのではなくて、人間が動いているようにしか見えない、
さらにエスカレートして、人間と区別がつかない…というところまでイメージが膨らんで。
で、実際にやってみたら「え、こんなに大変なの?!」って…。
でも、みんなに約束しちゃったからさ。

八雲:約束?

臺:最初に出演オファーをしたとき、オダギリさんたちに言ったの。
「大丈夫、頓挫しませんから。最後まで作ります」って。
約束したから、もう途中で投げ出せないなって(笑)。

八雲:「もう投げ出せない」って、自分にも言い聞かせながら?

臺:言い聞かせ続けたよ。
だって、もうちょっと早く撮れると思ったもん。
1日に撮影出来る尺って、せいぜい3秒から5秒分だからね(笑)。
そこからも分かるように、クレイアニメーションは、とにかく時間とお金がかかる。
CGで作ればもっと簡単に出来る部分もあるじゃないですか。
もちろん、CGにも良いところが沢山あるけど、クレイでしか出せない “味” も絶対あるわけで…。
世界に向けて発信するニッポン・オリジナルのストップモーション作品を作りたかった。
それで結果、5年かかった。
「ここまでしか出来なかった」という気持ちもいっぱいありますけど…。

八雲:今後の新作は?

臺:この夏、「The Planet of Stray Cats」のDVDがワーナー・ホーム・ビデオからリリースされます。
『Present for You』も「The Planet of Stray Cats」も “おとなのアニメ” と位置づけていて、
おとなが見て、クスクス笑って、何度も見たくなるものを目指して作りました。
世の中、“おとなっぽいモノ”が僕的には足りない気がして。
最近、またちょっと増えてきてるけどね。
みんなが同じものを見て、同じことに感動して、そこからはみ出た人はみんなで叩いて…というのは、あまり好きではないんですよ。
いろんな感じ方をする人がいた方が、世の中は面白くなるんじゃないかな。
そういう意味でも、この国に「おとな」なモノがもっと増えてほしいと願っています。

Present for You






私が初めて臺さんとご一緒させて頂いたのは、アニメ「The World of GOLDEN EGGS」のDVDリリース記念イベントの時。
「アメリカの地方都市に似た雰囲気を持つ街・Turkey's Hill(ターキーズ・ヒル)から、住人たちが来日した」という設定で、プレスを招いて、「Turky Paradice Orchestra 来日記者会見 Japan Premire」をやってのけたのです。
数々の映画イベントで司会を務めさせて頂いてますが、私の中では今なお「記憶に残るイベント・ベスト3」に入っています!
このコトからもお分かり頂けるように、臺さんはオリジナリティ溢れるアイデアの宝庫。
遊びゴコロとちょっとした毒っ気を合わせ持つ、魅力的な「おとな」。
そんな臺さんだからこそ作り上げることが出来た、映画『Present for You』。
誰も体験したことがない世界観を是非、映画館で味わってみてください!

Present for You



・オダギリジョー主演『Present for You』臺佳彦監督スペシャル対談・前編はコチラ




Present for You

臺佳彦
1960年生。鳥取県立米子東高等学校卒。横浜国立大学建築学科設計意匠卒。広告代理店ADK在職中はCMプランナー・プロデューサー・CMディレク ター。フリーランスを経て、2001年株式会社プラスヘッズ設立。ドラゴンクエストシリーズやファイナル・ファンタジーシリーズのTV-CMの企画演出。

2004年からPLUSheadsオリジナルコンテンツの企画制作をスタートし、クリエイティブディレクター・プロデューサーとして、アニメ「The World of GOLDEN EGGS」シーズン1&2 を制作。2009年、スーダン ダルフール紛争をテーマにしたスペイン・オランダ合作映画「SING FOR DARFUR」を日本国内で配給し、全国の大学でリレー試写会を開催。2010/2011「大阪創造取引所」アワード審査委員長。2012~「ナレッジ キャピタル うめだきた グランフロント大阪 キュレーションコミッティ」メンバーを勤める。2009年から映画「PRESENT FOR YOU」の制作をスタート。3Dでのストップモーション撮影スタジオも同時に設立。

Present For You


Present for You

2015年2月7日から新宿バルト9ほか全国3Dロードショー
監督・脚本・プロデューサー・ステレオグラファー・撮影監督(パペットアニメーションパート):臺佳彦
キャスト:オダギリジョー、風吹ジュン、青木崇高、佐藤江梨子、藤木勇人、永島暎子、山田麻衣子、石丸謙二郎、夏八木勲、柄本明 ほか
©2013 PLUSheads inc.

・「Present For You」公式サイト

八雲ふみね fumine yakumo


八雲ふみね

大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。

八雲ふみね公式サイト yakumox.com

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