美しくも勇気ある映画『草原の実験』は 見逃し厳禁たる今年の大収穫!
昨年度の東京国際映画祭に、ある衝撃が走りました。
もはや映像美などという言葉すら空々しく思えるほど神秘的に美しいその映画は、クライマックスで究極とも言える美を描出します。
少なくともこの世で生きている間、決して見たくはない美を……。
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.30》
ロシア映画『草原の実験』は、映画ファンならば今年絶対に見ていただきたい傑作……いや、そういった美辞麗句もどこか不似合なほどに繊細で美しい作品です。
台詞を一切排し、画で雄弁に語る壮大な実験作
およそ96分のこの映画には、台詞が一切ありません。
もっともサイレント映画というわけではなく、風や雨など自然の物音や、もちろん音楽もあります。登場人物の泣き声や笑い声なども聞くことはできます。
ただし、言葉による説明はまったくありません。
これはいまどきの映画として、非常に勇気ある行為でもあります。
ストーリーそのものはシンプルです。
おそらくはカザフスタンを想定しているのであろう(撮影そのものはウクライナのクリミア半島フェオドシア)、広大な草原の中で、1本の樹に見守られるかのように小さな家で父と娘がひっそりと生活しています。
娘の名はジーマ(台詞がないので、そう名乗ることも名乗られることもないのですが、宣材にはそう記されています)。
年頃のジーマに、地元の朴訥な青年と、ロシアから来たと思しき金髪の青年が言い寄ってきたことから、ちょっとした三角関係が始まります。
やがてその確執は徐々に激しさの度を増していきますが、大自然はそういった彼らの衝動などもすべて覆い尽くすかのように見守るのみです。
ここまで記すと、邦題はありきたりながらも『草原の少女』とでも命名するのがふさわしいのかもしれません。
しかし、大草原の静けさの中、次第に不穏な事態が彼女たちの前に押し迫ってきます。
邦題が示す“実験”とは何か?
あえて記しませんが、大方の想像はつくはずです。
(そもそも、この作品自体が壮大な実験作であるともいえます)
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