映画コラム

REGULAR

2015年10月07日

モントリオール映画祭が分断?幕末なのにプリクラ? 『合葬』小林達夫監督独占インタビュー

モントリオール映画祭が分断?幕末なのにプリクラ? 『合葬』小林達夫監督独占インタビュー


モントリオールを真二つに分けた “あのシーン”を語る


―― 実は、それを強く感じたシーンがありました。極と柾之助が属する彰義隊のメンバーが、深川の別邸(遊郭)から出てくるところなんですけど、それまでの劇伴は幻想的な曲だったり、和風な音楽だったのに、いきなりそのシーンだけ英詞の楽曲が流れたんですよね。

で、若い志士達の顔が薄明かりに照らされて、ゆっくりと歩いて行く…みたいな感じだったと思うのですが、それがまた『青春』を象徴しているように思えたんです。いつもは殺伐としている隊員も、やっぱりティーンエイジャーなんだな〜と折にふれるリアルさがありました。

あのシーンは、作品の中でかなり目立っていましたが、監督として何か意図はあったのでしょうか?

小林監督「そのシーンはモントリオール世界映画祭でも賛否両論でしたね。自分が知っている範囲だと、地元カナダの批評家の方からは違和感を表明されましたが、国際批評家連盟のヨーロッパの批評家からはウケが良かったみたいです」

―― 私、あのシーンが一番好きです。評価が割れたのは地域性の問題かな。

小林監督「地域というより、それぞれの方の映画観による部分だと思いますが」

―― やはり監督としては、あのシーンで何かを見せたかったのでしょうか?

小林監督「上手く言えるか解りませんが、伝統的なものを描こうとする時に、作り手の態度がどこまで伝統的であるべきかというのは、つきまとってくる問題だと思うんですよね。例えば時代劇の音楽を、全部和楽器で作ることもありますし、テレビ版の座頭市のシンセ使いなんかは見事ですよね」

―― 欧米の時代ものでも、平気でテクノがかかったりしますしね。

小林監督「打ち込みの音もリズムや音色から、人によっては特定の年代を想起させますよね。使っている機材まで分かったり。音楽の受け取り方は本当に人それぞれなので、ここではシーンの意味として『嫉妬が入り混じった多幸感』をどう自分なりに伝えられるかを重視しました。

『合葬』の原作者である杉浦さんは(江戸風俗研究家でありながら)現代美術への造詣が深かったり、洋楽の熱心なファンでもありました。懐古主義的な文脈で『江戸』というものを取り上げて、その仕事が評価された訳ではないですよね」

―― その通りだと思います。

小林監督「当時のカルチャー/サブカルチャーの先端として、(杉浦さんは)あのような表現をされていたと思うんです。紙(マンガ)なので音は聞こえませんが『杉浦さんだったら、こういう音を鳴らしただろうな』という部分もあったりしますし。その辺りもヒントにしつつ、今回の映画に必要な音を考えて音楽を作ったつもりです」

複雑な状況や背景も、画一枚で見せる腕


―― 彰義隊の隊員たちは、ある面では抑圧された生活を送ってきたと思うんです。その中での本当に青春らしいところを凝縮した素晴らしいシーンでしたが、モントリオールではそんなことがあったのですね。他にも、青春という意味では大好きなシーンがあるんですけど、私の感想も含めてお伝えしてもいいですか?

小林監督「はい、どうぞ」

―― 柾之助が留守の間に、他のメンバーがご飯を全部食べちゃって、カチンと来た柾之助が極に掴みかかるシーンがありましたよね。セリフは殆どなかったのですが、そこも青春がギュッと詰まってる感じがしたんです。だって、彰義隊って15〜20歳くらいの集まりだったって話じゃないですか。

小林監督「主人公の3人は17歳という設定ですね」

―― 江戸の少年たちは、寿命とか時代背景のせいもあり、現代の同世代よりも精神的に大人だと思うんですが、そうは言っても10代ですから、やっぱり子供なんですよね。そういう「不安定な危うさ」みたいなところを、説明ゼリフ一切なく描き切っているのは、やっぱり監督の腕だと思いました。

小林監督「ありがとうございます」

―― しかも柾之助は、悲惨な過去にフタをして生きてますよね。でも、頭では忘れたつもりでいても、細胞や潜在意識にはしっかり積もっているはずなんです。その堆積したものがふとした拍子に、何かがトリガーになって暴発することもあるじゃないですか。それが飯を食われたことだったのかなーと感じました。

小林監督「戦争の前日の出来事ですよね。食事から夜の(戦の)準備までの一日を描いたシーンなんですけど、かなり急に攻めこまれたなって思うんです。確かに、色んな予感とかはあったと思うんですよ。仕事が徐々に減ってったりとか、薩長とのぶつかりが激しくなってたりとか…。そういう予感が募る中で、柾之助がキレたんです。きっと、極たちの殺伐とした空気が、一つの緊張状態を生み出していたんでしょうね」

―― 本当にそうですね。その頃のそういった状況を、現代人である観客に見せるわけですから、説明ゼリフがないと絶対に苦しいはずなんですよ。でも、映像だけで自然に状況を伝えられる監督の技量は、やはり素晴らしいと思います。

小林監督「いや〜。役者さんの役作りとかも、凄くあると思うんですよ」

―― もちろんあると思います。ただ、小林監督の見せ方は、凄く的確だなって思うんですよ。柾之助は、三色団子を咥えながら登場するんですけど、観客は「この人はこういうキャラなんだ」って、余計な説明がなくとも伝わりますよね。子供でもわかる、明快な画として観せてしまうあたりに、卓越した映像センスを感じずにはいられませんでした。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!