快作『空飛ぶタイヤ』監督による、傑作時代劇『超高速!参勤交代』の魅力
(C)2014「超高速!参勤交代」製作委員会
6月15日より公開される本木克英監督作品『空飛ぶタイヤ』は、トレーラーのタイヤ脱輪事故の真相から現代社会の縮図や闇が見えてくる社会派エンタテインメントとして、大人の観客に大いにお勧めしたい快作です。
公開を記念して、今回は本木監督による反骨精神みなぎる傑作時代劇コメディ『超高速!参勤交代』をご紹介したいと思います。
上からの理不尽な命令に挑む
小藩一行の心意気!
『超高速!参勤交代』は2011年の第37回城戸賞において、何と審査員全員が満点を出した土橋章宏のオリジナル脚本(2013年には小説化)を2014年に映画化したものです。
時は江戸時代、徳川八代将軍吉宗治世下の享保20年(1735年)、陸奥国磐城の湯長谷藩の第4代藩主・内藤政醇(佐々木蔵之介)は1年の江戸勤めを終えて、ようやく故郷へ帰国しました。
ところがその直後、藩が所有する金山の調査結果に疑義があるとして、事情説明のために「5日以内に再び参勤せよ」との命令が江戸幕府老中・松平信祝(陣内孝則)から下されました。
これは無理難題をふっかけて藩を取り潰し、金山を我が物にしようと企む信祝の謀略でした。
小藩の湯長谷藩は4年前の飢饉の影響や、そもそも参勤を終えたばかりで、今は蓄えが全くありません。
しかし政醇は家臣と領民を守るために、あえて理不尽な参勤の命令を受け入れ、総勢8名で江戸に向けて出発します。
一方、信祝は一行を亡き者にすべく、忍び衆を刺客として放ち……。
このように、本作は上からの無理難題に右往左往させられながらも真摯に対峙する人々の勇気や知恵を面白おかしく、そしてダイナミックに描いた時代劇ですが、それは現代社会の組織構造とも何ら変わりはなく、時を超えた21世紀の観客に対しても他人事ではない感情をもたらしてくれます。
果たして、たった5日間で湯長谷藩一行は江戸に到着できるのか?
しかも、敵の罠が幾重にも仕掛けられている中、彼らはどうやって突破していくのか?
こういったスリリングな駆け引きと、そこに伴うアクションの醍醐味、そしてユーモラスで温かみある情緒を忘れることなく、まさに疾風怒濤のごとく駆け抜けていくエンタテインメント快作、それが『超高速! 参勤交代』なのです!
日本映画を好きにさせてくれる
本木克英監督作品
本作は2014年6月21日に公開されるや、興収15.5億円を計上する大ヒットとなりましたが、やはり現代性を帯びた内容に、日本中の観客が興味を示したからと推察されます。
また本作は第57回ブルーリボン賞作品賞を受賞するなど質的にも大いに評価されるとともに、以後、日本映画界に時代劇映画の製作を定例化させる大きなきっかけにもなった感があります。
本作自体、2016年にはまさかの続編(!?)『超高速!参勤交代リターンズ』が製作されましたが、こちらも上々の出来として大きな評価を得ています。
もうひとつ、本作の魅力を語る上で忘れてはならないのが、キャストの魅力でしょう。
集団劇としての要素も大いに併せ持つ本作は、貧乏小藩の悲哀を微笑ましく忍ばせた気のいい殿様・政醇役の佐々木蔵之介はもとより、西村雅彦や寺脇康文、上地雄輔ら家臣役の面々の個性も遺憾なく発揮されています。
対する黒幕・松平信祝役の陣内孝則は、文字通りの悪役を嬉々として怪演。
老中首座・松平輝貞役の石橋蓮司のいぶし銀の魅力も特筆もの。
そして政醇が旅籠で出会う飯盛り女お咲役で堂々ヒロインを務めた深田恭子は、この作品あたりから穏やかな情感を自然に発露させる女優として、大いにステップアップを果たしたようにも感じられる好演でした。
こういった多彩なキャストをまとめあげながら、時代劇として、コメディとして、アクションとして、そして社会風刺と反骨精神を忘れることなく、それでいて力むことなく飄々としたエンタテインメントを構築した本木監督の熟練の演出は、もっと評価されてしかるべきかと思われます。
また、新作『空飛ぶタイヤ』を見ることで、改めてその力量に唸らされることでしょう。
日頃日本映画を見ない人も、これを見ればきっと日本映画が好きになる! 常にそう思わせてくれるのが本木克英監督作品なのです。
[2018年6月15日現在、配信中のサービス]
(文:増當竜也)
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